僅か約100Pのあっという間の読書でしたが、
読了感はそれ以上で、2時間物の映画を観たかのようでした。
それ程に、サスペンスありロマンスあり。
そして、グレンという一人の警官がこれまでどんな人生を歩んできたのか、
そのやるせなさや心苦しさが、主人公であるナッシュの目線を通して分かっていきます。
グレンとナッシュの関係も、表面で甘い言葉を吐くことはありませんが、
それでもお互いのことを特別だと感じているのは、二人が一緒にいるときの甘く親密な雰囲気から伝わってきました。
本当に作者であるラニヲンさんは、ビターチョコレートみたいな、苦いんだけど甘い関係を描くのがうまいなと改めて思った作品でした。
アドリアン・イングリッシュシリーズ、待望の四作目。
二年ぶりに再会した、アドリアンと、ジェイク・リオーダン。
その再会は、アドリアンにとっては凍り付くような、決して喜ばしくない再会だった。
ジェイクは二年前の"あの"事件のときとは打って変わり、柔軟な態度でアドリアンと向き合おうとします。
けれど、アドリアンの方はそう簡単にジェイクとまた向き合えるわけもなく。
二年前の別れで、深く傷付いたアドリアンの心はまだ癒えないまま、どんどん事件に巻き込まれていきます。
読んでいて、胸が苦しくなる場面が多かったです。
二人が一緒のシーンでは、それが例え相手を拒否しようとしているシーンであっても、
傍から見れば、どうしようもなくお互いを求めているようにしか見えない。
けれどその気持ちに素直になるには、お互いあまりにも柵が多すぎる。
それを分かったうえで、少しでもアドリアンに近付こうとするジェイクの姿はとても切なかったし、
それに気付かない振りをするアドリアンもまた切なかったです。
印象的なシーンは山ほどありましたが、
中でも、最後の最後のシーンに心を締め付けられました。
ジェイクのあの優しい尋ね方は、アドリアンに対する思いが溢れている様でとても素敵だったし、
何より、張り裂けそうなぐらい辛いことがあってもひたすら耐えてきたアドリアンが、あのシーンでは堪え切れずに涙を流してしまうのが……
そして、その涙はきっと自分の為だけのものではないんだろうな、と思うと、思わず同じタイミングで私も泣いてしまいました。
彼はとても聡明で、そして優しい人です。
あのシーンで涙を流すアドリアンが、私は大好きです。
一番最初の冒頭に、
"偶然とは、充分にさかのぼって見たならば、すべて必然である。"
という一文があります。
物語の中で、ガイも同じようなことをアドリアンに言っていました。
終盤の船のシーンで、一瞬でもジェイクが本当に自分を裏切ったのだと信じたほどだから、アドリアンの傷はとても深いのだろうと思う。
でもだからこそ、振り返ってみて、"すべて必然だった"と、アドリアンがそう思えるときがくることを願います。
そのときには勿論、他の誰でもないジェイクが、アドリアンの傍にいて欲しい。
二人はやっぱりお似合いです。アドリアンにはジェイク、ジェイクにはアドリアン。
自分の一番弱い所をお互いに肯定し合える関係なうえ、
二人とも皮肉なユーモアセンスの持ち主だし、今回はアドリアンの毒が多かったけれど(それも当然)、二人の言い合いは読んでいて楽しい。皮肉満載。
今回、ガイやケインの存在感が大きかったせいか、余計にそれを強く感じました。
(ケインは問題外。個人的には、ガイはジェイクより、引っかかるような、理解出来ない部分が多かったです……いい男なんだけど)
次の五作目、完結編は、今年の年末に発売予定だそうです。
完結編が出るのが楽しみでたまりませんが、次で終わりかと思うとそれも寂しいです。
何の柵もなく、ただイチャイチャしてる二人をください!(笑)
年末が楽しみです。
アドリアン・イングリッシュシリーズ三作目です。
一作目で主人公アドリアンとジェイクが出会い、
二作目で関係を深めた二人、そしてこの三作目。
本自体が分厚くかなりのページ数があって、ちょっとずつ読んでいこうと思いきや、
一旦読み始めると読み止めることが出来ずに一気に読んでしまいました。
それぐらい面白かったんですが、
「面白かった」と単純に言うのを躊躇うほど、読んでいて胸が痛くなる展開でした。
二人の関係に大きな変化があったのが今作でした。
ジェイクはアドリアンのことを誰よりも求めている一方で、
普通の人生を歩むチャンスを捨てるつもりはなく、
彼の言動の節々に、彼自身が抱える苦しみや葛藤が現れていて、とても痛々しかったです。
そして、近付く別れの気配を敏感に察するアドリアン。
溢れ出そうな感情が表に出ないよう必死に抑えながら、ジェイクと対峙する彼の姿もまた切ない。
けれど彼は最終的に、自分を深く傷付けたジェイクを最後まで守り通そうとします。
皮肉屋で斜に構えた印象があるアドリアンですが、根っこのところは真っ直ぐで、とても勇気がある。
読んでいて思わず目に涙が滲むようなシーンがいくつかあったのですが、
アドリアンのシニカルなユーモア溢れる一人称で話が進んでいくので、
全体の話の雰囲気はそう重くはない……かな?
思わずクスッと笑ってしまうようなジョークもあったりします。
ミステリーの面でも、前作より暗く、実態の掴めない不気味な部分が押し出されているのですが。
そして例えどんな展開になろうとも、穏やかな萌えポイントが。
ふとした拍子に、それが甘い雰囲気でなかろうと、
アドリアンのことを「ベイビー」と呼ぶジェイクが素敵。
ジェイクが頭をくしゃっと撫でただけで、
苛々とした気持ちが簡単に晴れてしまうアドリアンが可愛い。
もう一体どれだけ好きなの!って感じですw
早くアドリアンに幸せになって欲しい。
いや、そう簡単に幸せにはなれずとも、彼の今後が気になって仕方がないです。
アドリアン・イングリッシュシリーズは全五作だそうで、
今はただ来年2月に出る四作目をじりじりしながら待ちます。