Sakura0904
かつてこんなにも「愛」について考えさせられた作品があっただろうか。そう思い返してみて、少なくとも私はこの作品以上に考えさせられた作品には出会ってないかもしれないなと思いました。暴力や支配は愛かと聞かれれば、多くの人は違うと答えるでしょう。ですが、それらを引き起こす嫉妬や執着、独占欲を、愛から切り離せる人もいないでしょう。愛していれば、自然と湧き上がるそれらの感情。それが結果的に相手に対する暴力や…
この物語の苦しいところは、主人公のジェルミだけではなく、彼の周りにも実はいろんな複雑な事情を抱えて生きている人がいるところだなと、この巻を読んで改めて思いました。悲劇的な1つの作品に入り込んでいると、どうしてもその主人公が、世界で一番不幸な人間に思えてくるものです。ジェルミ自身も、そういう思いを持っていると思います。だけど、自分よりはマシな人生を送っていそうに見える他人も、けっして自分より苦しん…
まさかあの写真を再び掘り返してジェルミに突き付ける時が来るとは思わなかったので、驚くと共に非常にハラハラしました。確かに、お前の痛みに二度と目を瞑らないと言っておきながら、イアンが真にジェルミの苦痛に向き合ったことはなかったのかもしれない。それはもちろん、ジェルミにトラウマを思い出させたくないという気持ちがあるからでもあり、もう半分は、自分の実の父親の狂った言動や考えに真正面から向き合うのが怖か…
ジェルミとの一夜を金で買う真似までしたイアン。恋人のように愛したいのに、ジェルミはけっしてそうさせてはくれず、頑なに金を払えと言う。もちろん、彼は本当に金なんかが欲しいわけでない。ボストンでは必要だったかもしれませんが、今は必要ないのですから。それでも彼がイアンとビジネスの関係であり続けようと徹底した態度を貫く理由は何なのか。
愛は割に合わない、というジェルミの言葉。言葉通り、単に煩わさ…
グレッグがジェルミにした仕打ちを認め、もう一度彼の痛みと正面から向き合い、彼の生活を立て直したいと思い詰めるイアン。真っ当に生きてきた人間の、真っ当な感覚だと思います。リンドンはそれはイアンの単なる偽善やエゴだと言うけれど、実際ここまで堕ちてしまったジェルミが再び人間らしい生活を送れるようになるためには、強引な説得と経済力が必要だったと私は思います。
どんなに自分だけはしっかりしていると…
とうとうイアンにすべてを告白したジェルミ。この文庫本が10巻であることを考えると、まだ折り返し地点に過ぎない上に、彼がグレッグと出会ってからまだ半年程度しか経っていないというのが信じられないほど、これまでの出来事があまりにも長いことに感じられてしまいます。楽しいことはあっという間だけれど、辛く苦しいことは実際の5倍も10倍も長く感じる。ジェルミ本人にとってはどれほど長い苦痛だったでしょうか。数年…
とうとう1巻冒頭のシーンに繋がる経緯を知ってしまいましたね。あの僅かなシーンの台詞だけで十分予測できてしまうので、心の準備はできていると思っていましたが、やはり実際にジェルミの行動を追いながら読むと、とても緊張せずにはいられない、痛ましさと深い悲しみに胸を突き刺される展開でした。本当に、運はいつも彼に味方をしてくれない。どうして、サンドラまで…。でも、たとえ相手が大罪人であっても、人を殺すことを…
ジェルミに人に相談する選択肢がやっと出てきて、ほんの僅かですがほっとしました。といっても彼自身の素性をまったく知らない第三者ですから、直接的に解決できることはほとんどないのだけれど。それでも、オーソン先生との対話は、少なからず彼の心を整理したでしょう。先生と共に過ごせた時間はあっという間でしたが、同じ絶望を知っているらしいバレンタインや、美しいオルガンの音を聴かせてくれるナディアとも知り合い、一…
せっかく全寮制の学校に入学できても、週末には家に帰らないとグレッグの手酷い仕打ちが待ち受けている。ジェルミに心落ち着ける場所はないのでしょうか。新しく彼の兄となったイアンは女癖が悪いながらもジェルミやマットを邪険にしているわけではないし、現実的で、家族と上手くやっていきたい気持ちはある、普通に感じの良い青年。文句を言いながらも、なんだかんだ毎回ジェルミのことを気にかけてくれていて、元々面倒見の良…
やはりこの年代のこういうジャンルの作品は、本当に重厚感があっていいですね。一言で面白い!と言ってしまうと、内容が内容だけに不謹慎とも思われかねないかもしれませんが、次のシーン、次の展開が気になって気になって、思わずページを捲る手が止まらなくなる、そういう意味ですごく面白いです。絵は綺麗ですが台詞や文字の描き込みは最小限、それでもシンプルな構成で魅せてくれる。今は漫画の内容に関する規制が厳しいから…