殺人事件の真犯人を追う監察医と塾講師、テーマのわりに作り込みがふわっとした作品。ミステリとして読む構成ではないし、BLとしては一目惚れ要素が強く萌えにくい。ひたすら不憫なテーンのキャラクターはとても魅力的だった。
視点変更有りな一人称小説。バン視点から始まり、序盤は殺人事件を隠蔽したい犯人との攻防が繰り広げられる。監察医一人を脅すだけでどうにかなる、ド田舎での事件っぽい。絡まり合う人物相関図が複雑で面白かった。
中盤でテーン視点に移ると、いきなり真相が語られてしまう。そこから後は、権力を持つ真犯人とどう戦うかの話になっていく。
だが決着は策も何もない行き当たりばったりともいえる逮捕劇。バンの活躍もなく、何のために何度もバンは頭が切れると書いていたのかと思った。
終盤はその後の二人のお話で、事件の詳細やバンの元彼絡みの話など、細かな謎が一つ一つ片付いていく。事件解決の盛り上がり後にまだページ数が1/3も残っていて、長いおまけを読んでいる感覚。
BL的には、テーンが辛すぎる日々を送っていた間、放置していたバンが引っかかる。村八分状態で針の筵の中、たった一人の家族といえる母を看取るまでテーンを放っておいたのに、一瞬の反省でくっついてしまうとは……。
テーンは生い立ちが同情を誘う酷さで、バンに一目惚れして尽くす健気さもまた涙を誘う。フィジカルは強く、メンタルは繊細。
全てを懸けてバンを守るまでになるには、それに見合うエピソードが欲しいところだが、辛い境遇を思えば、共感に至らずとも全力で応援したくなる。崇めるようにバンを見つめるテーンの心理描写が刺さった。
バンの魅力は正直あまりよく分からない。でもテーンはバンに惚れまくっていて、テーンはバンがいれば幸せで。それなら仕方ない、というかテーンが幸せならそれが一番、という目で見ていたかも。
事件ものとして見ると、二部作の本編と後日談のよう。BLとしては二人の関係性を深めるエピソードがもっと欲しいと思った。
ただただテーンの魅力に引き込まれ、何よりもテーンの幸せを願いたくなる作品だった。
お料理小説というかレシピ本というか。調理の工程や道具・雑学などが細かく書き込まれており、“物語”を読んでいる感覚にはなれない。できた料理を食べた際の感想も軽くあるだけで、飯テロ効果はない。映像化には向いていそうだと思った。
主な内容はゲイカップルが会話しながら料理を作る形で、間に日常編と出会い編が挟み込まれていた。構成的に、登場人物がどういうキャラなのかが見えないうちから料理の説明に入るため、実際に作ってみたい人への実用書寄り。
1つの食材に対し10個のレシピ紹介があり、20個分が書かれ、なんとなく二人の関係性が分かったところで短編「ある日の二人」。ケンカ未満のモヤモヤが描かれていたが、熟したカップルだからか、曖昧な妥協が見える後味の良くない終わり方。
また、料理説明がなく日常描写のみになると、小説としての文章の上手くなさが際立っていた。
その後さらに20個分のレシピを紹介し、最後の締めに二人の出会い編。特になんてことのない話。
生き生きと美味しそうに食べる和樹と、食事を振る舞い満ち足りた気持ちになる陽平。絵がなく文章だけなのだから、もう少し強調したいシーンを印象付けるような書き方をしてくれても良かったのでは?と思う。人を描くには表現が簡素すぎる。
正直な感想は、創作小説としては味気ない、レシピ本としては充実してて参考になる。ゲイカップル+料理のブームに乗った書籍化+コミカライズなのかな、と思わずにはいられない内容だった。
タイトル通りのお話。「推し」に貢ぐガチオタの気持ちは分からないけど、コミカルな雰囲気と子供向けおとぎ話のような展開が楽しく、一気に読めた。
ファンタジー世界に推し活を持ち込み、明るいBL進行と暗いキャラの過去がバランス良く描かれており、分かりやすく大きな伏線もありながら、全体がサクサク進む。
メイン二人の仲に亀裂が入りそうになっても、即回避しているので恋愛面はストレスフリー。
フィリックスの理不尽な境遇や明確な悪役も出てくるが、そこも読んでいて特にもどかしさやモヤモヤは感じなかった。
クライマックスシーンは、これでもかというほどの思い切り。本当に絵本のよう。ストーリーとしてここまでする必要もないけど、とても盛り上がるし、なんというか爽快感がある。こういうやりすぎは大歓迎。
エロシーンは蛇足に感じて飛ばした。感動の余韻に浸りたいタイミングでのエロ突入は残念。体格差というより縮尺が違って見える二人の挿絵はない方が良い。
気になったのは文章の中二病感が濃すぎる点。単語選択のセンスが、思春期+深夜に書かれた小説のようだと思った。
魔法使いオズと少女ドロシー、キャラ名もすごい。元ネタ(?)を活かしてもいないのに、なぜ軽率に有名すぎるこの名前にしたんだろう。
好きな人に犬耳しっぽがくっつき、気持ちが読めるようになっちゃった!?ってとこまでは楽しく読めたが、ヒトがイヌ化していく展開はシュールというか何というか……。キャラが心配になるばかりで萌えるどころじゃなかった。
真柴は天然なのかあほのこなのか、思考がよく分からない。そこでポジティブになる?そこで卑屈になる?と自分の感覚とは真逆をいくキャラで、最後まで遠いとこから見ていた感じ。
重倉は犬耳での感情表現と表情とのギャップは可愛かった。が、視点主の真柴は笑顔に一目惚れから始まり、外見のことばかり言い、犬耳しっぽにきゅんきゅんしてるので、重倉本人の魅力は分からず。顔ファンから入って、もうなんでもよく見えてしまう状態なのかな、と思いながら読んだ。
最初に違和感を覚えたのは、重倉が犬のように匂いを嗅ぎまくるシーン。真柴は重倉が行動まで犬化してきたことに気付きながらも、ドキドキするばかり。自分が願ったことで、相手が人間としてはおかしなことをし始めたのに、不安にならないものなのか。
その後、獣化していくシーンはなんともシュール。重倉はまだしも、真柴は自分の意思で腹部を見せる服従のポーズを取る。人の姿で真剣に。これどんな気持ちで読んだらいいんだろう。まあとにかく重倉への心配が増すばかりだった。
なんだかんだあったが、結局二人とも最初から好きだったというオチで、作中に惹かれていくエピソードがなくても両想いだったわけで、納得できても萌えはない、という読後感。
ちまきはわりと好きだったが、振り回される真柴は常に財布の中身を気にしていて気の毒だった。
強面で表情が変わらない片思い相手の感情が犬耳しっぽで見えるようになる、なんて設定だけで萌える。だがキャラの起こす行動・セリフに萌えられる点がなく、獣化していく重倉へのヒヤヒヤが勝ち、残念ながらあまり楽しめなかった。
食べ方の汚い主人公と、それが許せない男の口喧嘩から始まるお話。どちらのキャラも好きになれるか不安になる導入部から、さっと5年が過ぎて、偶然の再会から本編開始といった感じ。
最後まで読むと、泣けるところもある良い話で満足感もあるけれど、伊勢の魅力が伝わってくるまでが長い。もう少し節々でチラ見せしてくれていたら、もっと引き込まれていたんじゃないかと思う。
強引な伊勢と流される志真で、よく分からないまま始まる同居生活。志真視点のみで語られるのに、志真があまり深く考えないキャラのようで、とにかく伊勢が分かりにくい。
人格の歪みを匂わせるセリフで、伊勢には何か事情があるんだろうと思わせるが、その背景を知ってもいまいちすっきりしない。何より山場がまた偶然の再会で、どちらかが動いた結果でないのが微妙。
二度目の再会で素直になろうとする伊勢や縋ろうとする様子は切なくてとても好き。生い立ちを考えれば、幸せになって欲しいと温かい気持ちにもなれる。志真は最後まで流されていた印象が強いかも。
面白いんだけど……とモヤるのは、スパっと切れて偶然の再会という展開を繰り返し、キャラの自主性が低く見えてしまう構成になっているせいかな。
たまに古風な言い回しが出てくる文章は、特殊設定のない現代ものよりファンタジーの方が合いそうだと思った。
妙にツボったのが、エロを顎関節症気味だから無理だと断るところ。斬新な断り方で笑えて好き。
半獣種最後の生き残りとなった主人公が、心優しき人間・律に出会って飼われることとなり、幸せを見つけるお話。最後まで一貫してアオ視点で、飼い犬目線を楽しめたのが良かった。
律の家で過ごすうち、理由の分からない体の反応に戸惑うアオ。人間だったら恋に落ちる描写になっているところが、感情でなく獣としての反応のように描かれているのが面白い。
そしてはっきり欲情すると人型化。いろいろあってくっついたけどどうなんだ?と思っていたら、最後にアオのモノローグで恋人という言葉が使われていて、やっとほっとしながら読み終われる感じ。アオ視点なので全体的に獣成分強めかも。
起きる事件は結構胸糞。犬に濡れ衣を着せ石を投げる女や、小動物を手にかけ喜ぶ男が出てくる。前者には罰もなく被害者が泣き寝入り状態でスッキリしない。
メインカプに関しても、今後のアオが犬として過ごすのか人型をずっと保てるのかが分からず、モヤモヤが残る。普段は犬で夜だけ人型の恋人になるのかな。
あらすじから人型化の決着をどうつけるかが気になって読んだため、そこが解決されずに終わって残念だった。
あえてなのか、律の描写も曖昧なままだったりと、この作者さんの他の作品のようなスッキリとした伏線回収がない。それなら心理描写を増やし、律の孤独とアオの孤独の重なりを強調してもらえると感動できたんじゃないかと思った。ここが一番読みたいポイントだった。
まあ、アオが律の抱える闇に共感するところに、傷の舐め合いのような要素が加わるとすごく萌えるという、個人的好みの問題。ただし、それを抜きにしても印象が薄いというか、BLとしての萌えが乏しいように感じた。
新婚・オメガ・戦国・初恋と、訴求力の高いキーワードの並ぶタイトルに惹かれて読んでみた。戦国らしさを醸し出す古風な言い回しとラフな口語が混在する違和感はありつつ、文章は読みやすい。
主人公の葉月は明るく楽観的で、セリフ・モノローグ共に「!」が大量、ノリツッコミ多し。恋には初心でどもりまくるBLテンプレ反応で、それ以外ではあほのこになることなく、前向きな思考でとても好き。
傑は思わせぶりな描写が多く、最後までつかみづらかった。凄惨な過去を持ち、「何ほどのこともない」が口癖ということで、葉月が傑の生きる意味になっていく的な話かなあと思いながら読んだ。
傑の闇は深く、自分のことが大嫌いという。その状態から誰かを好きになれたこと、自分の子供を喜べたのはすごい。
本編とは関係ないが、リアルで壮絶な生い立ちの子の口癖が傑の口癖と似たようなものだったのを思い出した。
ストーリーは特に後半にかけて面白くなっていった。戦の謀絡みのあれこれがテンポよく進んでいく。正直、展開が止まってしまうエロシーンを邪魔に感じるほど、話の続きを早く読みたい気持ちになっていた。
挿絵は本文のイメージとは異なる。ごつい・雄々しいと表現される葉月が、イラストだと華奢で可憐。これではコメディ部分の笑いが半減する。
あまりに違うせいで容姿に関し、なんらかの叙述トリック的な仕掛けがあるのかと疑ってしまった。ところどころにそれっぽい記述があったような。
序盤から変な登場の仕方ばかりの狸も気になった。傑が葉月の内心を見透かしたときによく現れたので、何か関係があるのか?と勘ぐってしまったり。結局大した役割はなく残念。もっと活躍して欲しかった。
面白かったが、伏線回収が本編後の巻末短編で行われたり、こねくり回した策略を匂わせるだけで実際はしょぼい展開だったり、最初に書いてた設定から変わってない?てとこがあったり、全体的に詰めが甘い。
キャラの魅力はメイン二人とも最高。「つがい焦がれ」がなんか好き。
末永く幸せに暮らしました、で終わったはずの続きのお話。国をかき回す悪役と、シェインの過去と声について。前作よりおとぎ話感は薄れたかな。
番になったランスが人目もはばからず甘えたになるシーンが多く、生温かい気持ちになった。
今回、大きく存在感を放っていたのが悪役のカテリーナ。口達者でしゃべりまくって地雷に突っ込み自爆する、見事なピエロ。シェインの過去話が暗いので、カテリーナの茶番が愉快に感じられて好きだった。
カテリーナは出て来た瞬間からザマァ展開に向かっていくのが分かり過ぎる立ち回り。でも大オチまで待たずにその時々で狼獣人側はやり返してる、というか全員で辛辣に責めまくっている。
善であるはずの狼側が思いのほか口調もキツく、バランス的にやり過ぎに思える。カテリーナの跳ね返してなお立ち向かえる強さと清々しい性格の悪さが救い。
カテリーナを可哀想とは思わないけど、やり込めて欲しいとも思えない。歴代の夫に何かした罪人である確証や、もう少し嫌悪を煽る要素があればすっきりできたかな。正直、ザマァを仕掛ける側を応援できなかった。
ランスとシェインの関係性は微笑ましく、におい付けという萌えポイントもあり、途中まではとても好き。
ただ母親とのくだりで、シェインだけをあまりにも肯定するランスにモヤる。これもやり過ぎというか視野が狭まり過ぎているように思う。「私のために声を捨ててくれて…」というセリフはちょっと引く。言葉通りの意味じゃないのは分かるけど、そこへのつなげ方は無理がある強引さ、かつ盲目的で萌えない。
ここが良いシーンなんだろうな、ここが大事なんだろうな、という要所が刺さらなかった。全体としてはとても面白かった。
気になったのはにおいについて。シェインの匂いを嗅ぎまくるランスは、自分が付けた匂い付きのシェインをずっと嗅いでるってことなのか。その執着は確かに怖い、良い意味で。どういう匂いになっているのか、ランス視点で読んでみたい。