陽キャの先輩がヤサグレ系の孤独な後輩を構って懐かせる感じの話。
先輩の匡士郎はバスケ部の人気者ですが、幼馴染曰く、人に関心をもたないタイプ。女子に告白されてつき合ったことはあるけど、本気で人を好きになったことがない。同じ学校の後輩である颯和が喧嘩したあと公園にいるところを見かけて声をかけ(初対面)、以降、見かけるたびに構うようになります。
颯和 はハーフで目が青く、子供の頃、物珍しく見られていたため、今は前髪で隠しています。子供の頃は泣き虫で引っ込み思案だったのが、初めてできた友達にウザがられたことをきっかけに一人でいるようになり、今は喧嘩を吹っ掛けられたら買うので、傷だらけでクラスメイト達からも距離を置かれています。運動神経がよく喧嘩が強い。困っている人を見かけたら助けてあげるような、根はいい子です。
球技大会の練習の際、 匡士郎 が 颯和 と同じクラスのバスケ部の後輩に「こいつも仲間に入れてあげて」と言ったことで 颯和 はクラスメイトとも仲良くなり、教室にも居場所ができます。
二人で一緒に花火大会に行き、一人でいる理由を話して涙した 颯和 に、 匡士郎 が思わずキスをします。 颯和 は怒って帰りますが、後日、二人で話をして、「わざわざキスまでして俺を遠ざけようとしたんだろ」という 颯和 の発言に 匡士郎 が怒ったため、喧嘩別れになります。
その後、 颯和 が不良に絡まれて喧嘩をし、道端に倒れていたところに 匡士郎 が現れて家に連れて行き、「好きだ」と告白し、 颯和 も本心を打ち明けることができました。
寂しさを抱えて頑張ってきた 颯和 が、面倒見の良い先輩に出会えてよかったと思えるお話でした。二人のキャラもすごくよかったです。ただ、キスされたことに対して、「わざわざキスまでして俺を遠ざけようとしたんだろ」と言ったことについては、全然そんな流れじゃなかったし、恋愛感情のない慰めのためのキスと思い込むのならまだわかるとして、「遠ざけようとした」と思うのは無理があるのではないかと思いました。
貴族の使用人をしていた母親が主のお手付きになり生まれたΩの受けが、母親の死後、父親の屋敷に引き取られ、兄弟や継母、使用人たち全員から虐げられます。そこに突如現れた王弟殿下のαに見染められ(最初は恋愛感情はなく、不憫に思って家から連れ出してあげた感じ)、大公妃となって幸せになる話で、BL版シンデレラといった感じでした。
実家や嫁ぎ先でも攻めと教育係の婦人以外、全員が、受けに悪意を持って接してくるので、すごくわかりやすいですが、生身の人間らしさが感じられず、おとぎ話を読んでいるようでした。脇役も立場によって色んな思いや葛藤があるほうがお好みな方は物足りなさを感じるかも。
それだけ虐げられても受けがあまり悲観的にならず、兄弟を妬んだり自分を憐れんだりせず、受けに性愛を示すαの兄の仕打ちもゆるめ(鞭で打ったり体に触れるだけで無理やり性的なことはしない)なので、シリアスになりすぎないところはよかったです。ただ、鈍感な受けが、当て馬の令嬢(出戻りの攻めの従妹)や弟の気持ちは慮るのに、攻めの気持ちについては、令嬢や弟のことを鼻にもかけていないことや受けを溺愛していることが言動に出ているのに、自分と離婚後は令嬢や弟と再婚するつもりだから、という認識をいつまでも持ち続けるので、鈍感で可愛いと思うよりも、「何でわからないのかな?」と疑問に感じる場面も多かったです。
攻めのほうも、少年期に発情したΩに襲われそうになり、Ωのフェロモンの残り香を嗅いだだけで嘔吐するので、「俺が君を愛することはない」と最初に断言するのも理解はできますが、白い結婚でも伴侶として愛することはできるだろうし、まだよく知りもしない相手にそういうことを言うところには傲慢さを感じました。
なぜか受けのフェロモンにだけは拒否反応がおこらず性的な関係を持つようになり、その後は溺愛モードになりますが、好きと告白することもなく恋愛指南書に頼るばかりなので、ただでさえ「愛することはない」と最初に断言しているのだから、いち早くはっきり気持ちを伝えてほしいと思いました。
当て馬の令嬢を追い出したあと、令嬢の父と受けの兄が結託して隣国から麻薬的な植物を密輸し、その責任を攻めに押し付けようとしますが、それについては、式典に招かれていた隣国の第三王子が「自国の第一王子が貴国の貴族と結託してやったことだ」と白状し、攻めはピンチを逃れます。第一王子と第三王子が不仲だったにしても、それを理由に貿易において不利な条件を飲まされたりなど自国に不利益を持たらす可能性が高いのに、よくあっさり認めたな、とちょっと上手くいきすぎな感じがしました。あと、以前は戦をしていた相手なので、第一王子を失脚させるためだったとしても、第一王子と英雄大公(攻め)が結託していたことにし、この機会に隣国の戦力を少しでも削いでおこうと図るほうが、第三王子の立場としては納得がいきます。
恋愛面においては感情の起伏はゆるめでしたが、悪人たちを断罪する場面で、受けが、市井の人々の暮らしを知り、歴史を学ぶことで、辛い過去も心を乱さずにパズルのピースとしてつまめるようになり、「自分史」を組み立てられるようになった、と自己分析する場面があり、その考え方には深く共感できました。
恋人に浮気された不運で面倒見の良い攻めと陽キャな受けが前巻でくっついたその後のお話。家バレし、リスナーに押し掛けられたことで、引っ越して同棲生活が始まります。
温度差はありますが、二人の性格の差によるものなので、終始関係性は安定していました。周囲やリスナーに同居人の男と付き合っていることをカミングアウトしたい受けとやめておいたほうがいいと考える攻めで意見の食い違いはあります。それに、動画制作を手伝ってくれている相棒が実は攻めの弟だったことが判明しますが、家族と疎遠になっている様子の攻めにそのことを言えなかったり。
そんな中、受けの勤め先に元同級生の女子が客として来店し、食事に行く流れになります。彼女がいるかと訊かれて「いない」と答えたところ、告白され、結局は「実はいたんだ」と断ることになりました。その元同級生がストーカー化して家に押し掛けてきます。攻めの弟と電話中だったため、急に電話が切れたことを心配して弟が駆けつけ、弟と攻めが遭遇します。元同級生は警察に連行されました。
それをきっかけに攻めは弟と連絡を取り合うようになり、受けは同居相手が男性でつきあっていることをリスナーに公表します。
受けが浅慮な性格なのは前巻からわかっていたことですが、今回、元同級生に「彼女はいない」と言ったことは、彼女に対し同情しました。周りからも「絶対に気がある」みたいなことは言われていたし、二人きりで食事に行ったあとのその流れでどう見ても告白される感じだったので、「うっかり」というより、人の気持ちを考えられないキャラに見えてしまいました。
元同級生のほうはずっと受けの配信を見ていたようですが、卒業後はつきあいはなく久々に出会ったのに、「つき合っている相手がふさわしいかどうかを確認したい」という理由で勝手に家に上がり込むのにも、かなり唐突な印象を受けました。
そういった点で、評価は一つ下がりました。
嫉妬する攻めはすごくよかったです。
恋人に浮気されたあげく勝手に車を使われて、事故って車まで廃車にされた気の毒な攻めとアパートの隣室に住む動画配信者の受けの話。攻めはゲイで受けはノンケ。
最初は騒音の苦情を言いに攻めが隣室を訪ねたのですが、売り言葉に買い言葉でキスをします。そのキスに骨抜きにされた受けが動画のネタとして経験値を上げるためぐいぐい行くけど、攻めのほうは「ノンケは相手にしない」とガードが堅い。最後は配信中にファンのコメントを鵜呑みにして危険なアプリを入れたり、身バレしそうになる受けを見かねて攻めが陥落した感じでした。
お隣さんで苦情を言いに行ったら…というストーリーはこれまでにも何度か読んだことがあり、個人的には絵に惹かれたわけでもないですが、続きを読ませる牽引力はあったように思います。
鴨ネギを前にして自制する攻めがよかったです。
待望の3巻。感想を書くまでに何度読み返したかわかりません。それほど神回でした。
冒頭、大知君が本郷さんのことを役職呼びではなく「本郷さん」呼びになっています。早速盛り上がる女性陣ww
乙さんの妄想でしたが、ベッドシーン(事後的な)ありがとうございます!!(合掌)
そして年が明け、仕事始めの日に登場した本郷さんが髪を切っていて、イケメンぶりが十割増しになっていました(二度目の合掌)。
仕事のほうでは、事務方の係長が育休に入ったため、大型新人の鳴戸君の仕事が増え、ミスした鳴戸君に大知君がフォローしたことで、懐かれるようになります(本郷さんは面白くなさそうw)。鳴戸君がミスなしで仕事をできるようになり、久々に本郷さんに甘えられるようになったところで、「充電!」と後ろから抱きつく大知君…(三度目の合掌&感涙)
その後、所長が行けなくなったため宿泊券を譲ってもらう形で二人で温泉旅行に行くことになります(温泉エチの妄想、乙さん、ありがとうございますw)。大知君と話をしている女子二人組に「うちのがご迷惑をお掛けしてるんじゃ」と声をかける本郷さん、どう見ても、牽制する彼氏の顔してました(かっこよ……)
しかしながら、この旅行中、実は本郷さんが離婚していて、バツイチだったことが発覚します。
離婚したのは転勤する直前で、そこ一年くらいの話のようです。離婚の原因ははっきりは語られませんが、元妻にはつき合っている人がいるので、相手の浮気か心変わりかな、という雰囲気ではありました。前の職場の同僚が来て、そんな話をしているところを大知君が立ち聞きします。大知君のことを話す本郷さんの台詞や表情にぐっと来て、涙しました。
そんな中、乙さんが札幌に転勤になります。送別会で本郷さんに眼鏡を外した顔を見たいとお願いする乙さん、最後の最後までGJ!でした。そして眼鏡を外した本郷さんにスタンディングオベーション!!
最後は少し時間が経ったところの鳴戸君としずくちゃんの結婚式での話でした。指輪を落とした本郷さんに乙さんが戸惑いの表情を見せ、本郷さんは「結婚はしてないから」という意味深な返事をします。乙さん同様、「って、なにーーーー!?」という気分でエンディングを迎えました。
本郷さんと大知君の関係については、最後まではっきりとは語られませんでしたが、たくさんの匂わせを散りばめていただき、妄想で補完することができました。がっつりBLじゃなくてもこれだけ萌えられるんだなーと目から鱗でした。とにかく、女性キャラも含めて、出てくるキャラ全員が可愛くて優しい人達ばかりで、癒されました。
感情が大きくなりすぎて大宇宙思念体になる乙さんに激同したくなる、大好きな作品です。
1巻が面白かったのでこちらも拝読しましたが、1巻に比べると満足感が薄く、評価を一つ下げました。
お付き合いが始まった二人。なるべく長く一緒にいられるように攻めが受けの近所への引っ越しを考えたところ、たまたま隣室が空いたため、隣室へ引っ越してきます(この辺はちょっとご都合主義すぎる)。
しかし、ただ甘いだけの展開にはならず、攻め以上のライバルとなる大型新人が登場します。1位にこだわる受けは彼に負けまいと今まで以上にワーカーホリックになり体調を崩します。
そのタイミングで1位にこだわる原因となった受けの兄が帰国し、負けず嫌いの理由が明かされるのですが。とにかくこのお兄さんが文武両道に優秀で、模試で全国1位になる上にマラソン大会でも1位を取るような超人で、両親が1位以外には価値がないと考える人たちだったため、両親に褒めてもらうために1位にこだわるようになったようです。
理由としては納得しましたが、お兄さんがあまりに超人だし、1位になった兄だけ褒めて2位以下の弟は価値がないように扱う両親もあまりに極端で、しかも回想シーンでしか出てこず、母親に至っては顔のパーツすら描かれていないモブ状態のため、受けのキャラ設定のためだけに存在しているように思えて、物語の中で生きている人としてのリアリティに欠けました。
攻めが受けに寄り添っていたことで、3位になっても子供の頃のように自分を価値のない存在に思わずにすんだ、というのが話の主旨ですが、家族構成はもう少し普通寄りのほうが感情移入できたように思えます。
最後、攻めが旅行に誘い、浴衣でエチするのはよかったです。
1巻を読んでハマりそうと思いましたが、2巻で評価が急落しました。
攻めのアレックスがバイトで遠方に行くことになり、その間、受けのコールはアレックスの友達のブラッドを家に泊めます。家に泊めたこと自体はアレックスに事後承諾を得ています。
ブラッドは実はコールに気が合ったようです。酔った勢いでキスをし、フェラをされます。無理やりではなく、酒の勢いという感じでした。
酔った勢いで、というのはまだ理解できますが、翌日にブラッドと顔を合わせ、「俺は酔ってなかったけど」と言われたコールは「オレを好きになってくれた人なんて初めてだ」と独り言を言います。
コールの自己肯定感が低いところは嫌いじゃなかったですが、あれだけアレックスも言葉や態度で気持ちを伝えていたのに、そんなふうに思っていたのは酷すぎます。
それなのに、アレックスと再会したら、我慢できずにトイレでがっつくし、「待つ」と言ったブラッドのことも「この先どうなるかわからない」からとキープしておこうとします。
コールのことが本気で嫌いになったし、「お前と別れたくない」と言ったアレックスが可哀相で、絶対にもっと他にいい人いるよーと思ってしまいました。
顔と体が好みで自分を求めてくれる人なら誰でもいいのかと思ってしまいます。
結局、酔った勢いでブラッドとキスしたことだけはアレックスに話して(フェラされたことは伏せてキスしたことのみ)、アレックスはブラッドと喧嘩して、手荒にコールを抱いて、なんとなく仲直りした感じになりました。
自己肯定感の低いキャラが自分への自信のなさから寄せられる愛情を信じられないという心情は理解できますが、相手に対しては一途であってほしいと思います。
気持ちの上では「趣味じゃない」寄りですが、アレックスのことは最後まで好感をもてたので、評価は「中立」にします。3巻には手を出さず、今巻で離脱することにしました。
前巻に続き、今回もメインはリディルとグシオンの冒険譚でした。そこに、リディルの兄である第二王子ステラディアースとその傍使えの騎士ゼプト、リディルとグシオンの養子であるヤエルが絡んできます。
兄のステラディアースは生まれつき体が病弱すぎて、第一王子のロシェレディアの作った繭の中でしか生きられません。その繭が壊れかかっていて、永久に壊れない繭を作るためには『神の心臓』なるものが必要でした。また、刺客に狙われたグシオンが呪いを復活させる呪いをかけられて、満月のときにだけ化け物になる呪いが復活したため、『神の心臓』の呪いの力によりそれを抑えつける必要も生じます。そのため、グシオンとリディル、ゼプトの三人で『神の心臓』があるとされる虹の谷に向かいました。グシオンが呪いを受けた際に梟のキュリもそれを受けていて、復活した過去の呪いによりキュリとヤエルの中身が入れ替わっていたため、実際はキュリの体を借りてヤエルも同行していたことになります。
「四人分の勇気を見せてみよ」というのが、神様が提示した、石を持ち帰るための条件だったので、結果的にヤエルがいて助かります。
四人がそれぞれ勇気を見せたため、無事に神の許しを得て『神の心臓』を持ち帰ることができました。繭ではなく、ステラディアースの体を作ったので、彼は部屋の外にも出られるようになります。
今回もハラハラドキドキが連続する展開でお話は面白く読ませていただきましたが、ステラディアースとゼプトの関係は恋愛よりも主従の絆という感じで、グシオンとリディルにも、特に恋愛面での波乱はなかったので、萌えや切なさとしては少し物足りなかったです。
グシオンが刺客に襲われたのも、国を乱して戦を仕掛けようという感じでもなさそうで、グシオンの呪いを復活させるためだけに刺客がポッと出た感じだったので、ストーリー都合に思えてしまいました。
キュリが過去に入れ替わりの呪いをかけられていて、それが復活したせいでヤエルと入れ替わったという推測も、それを疑うエピソードやどうやってその呪いが解かれたのかは書いてなかったので、唐突に思えました。
個人的には、中身がキュリのヤエルに側近コンビのイドとカルカが振り回されているのが、今回の一番の萌えポイントでした。
モテメンの攻めを好きな受けが攻めのこと好きすぎて闇落ちしてしまうお話。闇落ち系は苦手ですが、お勧めで見かけてなんとなく読み始めたら続きが気になって止まらなくなりました。
受けがかなり卑屈で、酔った勢いで隣に住む片思いの相手に告白し、そのときはスルーされたけど、翌日、「なんで告白したのに無視するんだよ」と泣いて迫って、「だったらヤッてみる?」という軽いノリで一夜を共にします。受けは初めてでしたが、道具を使って自慰をしていたので、最後までできました。
セッの相性がよく、攻めが受けのオッドアイを気に入ったことで、付き合う流れになります。
つきあうまではとんとん拍子にいくのですが、そこからの展開が面白かったです。受けは攻めと付き合いはじめたことを周囲に隠そうとし、付き合うといっても、デートをするでもなく体の関係だけ。付き合っている意味がないと言われて不安になり、「俺に何かしてほしいことないの?」と訊かれて、どうしてそういう思考回路になったのかは理解不能ですが、「俺以外のやつと付き合ってもいいよ」と言ってしまいます。
これに対して攻めは拗ねたふりをし、旅先で会った女の子が一緒に飲んだ流れで二人が泊まっていた部屋で一夜を明かし、受けは寝落ちしていたことから、「昨日無事にヤりました」という女の子の言葉を真に受けて浮気を疑います。
あげく、攻めに銃を突きつけます(弾は入っていなかったっぽい)。攻めのことを信用できなくて、このままではいつか本当に撃ってしまいそうという理由で自分から別れを切り出し、攻めもそれを了承して引っ越ししました。
それからしばらくして旅先で会った女の子と再会し、あのとき二人はヤッてなかったことを聞かされて、攻めがちゃんと自分のことを好きだったことを実感します。
受けは攻めに会いに行き、今度は自分の頭に銃を突きつけ、攻めに止められます。「お前か自分に銃を向ける以外、お前を手に入れる方法がわからない」と泣き崩れる受けに心を動かされる形で、元サヤに戻りました。
受けが卑屈すぎて、意地悪したくなる攻めの気持ちもわかるし、意地悪を真に受けて不安になる受けが可愛くて、更に深みにハマってしまうのもすごく共感できました。
好き嫌いは分かれそうですが、個人的には中毒性のあるお話でした。
前巻に続き読み応えのあるスケールの大きな話でした。
前巻で受けのリディルは傷の瘢痕で途切れていた魔法円に傷をつけることで魔法円を繋ぎ、一時的に魔力を取り戻すができましたが、傷が完全に治癒すれば、また魔力が無くなります。そんな中、リディルの兄の嫁ぎ先であるアイデースに負けたはずのガルイエトがイルジャーナに攻めてきます。ガルイエトの狙いは大魔法使いとして名前が知れ渡り始めたリディルでした。イルジャーナの王でリディルの伴侶であるグシオンはリディルを助け重傷を負います。リディルも落馬して子供の頃以降の記憶を失くしてしまいました。
魔力を失いかけているリディルに王を癒す力はなく、このままでは国がガルイエトに滅ぼされてしまう状況の中、重傷を負いながら自分を気遣う王の姿を見て、彼を助け記憶を取り戻すために、リディルは単身で城を抜け出し、アイデースに向かいます。
アイデースに行けば兄が魔法円を完成してくれる目算でしたが、アイデースは雪と氷に閉ざされていて、普通の人なら到底城まで辿り着けない状態でした。
呪いに蝕まれた体を治してもらうためにアイデース王妃に会いに行こうとしていた大魔法使いと遭遇し、旅の途中で魔法円を完成させてもらったことで、リディルの魔力が回復し、「飛び地」というワープ機能で城に辿り着くことができました。
しかし、城の周囲も城の中も生き物は全て氷で固められて時間が止まっている状態でした。それはガルイエトに勝った先勝祝いの宴で、王妃を狙ってガルイエトの刺客が放った呪いの矢が、王妃をかばったアイデース王を射抜き、その人の持つ力を増幅させる呪いを持った矢であったため、炎の使い手である王の力が暴走しないよう、王妃が全てを凍らせたのでした。
いずれ王妃が魔力を使い果たせば、伴侶を失った王は無尽蔵に力を使うことはできないため、民への被害を最小限に食い止められると咄嗟に判断したようです。
リディルが大魔法使いになっていたため、リディルの力を借りて氷を維持しながら王に刺さったままの呪いの矢を抜くことができ、王の呪いも、国中の氷も解けました。
アイデースが援軍を出してくれて、「飛び地」で陥落間近のイルジャーナに駆けつけ、ガルイエト軍を追い払うことができ、グシオンの傷を治すこともできました。
記憶を失くしてもグシオンとリディルの間には確固たる絆があり、恋愛面では大きな揺らぎはなかったので、どちらかというと冒険ファンタジーの色合いが強かったです。互いを思い合う気持ちは、そこかしこから伝わってきました。
息をつかせぬ展開で、映像を思い浮かべながらストーリーも楽しむことができました。
ただ、一つだけ気になったのが、戦が落ち着き、王家の親戚筋である小国から養子をもらったことです。四歳の皇子で、赤ん坊の頃から養子に迎えることを検討していたようですが、その子の境遇については詳しくは語られていません。グシオンのことを「父王様」、リディルのことを「お母様」と呼ばせているので、自分たちの子どもとして育てているようです。
「母親が産後すぐに亡くなり、父からも疎まれている」などの事情があれば、四歳の子を引き取って育てるのもわかりますが、もし、実の両親が生きていて、両親から引き離して連れてきたのなら、実親も子も可哀相だなと思いました。自分に置き換えて考えると、母親が実は男で、両親とは血の繋がりがなかったと大きくなってから知らされるのは、かなりショックです。
グシオンもリディルも、結果的に幸せになったとは言え、王族に生まれてきただけで生まれながらに重すぎる責任を背負わされてきた人達なので、王族でもない四歳の子に同じ重荷を背負わせることにはもう少し葛藤があってほしかったです。
個人的に、今回での一番の萌えポイントは、側近コンビのイドとカルカが、口では喧嘩しながらも阿吽の呼吸で動き、お互いを信頼し合っているところでした。