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主従愛、そして武士道

戦国時代BLと身構えて読み始めてみたものの、何も難しいことはなく、
むしろ武士と小姓の主従関係、自然豊かな古き良き日本の情景に魅了されました。
誰かのために尽くすこと、命を賭けて守りたいものがあること。愛は普遍のテーマなんだなと実感しました。

伊縁の「秀将様のためならどこまでも」な健気さ、そして難題にも諦めず挑んでいく果敢さは、見ていて応援したくなります。まぶしい、光の受です。
誰より強く伊縁と道明沢を想っている秀将様ですが、それを表に出さず行動で示していく姿が、まさに言葉少なな武士の姿という感じで、本編を通して始終かっこ良かったです。
きっとムキムキで、本はラスト後の姿もめちゃくちゃ良いんだろうなぁ…と表紙のイラストから妄想しています。

BLでは少し珍しいジャンルではありますが、読みやすく、萌もいっぱい詰まっています。
電書で手軽に読むこともできるので是非オススメしたい一冊です。

いつものオメガバースが物足りなくなったら、ぜひ読んでみてほしい

Ωはかわいそう、αは恵まれていてかっこいい…という価値観がオメガバース作品の持つ一般的な特徴の一つです。
そんな”不遇な状況”の中で、受けと攻めがあがき、自分たちに降りかかる苦難を跳ねのけて幸せをつかみ取るのが、オメガバース設定の醍醐味だと思っています。
でも、個人的には「Ωばかりかわいそうな状況になりがちなのは不公平だなぁ……」と思っていました。
こちらの作品は、そういったもやもやを綺麗に晴らしてくれる、新しいオメガバース作品だと思います。

はるか昔から伝わる神話によって、Ωは人々から崇められ、
逆に文武両道、才色兼備なはずのαは、Ωを脅かす存在として虐げられる。

そんな世界観の中で、私が正直に思うこの作品の「見ごたえ」は、

①「これ、どう巻き返していくんだ…?」っていうくらい辛い状況に置かれたαの、苦難に耐えた末に訪れる逆転劇
②肘枷と口枷をつけられ、自由を奪われたαの悲しみと怒り
(個人的にはこの戒められたビジュも最高に刺さります)
 です。

①不遇のαの逆転劇について
表紙に登場する口枷と肘枷をつけられた攻めが印象的ですが、
αである攻めは、身体だけでなく心の自由さえも奪われるという辛い境遇に置かれています。
そんな状況下でも攻めは、ときに悪ぶって見せながら、そしてときに深く落ち込みながら、受けへの愛をひたすらに貫き通します。
そして最後には、αのポテンシャルの高さを見せつけ、何よりも大切な存在である受けをピンチから救い出します。
「αなんて」、「αの癖に」と、αのことを知りもせず蔑むばかりだったモブたちに、本当の強さと美しさを見せつけるのです。
ここがまさに、逆転オメガバースならではの醍醐味なのかなと感じました。爽快です……!

②自由を奪われたαの悲しみと怒りについて
本作は攻めのグウェン意外にも様々なαが出てきますが、その誰もが苦境に立たされています。
悪役もαが多くいるのですが、こんな差別の世の中じゃなければな…とやるせなくなります。
優遇されているはずのΩも、腐敗した政治に利用されていて健全な状態とは言えません。
この作品一つの中で、世の中すべてがよくなるのは無理がありますが、それでも最後、αの未来が少し明るくなるような展開があったのが救いでした。
この二人が、ちょっとずつでいいから世界を変えていけたらいいなあ、と思います。

αにフォーカスして語ってきましたが、
受けのΩとの思いのすれ違いもまた切なく、作中なんども、じれじれ、もだもださせていただきました。
受けは立場的には優遇されているけれど、自分の努力で攻めを助け出そうとしている芯の強い子です。
攻めのためを思い、時に空回りながらも必死にあちこち駆け回る様子が健気で可愛くてたまりませんでした…。

最後にもう一度、
いつものオメガバースとは違い、徹底して虐げられるαの姿は辛く、でも正直刺さる人にはめっちゃ刺さります。(すべてを諦めたようなグウェンの姿の挿絵がたまりませんでした)
それだけでも大変萌なのですが、最初は自暴自棄だった攻めのグウェンが、アランと心を通わせて自分らしさを取り戻し、最後には強く美しい男になって立ち上がる姿が、見ていてとても気持ちがいいです。

いつものオメガバースから”味変”したくなったら、ぜひ読んでいただきたい作品です。