寂し気なプロローグから始まる、静かな作品。読みづらい導入部に不安を覚えるが、ラストに向かうにつれどんどん引き込まれていった。切なさ・苦しさ・不安とともに、最後までドキドキさせてくれる。読後の余韻もとても良かった。
スランプ中の映画監督太一と、人生スランプな環のお話。太一は自主的に休暇を取り、小さな町に帰省する。その町の大金持ちの息子が環で、田舎という舞台設定が絶妙な窮屈さを演出し、厄介なドラマになっていた。
恋愛童貞な太一とゲイを自覚する環が惹かれ合う過程はゆっくりじっくり。お約束の絡まれて助けてなシーンはありつつも、地味な遭遇からの交流を繰り返して徐々に仲良くなり、気付いたときには……という流れが良い。
さらには両想いであっても、スムーズにいかない環境がもどかしくて面白い。簡単には逃げられない、親の強大な権力と財力。対抗手段は悲しいとしか言いようのないものだったけど、ここを大団円の綺麗事で終わらせなかったのがすごく好き。
再会の条件に挙げた自由と無敵に関しても、完璧な答えは出てなくて、途上の二人のままで再会する。その不安定さも、二人で答えを出していく感じも、心に刺さるものがある。エピローグは幸せそうで安心できて良かった。
気になっていたのは太一の父の言葉。「俺が撮ったのより、悲惨だ」と言っていたので、どこかで父の作品が出てくるのかと思っていた。特に伏線でもなかったみたいで出てこなかったが、父はどんな映画を撮っていたのかな。
恋愛描写が障害だらけなぶん、お仕事方面はファンタジー的に上手くいき、バランスが良い。ストーリーだけを見れば自分的に神評価かもしれない。
ただどうしても比喩表現が合わなくて、なぜここでこんなダサい表現を!?と驚き、何度か集中が途切れてしまった。文章萌えがマイナスすぎて★4。
潜入捜査で関係を持った二人が、お互いを忘れられずに再会するお話。BDSMプレイ?でエロ多め。再会後と潜入捜査中のシーンを行ったり来たりな構成で、現在と過去の行為中の心理描写で伝えてくる感じ。
プレイ内容がマニアックで、本心でないセリフと本音が混在しており、特殊な状況がさらに面白くなっていた。
BDSMクラブ内で情報を集めるために、ハードなプレイを行う二人。偽名を使い、別人を演じていたはずが、相手を求めるところは本気になっていったのかな。
肉欲先行というか、体の欲求に従い素直に行動した結果、やっと気持ちがついてきたところでエンドマーク。やっとここから、と安堵できる終わり方だった。
潜入捜査についてはあまり描かれていなかったので、解決シーンは唐突感があった。マニアックなエロや熱いM/Mを期待して読めば大満足な短編かも。
邦題の「偽りの夜が終わる時」がストーリーにぴったりでとても好き。