羽多奈緒さんのマイページ

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女性羽多奈緒さん

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「誰かを不幸にしても手に入れたい幸福」

【ネタバレありのあらすじ】
身内の縁に恵まれず育った風矢の幼い頃からの親友で兄貴分の大地。大地が風矢の妹と結婚するのは幸せな家族の形のはずなのに、微妙にボタンが掛け違ってしまう。果ては風矢の妹は、大地の運転する車の事故で亡くなってしまうのですが、そこで初めて明確に大地への気持ちが恋だと自覚する風矢。交通刑務所にいる大地との往復書簡の合間に回想が挟まる。

【感想】
手紙という独特の媒体を通ることで少し言葉遣いが変わったり、時間の経過とともに自己開示の度合いが変わってくるその変化の描き方が絶妙でした。また、ままならない恋心を抱えた主人公の放浪や心情の描写が巧みです。主人公たちや妹、母や伯母など、登場人物はみなどこか自己中心的で、だけど100%の悪人でもない。人間の弱さや愚かしさ、それでも誰かを求める気持ち。改めて人間を愛おしいと感じさせてくれるお話でした。

一家を守ろうと自らをなげうつ延年と、延年を愛し守った武帝の切ないほどの愛に涙

前漢時代の史実をベースとしたフィクションとのことですが、社会の情勢や当時の風俗が窺え、BL読者に留まらず、歴史ベースにしたフィクション、あるいは時間を遥かに経て紡がれた恋愛小説と考えてもしっくりします。

武帝は、次の皇帝の子を産んで自分が権力者になりたい獰猛な女性たちに囲まれ、特別のただ一人を愛することは立場上許されないしがらみに絡めとられ辟易としています。匈奴をやっつけた英雄として民衆に囲まれながらも、愛し愛される特定の相手を持てない悲しさや辛さ。愛した人を守ろうとすると周りが嫉妬するので、愛する延年を構ったり囲ったりすることはできず、延年の身を案じる故に、後宮を出るように取り計らいます。

もっと悲惨なのは延年。旅芸人の家に生まれ、貧しさの中で両親を失い、自らが春をひさぐしか生きていく道はないと、最終的には皇帝に自らの身体を捧げて弟妹を大切に守ります。次第に、武帝の愛を受け入れ、理解するようになります。
家族を幸せにするためにと、半数が死ぬと言われる宮刑すら自ら受け、知略と美貌、舞と歌でのし上がり最終的には後宮で皇帝の寵を得、さらには妹に春を売る仕事させたくないと妹を皇帝に差し出します。

自分のことを粗末にする延年をますます愛し案ずる余りに、自分から遠ざける皇帝の悩みや悲しみいかばかりか。

毒殺されないよう後ろ盾を持たない延年をあえて後宮から出し、守るシーン、また、延年が妹の子を守ろうとするシーンでの武帝の愛に泣けました。逢えなくても魂は共にあったのだと。

素人考えになりますが:武帝が自ら建設を命じた自分と李夫人(延年の妹)の墓は、目の鼻の先にあるようです(これは史実です)。妹である李夫人の墓に延年も埋葬され、死後は李延年・夫人の兄妹と、二人を愛した武帝が一緒に祀られていたらいいなあ…。などと考えさせられました。

それと、本作の位置づけです。BLを感じさせる場面はもちろんあり、妙な艶めかしさを発揮する延年ですが、家族を守る・愛する人を守るとはどういうことか深く考えさせれる名著です。家族愛や、後宮におけるやっかみなどはTempp先生の勉強熱心さから巧みに描かれたものと想定します。歴史小説や一般小説の恋愛ものとしても、面白く読めました。著者Tempp先生の博識に基づいたからこその迫力と、フィクションだからこその面白みを兼ね備えた名著ですので、BL小説好き以外の方にもおススメしたいくらいです。

αとΩが愛し合うことを禁じる象徴・2種類の枷の意味はあまりにも切ない

オメガバースものでは通常卑しめられ虐げられることが多いオメガが尊ばれ、そのオメガの項を噛んで番にすることが可能なアルファは虐げられ、愛し合うことは法律的にも社会的にも許されないという世界線で繰り広げられる幼馴染再会愛です。

オメガのネックガードの代わりに、本作ではアルファに2種類の枷が付けられています。まるで家畜か奴隷であるかのように。どんなに愛し合っていても、身体を繋ぐことはできても、枷のせいで、両腕で相手を抱きしめることも口付けることもできないなんて…。

このもどかしさの描写がとても巧みなので、クライマックスでの解放感や2人の喜びが増しています。

本作は主人公の受けでオメガ・アランの視点で描かれていますが、羽生橋先生の丁寧な筆致で、攻めでアルファ・グウィンへの一途でいとけない恋心、それが引き裂かれたことへの悲しみ、彼を取り戻そうとする決意など、移り変わる心情が巧みに描かれていて胸が痛くなりますし、

アランのみならず、グウィンの心理についても表情や言動(時間につれて変化するところもお上手!)から、読者には「この2人は両片思いなんだな」と解らせてくれるので、気持ちよくジレジレモダモダを楽しむことができました。

また、一般的なオメガバースとは異なる世界線なので、その説明が冒頭にあるのですが、まるで神話みたいで美しく、スーッと染み込んでくるように理解できました。

本作の最大の魅力は、主人公アランの成長とひたむきさだと思います。当初は父親にちょっとした過失を打ち明けることすらできない臆病な少年だったのが、学業に励んで医師となり、万全の体制を整えて10年越しの念願を叶えてグウィンを娼館から請け出すことや、番の証を隠さないところには清々しさを感じました。

脇役も、とっても良い人そうな人が実は…!と、良い意味でギャップを作ってくるのですが、良く読むと伏線として、チラチラと不穏さは見え隠れしています。とは言え、あそこまで豹変するのか!ドラマを盛り上げてくれます。

本作では、アルファとオメガは愛し合うことを禁じられた世界のままです。しかし、グウィンとアランは心を通わせ合い、肌を重ね番の契りを交わします。2人の行く手にどうか幸多かれと祈らずにいられません。

一味違ったオメガバースを読みたいという方にオススメいたします!