木下先生らしいハイスペック攻め、なんだかんだで久しぶりに読んだなぁと思いました。最近は案外減っていた気がします。直純の今の恋愛に対するモチベーションがよく分からないまま話が進んでいくので、1巻ではまだハマりきれませんでした。遊び相手が欲しいのか、一応恋人が欲しいと思っているのか、そもそもゲイやバイなのか、本物のみちると単にゲームがしたかったのか? 2巻以降で掴めるといいなと思います。智紀も面食いだと自覚しているところは好感が持てますが、直純の顔に囚われすぎずもう少しまともに会話ができるようになると、受けとして魅力的なんだけどなぁと、今後に期待しています。
昨日1巻を読んですごくハマったので、すぐに続きが読めて嬉しいです。今回は後輩の佐原が入ってきて、和泉の負けず嫌いが深掘りされる流れに。長く付き合っていくなら千堂も読者も一度そこにきちんと向き合う必要があったんだと思います。和泉のそれは単なる性格ではなく、長年の両親と兄との関係性から心に深く刻み込まれた洗脳のようなもの。2位以下で悔しいと思う感情は誰しも持つものですが、1位でない自分を無価値に感じる、2位以下だと足元が崩れるような気がして精神状態が不安定になる、とまでなるともはや心の病気に近いように思います。
兄の颯人から話を聞くことで、和泉の負けず嫌い精神について改めて考える機会を得た千堂。同じ職場の同僚でもありますから、彼がこうして恋人の考え方や生い立ちについて面倒臭がらずに根気よく向き合ってくれる人で本当によかったなと思いました。それほど真剣に和泉を愛しているんだなぁと。言葉1つ、行動1つで変えられる性格ではないし、そのお陰で得られたものがあると本人がポジティヴに受け止めているところもあるので、和泉を構成するもののひとつとして、これから長い目で良い面も悪い面も半分背負ってあげられるといいですね。喜びは共有し、苦しみは分け合って。1巻より濡れ場など控えめでしたが、好きなキャラクターの精神的な部分に向き合うのも楽しいので良い続編でした。
マッチングアプリで会社の同僚とマッチしてしまう導入は何度か見てきましたが、和泉はゲイではないところ、そして、会社での2人はよくある普通のライバル関係とは少し異なるところがこの作品を絶妙に魅力的にしてくれていたと思います。育った環境から何でも1番でないと落ち着かない性格の和泉ですが、センスや顔、コミュ力で獲得したように見える好成績は、凄まじい努力によるもの。そんな彼が男同士の快楽に呆気なくハマってしまう可愛らしさが、彼自身の、そしてこの作品全体においても隙になっていて思わず引き込まれます。
対する千堂もなかなか罪な男で、けっして俺様気質でも傲慢でもなく仕事上も普段も思いやりのある誠実な男なのだけど、思っていることはその場ではっきり言うし、濡れ場になると優しさは保ったまま結構和泉を泣かせにかかるところがギャップ萌えでした。そして、本気で恋愛できないというネックがあることで、恋愛対象を偽っている和泉と実質的にとんとんになっているんですよね。お互いに簡単には超えられないだろうという壁が自分の中にあって、無意識下ではもう超えているのに、頭で理解が追いついていないのがちょっともどかしいのですが。普段のやりとりもセックスの相性もぴったりで、それぞれ魅力的なキャラなので応援せざるを得ないのです。初めて恋を知って心底嬉しそうな千堂の表情にこちらも嬉しくなりましたし、心も体も千堂への好意で満ちた和泉の素直な言葉や蕩け方は本当に可愛かったです。
振り返ってみると、時代を先取りした作品であったし、かといって重々しくもならず、木下先生にしか描けない空気感と人間模様だったように思います。現実の世の中は徐々に徐々にLGBTQに寛容な世界へと変わりつつあるのは確かですが、彼らを扱うドラマや映画は増えても、公表する芸能人や政治家はほとんどいませんし、まだまだ海外の状況には追いついていませんよね。尊と誠志郎の親たちのように、同性カップルの子供たちを介してこんな風に親同士が仲良くできる光景が増えたら、なんて幸せだろうと思いました。
女優の仕事も息子も同じくらい愛している尊母もかっこよかったです。子供の尊には寂しい言葉だったでしょうけれど、常に自分を一番大切にしていれば子供のことも真に大切にできると思います。別れはいつか来るものという誠志郎母の言葉も印象的でした。でも、せっかく築いた関係性ですからレオとはこれからもたくさん会えるといいなと思います。
どの作品も一定以上のクオリティで、怖さの種類も多様なので1冊で存分に楽しめました。凡乃ヌイス先生の『6と7』はホラーというより世にも奇妙な物語的雰囲気が強めでしたが、亡くしてしまった恋人の姿でいられたら無下にはできませんよね。死に向き合えなくなるし、こういう乗っ取り系は本当に切ないです。
そして、後ろの2作だった日乃チハヤ先生の『運命の赤い糸』とさきしたせんむ先生の『ほねとかわとがはがれるおと』が、怖さとBLとしての萌えが高いレベルで両立していてお気に入りの作品になりました。前者は執着・サイコパス攻め好きにはたまらない、倫理観度外視の作品。赤い糸にはまさに戦慄させられました。最後に攻めの腕の中に戻ってしまう受けに萌え。後者は途中までこの1冊の中で一番濃い濡れ場を楽しんでいましたが、最後の最後にタイトルを思い出させる恐ろしいシーンがあり、続きが気になるぞくぞくする終わり方でした。
最初にトラの姿が描かれているシーンを見て、琥士郎が虎みたいな見た目、性格であるという比喩表現なのかと思いましたが、本当に変身できるキャラだったとは(笑)。ネタバレなしで楽しみたくていつもあらすじを大して読まないので、想像と違って驚きました。やっぱりナツメ先生の絵はかっこいいですね。現代的だけど目つきに大人の色気、渋みを感じます。源慈も琥士郎もとても好みの攻め受けだったのですが、個人的には6年という長い年月の描写がもう少しあった方が、より今の関係性に萌えられた気がします。2人の培ってきた時間、今までのやりとりをほとんど知らない間に琥士郎の片想いから話が進んでいくので、もしかして下巻と間違った?と思ったほどでした。下巻の描かれ方によってはまだまだハマれる可能性はあるので、下巻に期待します。
久しぶりに碗先生の作品を読みましたが、序盤の舞台が田舎で「おっ」となり、一旦東京に出た後に出戻ってきたら「禊」という言葉が登場し、「出た」となりました(笑)。碗先生の癖、田舎の迷信・禊シリーズ大好きです。今回はそこまでおどろおどろしくもなく、なんだかんだ可愛らしいカップルでしたが。令和の時代にそぐわない禊という言葉も、信頼している人の口から聞けば信じてしまう太王がちょろ可愛かったです。新は一旦プレイが始まると迷わず積極的ですが、普段は割と太王の反応を気にしがちなヘタレキャラ。お互いいい子なので、もう少し感情をいろいろ乱すところを見たかったですが、数年ぶりに碗先生の癖を楽しめて満足です。