ようやく上下読み、泣きました。
BL好きとしても近代史マニアとしても、あまりにも刺さりすぎて勢いだけで書いております。
皆さんの珠玉のレビューを拝見して、色んなご意見があるのを承知で、私なりに書きたいと思います。
ちなみに、下巻の環のお話が好みをぶち抜き衝撃すぎて、それのみ語ります。
大正時代とは言えない結城の奥様の服装は頂けないものの、とにかく環と結城の人間心理が、フィクションとノンフィクションの狭間を行き来して絶妙にリアルなのです。
おそらく大名華族である結城、そして商家の子息である環。惹かれ合っていながらも真実を互いに知らずに、大人として自身の身分の上の人生を守って生きている。
結城は現代でも大正でも、褒められた人物ではありません。
妻子からしてみても、良い家長ではない。
けれど、これは悲しいことに大正時代の普通であるのですよ…。
現代はまだましです…本当に。
私は普段BLと同じくらい華族制度や名家の人々の人生を調べています。
この手の話やそれ以上に「これはフィクションでしょ?!」と思うほど、華冑界の人々の人間模様はひどいものです。
基本は家長である夫が、周りから決められ結婚した正妻とは別に、自分の選んだ妾のもとに通い愛や時間や財を使い、また本邸に帰っていく。
相手は花柳界の玄人であったり、男性の役者だったりもします。
細かい話は割愛しますが、この時代、どの家長も恋愛と結婚ははっきり分けています。自分が誰を好きでも、家を残し生きていくために、心を使い分けることを自然と身につけている。現代に生きる私達からするとサイコパスそのものですが、当時の華族は男女ともこれが当たり前。
だから、結城がとてもリアルに見えたのです。まだこの方は「今まで我慢してきたから…」と、自分の心を偽ってきた事を認める心理があるので、まともに見えてしまうくらいです。
それくらい、名家の人々は家に縛られていたのだと思います。
庶民より贅沢ができるかわりに、人としての何かを捨てて生きていることも、ある意味自覚がなかったのかもしれません。
結局はそれで、様々な人が涙を流すのでしょうね。
庶民とて、結局は様々なドラマがあったのだと思いますが、フィクションとしてもやはりここは華族や名家の話としてエンターテイメントが成り立ちましょう。
結ばれて結城を送り出した環の物分りの良さにも、社会的立場の恵まれた人の人生の哀しさを感じます。
受けてきた恩恵に報いてきた自分の心を何処かで開放するために、結城は環のもとに通い続けるのかもしれません。本当に自分が愛を注ぎ注がれる相手と、ひとときでも共に居て、ありのままの自分でいる時間を得る。
戦後、高貴な人々は端を切ったように離婚が相次ぐのも頷けます。。
史実の様々と照らし合わせても、これほど上手くBL漫画としてフィクションとノンフィクションの狭間を危うく縫うような作品を他に知りません。
身勝手な男性と、そんな男を待つ日影の男性。
続編も前編が出ていますが、完結してから手を出したいと思います。気になりすぎて試し読みの1ページだけで悶えたので。
実際に戦後も一緒にいたと言える、皇族と兵士の例も史実にありますから、この二人なりの形に期待してしまいます。
私はもちろんこんな夫や妻の立場はごめんです。
現代人で悠々と生きられる今、非日常を垣間見れるこの漫画を楽しんでいます。