原作未読の立場からレビュー。
最高の映画でした。びっくりした。何気なく見たらこんなに感動するとは思わなかった…
こちらの映画、原作に忠実であるらしい圧倒的に暴力的な性描写を、BL実写でありがちな美少年俳優を起用してお茶を濁すこともなく、リアル路線でとことんやり尽くしてます。
攻めの俳優さん、主たるお仕事がVシネマの硬派なビジュアルの方。
受けの俳優さん、優しそうでマイルドですが地味な印象。
2人の持ついち社会人っぽさが、この作品のファンタジー部分にリアリティを持たせてくれていると思いました。
BL実写に非現実的な美しさを求める人も多いことでしょう。でも、私にはこの2人のキャストがツボにハマりました。
前半、桂木を陵辱して楽しそうにする余田の表情や危ない目。底知れない狂気を感じさせてゾクゾクします。
そして後半、桂木を解放し、燃え尽きたように呆然と佇む余田。虚しさをたたえた表情。あんなに恐ろしかった余田が、だんだんちっぽけで愛おしくなってきます。
この映画、余田役の北代さんの表情のお芝居がとにかく繊細で素敵なのです。
2人が行き着くラストの10分にも及ぶラブシーンは芸術ものです。肉体美だけでなく、2人の体格差とか細かい仕草とか、完璧にBL。局部以外の全てを洗いざらい映し出し、頭から足先まで繊細に表現して素晴らしい映像を見せてくれました。ぶっちゃけ、ここまで思いの通じ合った美しい濡れ場は男女ものでも見たことありません。
このシーンだけでも何度も見ると新しい発見があったりして、監督のこだわり抜いたシーンであることがよくわかります。
キラキラ美少年じゃない大人の男2人が体を重ねるシーンがこんなに切なくて美しいなんて、衝撃的でした。濡れ場ってどんな美形俳優がやってても恥ずかしくなって目を背けてしまうんですが、この作品では2人から伝わるものを少しでも感じたくて、一切目が離せませんでした。
桂木のある一言により呪縛から解放される余田の表情は、劇伴の力もあって心に強く残るシーンとなっています。私はこのシーンが一番好きなんです。
映画としても最高でした。
完成されたストーリー、張り巡らされた伏線、小道具や演出に込められた意味、大切に、そして説得力を持って重々しく描かれた生と死というテーマ、美しい音楽。そしてラストの余韻。
エロくて、ハードで、リアルで、ドラマチックで、重くて、痛くて、切なくて、優しくて、美しくて、ときめく。
私がBL実写で見たかったものが、この89分に全て詰まっていました。
鑑賞後、あまりに満足度が高すぎて「もうこれ以外のBL実写いらないや…」と思ってしまったほど。正直今でも思ってます。
主演の北代さんがおっしゃってました。
「この作品は、刺さらない人には刺さらないけど、刺さる人には刺さる」と。
まんまと刺さってしまいました。しかも心臓に。後遺症がすごくてしばらく抜け出せません。まさに劇薬みたいな映画。