東京から祖母の家に引っ越してきた染人と、東雲商店の志生とのお話です。
染人は両親が不仲のため、田舎に住む祖母の家に引っ越してきたのです。配達に来た志生と中学生の染人は大人と子どもであり、年の差の関係です。それでも、志生は染人と心を通わせ、徐々に仲良くなってきます。
志生は高校の時の先輩で、婚約中の尊と体の関係にあります。いつも優しい志生の別な顔を見た気がしました。志生もこの関係をやめなくてはいけないと分かっているけれど、この関係から抜け出せないのです。
染人はその後東京に戻りますが、戻る前に志生に「志生さんを幸せにできるような大人になってここに帰ってきます。」と宣言します。
染人はその宣言どおりに志生の元に帰ってきますが、いつの間に凜凜しい大人になったのだろうと驚きました。
大人になった染人は青年の染め物職人になり、志生との新しい関係が始まります。
田舎で年の差のカップルが時間をかけて恋人になっていく姿が萌えでした。
同人作家の万さんと棚田葉、ダヨちゃんの楽しみは、天気予報のライブチャンネルを見ることです。二人とも気象予報士の瀬ヶ崎さんがとてもイケメンだから、繰り返し見てしまうのです。
実は、ダヨちゃんは瀬ヶ崎さんの恋人でもあり、推しと恋人が一緒なのですが、そのことを万さんは知りません。
後に万さんが瀬ヶ崎さんとダヨちゃんが付き合っていることを知り、万さんの妄想がそのまま具現化したところは、推しを持つ人の夢が叶う瞬間を見せてもらった気分になりました。
瀬ヶ崎さん、ダヨちゃん視点で読んでも楽しいですが、万さん視点で読むとまた違った視点から二人を見ることができたので楽しかったです。
ココアしか出さないカフェの店員、千波と千波のカフェ「cafe faro」にやってきた渚の話です。渚はちなみにどうしても話したいことがあるのですが、なかなかその肝心の話をしようとしません。
千波は周囲に自身がゲイであることをカミングアウトしている青年で、千波と千波の母との間にはセクシャリティーのことでわだかまりがあります。
渚が肝心な話、千波の母のことを千波に伝えたとき、私も千波の母のセクシャリティーのことに全く気がつきませんでした。千波の母が感じていた性的違和、生きづらさ、あのときあんなこと言わなかったほうがよかった言う後悔、祖母の後悔が祖母の最後を前にして一気に押し寄せてきました。
受け入れる、好きになる自由もそうではない自由も人それぞれですが、みんながあと10年、20年遅く生まれていたら、多様性が当たり前の時代に生きていたらと願わずにはいられない作品でした。