たぶん、すごくいい話だと思うんです。
素直になれない恋心の心理描写がすごく丁寧で、それが一冊まるごと。タイトルにあるように、「同棲」に「うん」と答えるまでの恋の軌跡を描いた作品です。
何となくいい話だろうなって頭では思うけど、あまり胸打つものを感じなかったです。
湊と航の親友カップルがこの物語の主人公です。
湊が航に「同棲して」という側で、航はそのお願いに応える側。航が「うん」と応えるのが物語の結末なので、タイトルがネタバレになってるのが面白いアプローチです。
一番の見せ場である、この「うん」に辿り着くまでの航の態度や考えが、私には理解しにくくて困りました。
2人は割と早い段階で両想いが分かるんですけど、両想いであることが良い関係に向かわないんですよね…。湊の就職先が遠方で離れたとき、湊のことを好きだと気づいて泣いていたのに、その湊から告白されてなぜ友人のままでいたいと思うんでしょう。
恋人同士には別れが訪れるけど、親友はずっと隣にいられると考えている航の思考は分からなくもない。けどそれって湊の気持ちを全然汲み取っていないのでは?
そもそも何故別れる前提なの?
それに湊の真剣な告白を真正面から真剣に受け止めないのも失礼。誰の得にもならない航の考えにモヤモヤしっぱなしでした。
隣にずっといたいと思ったところで、湊がずっと隣にいる保証もないワケで……いつか湊に航以上に大事に思う誰かが現れたとき、湊の隣のポジションは航でなくなる可能性もあるし、優先順位も一番でもなくなるのに、何故そのことに気付かないんだろう。
付き合うことの入り口の段階から複雑に考えて前に進もうとしない航の気持ちに共感できるところがあまりなかったのは残念でした。
過去の彼女の事例を湊に当てはめて考えるのも何だかなぁ…。航の脳内思考がちょっと面倒くさくて、ストーリー全体が少し複雑で重めになっていた印象です。
恋心を抱く親友から恋愛的に好きと言われて、真っ先に思うのは嬉しいと思う気持ちなはず。両想いの嬉しさの余韻に浸るまでもなく、困るって思ってしまった航の心理は適切だったのか未だによく分かりません。
何にせよ私には理解し難い主人公(主に航)に
気持ちを寄せるまでもなく読み終わってしまったことが、この作品に「中立」を付けた大きな理由です。
航について色々と言ってしまいましたが、彼は本来は素直でいい奴だと思うので、彼の魅力をもっと引き出して欲しかった。湊の性格や行動はすごく好きだったので、彼のブレない実直な行動に応えてもっと2人の甘いシーンが見たかったです。
私の希望的観測ですが…
子育てほんわか和みモードのストーリーと、陵辱シーンの共存はして欲しくなかったです。
叢雲と燕の間に双子が産まれて、初めての子育てで悪戦苦闘しながらも番として絆を深めていくって感じかなと思って楽しみにしてました。でもちょっと思っていたのと違ってて、うーん…でした。
叢雲に番関係を迫る西の王の息子・凍凪が登場します。続編なので当て馬の登場も別にあっても良いと思います。ストーリーにメリハリがつくだろうし。
でもこの凍凪がしつこいしねちっこい。お邪魔虫のライバルと言えども同情の余地があったり感情移入できるタイプもいるけど、凍凪はそんなん全くゼロでした。
叢雲が好きな割には叢雲の気持ちを理解しないし、自分の思い込みだけで振り回すし、燕を陵辱小屋みたいなとこに引き渡すしで、何じゃコイツはー?って感じ。
人間のことを見下しているようですが、一応神様の血筋で高貴な立場なのに、やってることはゲス。これじゃあ人間のことあーだこーだ言えないよ。
凍凪絡みのムカムカシーンもあるけど、燕が過去に慰み者になっていたシーンもあったりで、何か気持ち的にブルー。最初の双子ちゃんに癒された気持ちの置き場はどうしたら良いのやらって感じでした。
燕の陵辱・強姦シーンを掘り下げるにしても、1巻で触れておくべきだったんじゃないのかなと思います。
そんな感じでホッコリとイライラの両極にある感情が入り混じり、評価も難しいところでした。最後はきっちりハッピーエンドだけど、やっぱり中盤のモヤモヤ感を引きずってしまいました。
もっと親子の温かいシーンに浸りたかったし、タヌ吉と迦楼羅天の子育てワチャワチャも楽しみたかったです。
双子たちは文句なしに可愛いです!