人外モノは数あれど、片方が手乗りサイズで基本的に自分の意志で大きさを変えられないという設定は稀有な方かと思います。
この手の異種間にありがちな実は相手のサイズに変化出来る,何かの試練を成し遂げることで恒久的に相手のサイズになる~みたいなことはありません。まずそもそも基本的に体を瓶から出すことが想定されてない存在だし。
ヘルメスはパラケルススによってなされた奇跡の産物であり、イレギュラーが起こればどうなるかはわからない非常に不安定な存在。よってパラケルススが衆目からヘルメスを守ろうという想いは非常に強いです。
そしてコミュ症気味で自分のこともあって人付き合いに消極的なパラケルススを想うヘルメスの気持ちもまた強い。
そんな二人が旅をするうちに事件に巻き込まれ、パラケルススの危機に自分の消滅をも覚悟して瓶から出るヘルメス。
共依存の強い関係だった二人の進展としては必ず書くであろうと予測しながら読めるエピソードだったけど、それまで語られてた設定や話の流れからまさか更なる奇跡が起こって体が一時的に人間サイズになった上にセックスまでヤれちゃうなんていう想定はなかったよ・・・。口絵でバレてると言えばそれまでだけど、すごいご都合ミラクルにビックリ。でもそこまでに至る二人の想いの強さを見てると自然と受け入れちゃえるのでうまくやったなぁと思います。
ホムンクルスって材料に人間の精液を使うとも言うし、そういう意味では消滅しなかったのはまぁ納得。安易にそのまま人間サイズにすることもなく再び元のサイズに戻ってしまうし、また消滅しないでいられるとは限らないから一度きりの逢瀬になったとはいえ、設定を一貫させた上でお互いの想いを再確認して絆を深める展開として非常に良かったと思います。
作中の時代考証が若干甘いのが気になることや、作品の性質上直接的な性描写が非常に少ないので誰にでも薦められるという作品ではありませんが、ファンタジー系ラノベにエッセンス程度のBL要素が欲しいみたいな方にはオススメです。
神評価はそこそこついてるのに神評価レビューはあんまりない作品
言ってしまえばこの作品の魅力は非常に言語化しにくく、且つ肯定しづらいからだと思います。
既存レビューにもあるように、本作はリアルで、生々しく、身近な要素が散りばめられています。
それ故にこの作品の魅力を肯定することはとりもなおさず、自分の目を背けたい暗部を直視することになる。
表題作主人公のモンジくんを始め、みんな自分の在りたい姿ややりたいことと折り合いをつけて現実を生きています。時には目をそらしたりやりすごしたりしながら、今の関係を壊さないようにとか自分を守るためだとか、それぞれが必死。
でも無理はいつまでも続かないし、やがては破綻するもの。その中で自分が何を掴み、何をなそうと思うか。
そういう意味ではこれはBLというよりは群像ドラマで、行間を読む部分を含めてみんながみんなの事情を抱えて何かを選択してそれぞれの道を歩んでいきます。視点はモンジくんですが、これは彼の恋愛にまつわる物語という型では収まっていない。そういう意味では彼はフィルターに過ぎず、主人公という表現は適切じゃない。
これはモンジくんを取り巻く人々の現実と折り合いをモンジくんというフィルターを通すことで生々しくリアルに表現している群像劇です。
だから誰かの一番になりたいとか、誰かを受け入れたいとかいう身近に溢れた恋愛模様が読者には一層生々しく感じる。
一読した方はモンジくんをただのフィルターと捉えて、誰か別の人物の視点を意識して読むとまた味わい深いと思います。幸いにして出てくる頻度的に行間の自由度が高く、推察の幅が広いのでそれぞれの気持ちを完結させやすいと思います。
併録作品の『致死量分の愛を込めて』はストレートに感情が爆発していく初恋のお話で、前後編の内容を合わせてもお話としては結構短いのですが終盤の気持ちの盛り上がりがすごく可愛くて私は好きです。どっちも違った意味でいじらしくてその後がすごく気になります。
先述した理由から人を選ぶ要素が非常に強い単行本なので、恋愛の酸いも甘いも噛み分けたいという方以外にはオススメできません。でも私は併録作品も合わせてとてもいい単行本だと思うし、自分は人に薦めたいので神評価です。
なんだか懐かしい感じがするくらい王道のアイドルものです。
比那くんは前の学校で身バレして対人関係が破綻した影響からアイドルであることを隠して定時制高校に通っているのだけど、親切な友哉くんにすっかりなついてしまう。
前述の出来事から年齢相応の他人との距離の取り方が分かってないし、恋を知らないどころか好きって感情の種類がかなり未分化な状態でどう行為を向けていいか分からない。その辺の純粋というか純心さを受け付けられるかどうかで作品の評価が分かれると思います。
表題の恋を知らないどころか、好悪の感情が未発達の子が人を「好き」になっていくお話。
比那くんの周りには彼のことを大事に思う人が沢山いて、無自覚に幸せな世界が形成されていますが、それぞれのことをどういう風に好きで、それに対して友哉くんってどう違うのかということを段々と自覚していくことでまた段々と「好き」の種類が増えていっている。そしてようやく恋を知る・・・
結構感情の行間を読ませて来るキャラもいますが、基本的には比那くんという純心な男の子が恋して成長していく姿を追っていくだけでもこのお話の可愛さが心に染みてくると思います。
個人的には友哉くんも可愛い。あこがれのダンスがうまいアイドルかっけーとかその弟の比那もよく見ると頑張ってるじゃんとか思ってるような様子は随所から伝わってくるし、段々比那くんのこと気になってきて番組をコッソリとチェックするようになってたり、起きた時に比那くんがもういなくて寂しいライン飛ばしてきたりと彼は彼で「男の子」な可愛さ全開です。
アイドルとの秘密の恋とか成長もの,恋をゆっくり育んでいくお話が好きな人にはオススメです。
ともあれ人を選ぶ作品であろうと思ったので個人的には神評価としたいところですが、うけつけられない人にはとことん無理かなとも思うのでそこを考慮して1ランク下げた評価です。
男性向け恋愛シミュレーションゲーム『卒業』の女性向け版を作ろうというプロジェクトが90年代の中頃に立ち上がり、その先鋒となったのがコミック版である本作。
のちに諸般の事情で作画と出版社が変わりますが、こちらはASUKA連載漫画家としては有名だった杉崎ゆきる氏が作画してて人によってはちょっと豪華な感じ。
ここからドラマCDやOVAや声優ユニットのライブイベント等のメディアミックスは広がっていき、近年では当たり前になっている女性向けコンテンツの他方面メディアミックス展開を行っていき、ファンを拡大していきました。全盛期は。
予定していた形とは違うものの当初の目的だったゲーム化も果たし、単体のゲームとしては結構出来が良かったもののロット数が少なくてあまり市場に出回っておらずプレミア状態。このコミックスも先述の出版社&作画者交代問題を受け公式からなかった扱いにされている黒歴史化作品なので、この本の入手が中古紙媒体に限られるという意味ではちょっと珍しいかも。
アウトローの透吾と彼に憧れるミキちゃんこと未来麿の関係はちょっとBLチックでプロジェクト序盤から終盤までのこの2人の関係の変遷を追うと色々楽屋裏での関係が妄想できる部分があって味わい深いものがあります。
ちなみにこの巻ではプロジェクト内でもちょっと珍しく未来麿が教師に強姦されかける展開があったりとそういう層を意識してるような描写もあり。
このプロジェクトが終結してから原作著者はセイントビースト等に関わっていくことになるので、乙女系作品の他方面メディアミックス作品の原点に触れてみようという方はまずはここから初めてみては?
ちょっとどうかと思うけどまぁこういう人実際にいるよね~って感じのひどいコミュ障男子受けと割と健気な年下攻めの話
ありのままの那雲を受け入れつつも優しく少しずつ積極性や感情の起伏を伸ばしていこうとする倫太郎くんの姿勢には、難しい相手とのリアルな人間関係の育み方に通じるものがあって好感を持てます。
この作品で特筆すべきは倫太郎くんの驚異的な根気強さです。
小学生の時の初恋のお兄さんが忘れられずに中学生を悶々と過ごし、高校生になってバイトで貯めたお金と当時着てた制服で所在を突き止めて・・・ここまでで既にその執念と行動力が怖い。ちなみに那雲さんは2回引っ越ししている設定なのでそれを興信所で調べたとしたらどんだけバイト代をつぎ込んだことやら。
そして大学受験の景気づけで買った宝くじで五千万当て、そのお金で那雲と同じマンションの真上の部屋を借りた上に、マンションの近くの物件を買って那雲さん好みの飲食店をオープン・・・そしてまんまとやってきた那雲さんの好みを都度メニューに反映させたりテイクアウト総菜始めたりしてリピート意欲を向上させる。
もともと何も持っていない何者でもなかった普通の子供が、小学生の頃の初恋を実らせるためにここまでやる執念と行動力を見せるって既存のBL作品を見渡してもそうそうない設定だと思うよ・・・現実離れした要素も多いとはいえヘンに生々しさを感じるこのやり口だし。
ここまで想われるって憎からずな相手からだったら幸せなことだと思う。周りはドン引きしておかしくないけど。
内向的な子が一歩ずつ前に進む話が好きな人とかとにかく執着系の攻めが好きだという人にはオススメです。
作中の時間経過は高校の入学式から10月までですが、冬実くんが片思いを自覚するのが8月、両想いになるのが10月。
つまり作中の3分の2が高校生になったばかりに男の子の甘酸っぱい片思いで占められています。
そしてお相手の遼平は小五の出会いから仄かな想いを抱き始め、片思いを自覚したのが中一の4月。そして両想いが高一の10月なんだからお前ら気が長いなと言いたくなるくらい年季が入ってます。
作品は主に冬実視点で時折遼平視点を挟みながら進みますが、お互いが相手の無自覚な行動に一喜一憂する様子がもどかしくも甘酸っぱい。
遼平のお兄さんや冬実のお姉さんの存在でそれぞれ心乱されたりしますが、恋愛ものとしてはよくある話よくあるエッセンス程度。
ある意味この作品の価値はそういうありふれた作劇部分ではなく、この長い長い片思いのお話に対するもどかしさと甘酸っぱさでやきもきできること。
あ~もうお前らじれったいなぁと思いながら最後まで読んだらもう著者の思うつぼだと思います。
この二人の想いの長さを楽しめれば、ページ数としては非常に少ない両想いになってからの時間がとても甘く感じられることと思います。
うだうだが苦手な方は控えた方が賢明ですが、初恋の甘酸っぱさ懐かしさを感じたい人にはオススメです。
お話の構造的には有名なヤマジュン作品『くそみそテクニック』を彷彿とさせるもので、かなり舞台設定やキャラクター等を現代的に色付けした感じ。
それって昔のゲイマンガのパクリって言いたいのかよとか思われそうですが、それは原型にまで戻したお話の構造が同じであるというだけで、この作品にはより現代の腐女子腐男子ゲイやバイの皆さんに夢を与えてくれる内容となっています。
男性に興味があるけど行動に移せない隠れゲイの青木くんはそれでも何かを期待しつつハッテン場になってると思しき夜の銭湯に繰り出すのですが、そこでなんと憧れのゲイビ男優と遭遇。ひょんなことから彼と関係を持つことに。この一連の流れはすごく・・・現代アレンジ的だけど似てるでしょ?
しかしそこで終わらないのが本作、その後連絡を取り合う関係に留まっていた二人がちゃんと恋愛してお互い好きって言えるような関係になるところまでを描いていてこの様式美はまさしくBL的。
というか読者がゲイの男性だとウリ専しててビデオにも出ててって設定で色々具体的に思い浮かべちゃうものとか人とかあると思うし、ウリ専のお仕事描写にしても見る人から見たら色々真に迫ってる部分あってそういう場面場面にすごくリアリティを感じるところがありますw
どこで取材してきたんだろこの作者さんって感じです。
そういうリアリティのある描写や小道具が効いてて昔からある王道なゲイドリームといった設定なのにBLとしても楽しく読めちゃう作劇に落とし込んでいてこれは見事だなと思いました。
ちょっとリアルゲイに依ったBLが読みたい腐った方にもライトにBLに手を出したいゲイの方にも私はオススメです
私はあしか先生のコミックスでは他に神評価をつけたいコミックスはありますが、他人に薦めるならというレビューの原点に立ち返るならこの1冊を選びます。
短編集となっていますが、レーベル的な理由からオールショタものながらも内容的に非常にバランスがとれています。
これ以前のコミックスから長く続く古参読者向けな異界もの短編でケモショタあり、別レーベル作品で成長した二人のその後が垣間見られる前日譚的な短編あり、「廃屋の子供達」のような読んでると胸が締め付けられるようなせつない話あり(具体的に書いちゃうと内容の厚み的には語りすぎちゃう)。少年の明るい顔から陰鬱とした顔まですべてが詰まっていて、短編集として非常に完成度が高いと思います。
表題作の「仏頂面に恋をして」というのもいい話で、かな~り年齢の割にはお堅い性格の門井先生を好きになっちゃった深幸くん。勇気を出して告白して付き合ってもらえることになったんだけど、先生は真面目すぎて全然生徒の深幸に手を出そうとすらしてくれない。業を煮やした深幸はテストで約束の点数を上回ったらお泊りに行くという約束をさせ、見事目標を達成するのですが・・・。
普段のお堅い様子からのお泊りに来た深幸をベッドに向かわせる色気あふれるシーンとのギャップがステキでした。
極楽院櫻子名義でおっぱい描いてるイメージが最近は強いですが、氏のBLに初めて手を出してみようという方やとにかく色んなシチュエーションのショタが見たいという方にオススメです
しづかちゃんはこの頃のあしか先生の作品によくいるぽややんとした性格の天然流され系の受け。
でも、双子のお兄ちゃんたちと片方それぞれにナイショで付き合っててバレちゃうとだって選べないんだもんとか天然でのたまう魔性ぶりを見せてくれます。
最終的に3Pで二輪挿しまでやっちゃいますが、しづかちゃんの内面はほぼ女の子にしか見えないのであまりBL的な読後感はないかも。状況だけ見たらそれぞれ横暴な双子の兄ちゃんズに振り回されてしづかちゃん大変だなぁって感じだけど、実際のところいいように振り回されてる被害者はむしろお兄ちゃんズです。
併録作品では魔女の家系に生まれたせいで見た目がショタのままな上に運命の相手らしいということで攻めの生徒に振り回されまくる上に拒めないというまじょせんせいシリーズが設定的にはちょっと目を引く作品かも。
ともあれタイトルで示した通り、この本の内容は受けの子が女の子的面が強いことや絵柄からくる時代的な古さ等も含めてほぼ表紙で感じ取れるかと思いますので、大丈夫な方は表紙買いでOK、無理な方はスルーが賢明かと思います。
それ以外だったらまぁとにかく二輪挿しが少しでも見たいという方にはオススメですw
二見シャレード文庫では2番目に長い作品らしく、お話としては読みごたえ満点の作品です。
春に健太くんが入学してから学園祭が終わって秋までのお話で、学生時代を終えた人が読むとキラキラとしたまぶしさやノスタルジーを感じる仕上がり、学生の皆さんも何かしら活力を受け取ってくれたらいいなと思います。
さて、この作品ですがお話の経過期間がそこそこ長い,イベント毎は逐一描写される,登場人物が内容の割にはやたら多いとBL小説というよりもジャブナイル色が強い部分があります。勿論、内容的にはしっかりBLなのですが、主人公たちと関わる人物が多く、ボッチでコミュ障な健太くん視点でお話が描かれているため健太くん以外の人の心情が読み辛い。健太くんの関心も話しかけてきた人に次々と移っていくので話の長さも相まって読者も健太くん並みにえーとえーとってなる人もいるかと思う。
そんな周りの人に翻弄されながらも健太くんは心身共に少しずつ成長して色々食べ頃な男の子になっていきます。ある意味生活部で栽培して一番よく育った作物はこの子です。
最初の一読目は健太くんと史哉先輩に焦点を当てて読むので先述したような健太くん視点であわあわしながら読了を迎えて唐突な展開に思える部分もあるけど、そこを踏まえて最初から読むと唐突に思えたところも大抵伏線はあるし、枝葉だったところにも想像の余地を残しながらちゃんと味があって一粒で二,三度おいしいです。
例えば、副長先輩から作中何度かある史哉先輩への目配せとか、大体最初に健太を逐一気にかけるのは副長先輩であるとか、好みじゃない相手であるはずの副長先輩と史哉先輩の健太を挟んだやり取りとか、よく一緒や少しの時間差で帰る会長とオグ先輩それぞれが使ってる香水が特定のラブホのアメニティで両方揃ってるなんてすごい偶然ですねぇとか、自分から取引を持ち掛けて入部したちゃっかり者のメリーさん以外は全員部員からの紹介で成り立ってる生活部の中ではみんな史哉先輩の性的嗜好を教えられてて、そのクセ先輩は誰にも言えない関係であることを強調したりetcと深読み妄想ポイントは枚挙の暇がありません。
体育祭の騎馬戦のやりとりで副長先輩に関しては若干確信できるような気もするし、再読することでの気づきのポイントが多くて一読目で全部把握できる人はなかなかいないと思います。
行間読みが好きな方やBLと関係なくジャブナイルが好きな方にはオススメです。