報われない、救われないと分かっていながら好きになってしまう。水橋家の三男・紬里の恋はどうしようもないものです。
「お兄ちゃん」を好きになるのならまだ分かりますが、紬里が好きになってしまったのは次男・和臣でした。和臣はどうしようもない奴です。だらしない大学生の典型型。どうしてこんなのを好きになっちゃうの!と序盤は思っていましたが。
自分が血の繋がっていない家族だということを、紬里は知っています。和臣が自分を拾ってくれたことを覚えていたから。刷り込みのような恋です。刷り込まれてしまったら、もう止めようがなかったのでしょう。水橋家の子どもになってからずっと、紬里にとっては和臣がすべてです。
でも、兄弟の輪を絶対に壊したくない紬里にとってはかなわない願いです。隠そうと必死なのに、それを引っ掻き回すのが、当の和臣なのです。
和臣のいたずらや紬里への態度は度を越えている感が否めませんが、物語の終盤、泣きじゃくる紬里に対して途方に暮れて困り果てる和臣がいます。いじめっこが弱ってしまう描写は素晴らしいですね!序盤の和臣に若干の苛立ちを覚えたことも忘れてしまうほどでした。
また、紬里のどうしようもない片思いの描写も健気で切なくていいです。一緒にいたくてぐるぐるして、結局あんまりうまくいかないのですが。
挿絵のいかにも「かっこいいんだけど性格悪そう」な和臣がグッドです。挿絵全体の雰囲気が作品にとても合っていると思います。
砂原さんの描く、一筋縄では口説き落とせない受けがすきです。
弟分の怪我に代わり、出張ホストの代役を引き受けてしまった外村。てっきり女性の相手かと思えば、訪ねた部屋にいたのは容姿端麗な男性・碓井。
美人なのに無愛想、年上なのに手のかかる碓井。男娼と客という関係ではなく世話を焼き始めた外村が、少しずつ碓井に惹かれていき、碓井も徐々に気になり始めていく……というお話。
碓井は温度も抑揚もない、人間味のない人物です。性行為に恥じらいという概念が欠如していて、あくまで「処理」という考えを持っています。男娼相手に右とか左とかもっと上とか、細かい指示を出します。ムードも何もありません。
しかしその碓井が、外村に(気付かないうちに)恋をして、どんどん恥ずかしがっていくんです。この段階にきゅんとします。濃密になっていく行為の空気、熱っぽさ、艶っぽさ。最終的にはぐずぐずにされてしまう碓井でした。
お互い想い合っているのにすれ違う、変人な受けなのに、切なくなるところはぐっと胸に迫るものがある。ラブコメだとしても、じんわりくる要素をしっかりと書いてくれる作家さんです。
挿絵もよかったです。火傷がないか外村に手をじっと見つめられ、おとなしくじっとしている碓井の表情が、絶品です。
「愛と混乱のレストラン」でのパティシエ・一のお話です。
……やっぱり高遠さんはすごいです。
お話は一が高校生だった頃からスタートします。母親との確執がすべての切欠となり、とどめの傷害事件が起き、どこにも居場所のなくなった一。冬の夜の公園で元担任・湯原と再会し、そのまま湯原宅へ住むようになります。
それから始まったのは、湯原の亡くなった姉の子ども・海との3人の同居生活。この3人での日々が、一を生き返らせていきます。
ずっと3人で過ごしたい、それ以上はもう何も望まない。
そんな一の願いと、3人での生活は反比例してしまいます。亀裂の入る幸せ。誰一人悪役がいないというところが、苦しみに拍車を掛けます。
徐々に徐々に燻りだした一の湯原への想いは、海がいなくなってしまった後で一気に加速します。ある出来事が切欠で、湯原の元を離れた一。そうなってしまって寂しかったのは多分、湯原の方。このすれ違いは切なかったです。
紆余曲折ありまくりの上で、くっ付くまであと少し!というところで、同時収録の「チョコレートホリック」へ。こちらは湯原視点で進みます。
一の先生を口説き落とすための手段はなかなかに凝っていて、エロい。一気に落とそうとせず、じわじわと攻め立てていく一。その手管に見事に捕まって、湯原を手に入れます。
自分を「ずるい大人」だと自覚している湯原もよかった。元生徒に振り回されている先生だということも分かっています。一歩を踏み出せて本当によかったです。笑
帯にあった湯原の台詞に、親父萌えの(経験の)ない私は一瞬ためらいましたが、その不安は杞憂に終わりました。しかも久我の弟・雅紀とくっ付くものかとぼんやり思っていた私…。無粋でした。
あと作品を読み終わった後に口絵を見ると、胸にくるものがあります。
シリーズ既読ですが、読んでいなくても問題はないかと思われます。ただ、シリーズ後の久我と理人をちょっと読めただけでも嬉しくなっちゃいました。小冊子も是非応募したいと思います。
俺様でワガママな作家・由利先生×一生懸命で健気な六車くん
表着物を着ている作家先生、更に膝枕をさせている…。表紙に一目惚れして買いました。
昭和のレトロな世界観で繰り広げられる2人の恋は、じっくりとじんわりと進んでいきます。
俺様な由利先生が、六車くんが可愛くてしょうがないということが第1話で既に分かります。自覚の良さは大人としての経験値があるからでしょうか。一方の六車くんは純情そのもの、恋愛の経験も乏しいのだろうなと感じさせるほどの鈍感さを持っています。くっ付くための試練は六車くんの自覚と恋を受け入れるまでの時間だったのではないでしょうか。
好きな子ほどいじめたくなる心理というのが、六車くんを見ていると分かります。これはからかいたくなるし、お気に入りにもなるだろうなぁと。さらりと一番のお気に入りの玩具と比喩する由利先生には恐れ入りますが。
雰囲気も含めて絵柄はほのぼのなのですが、ふと見せる由利先生の艶っぽさがいいです。慣れているようなキスの仕草や、六車くんを見下ろす表情など。昭和のレトロな世界観の中で見事に映えています。
猫好きな者からすれば、飼い猫の平蔵くんのエピソードもお気に入りです。最後の書き下ろしですが、じんわりとしました。
口数の少ない無骨な先輩ホスト黒石×整形で人生再出発・繊細な白坂
初恋相手とのすれ違い後の再会。
ホストモノを初めて読みましたが、危惧したようなぎらぎらした感じや煌びやかな雰囲気は控えめで、じんわりと温かくなるお話です。タイトル通り切なくて少し甘い、全体を包むそんな空気感がとてもすきです。
整形をしてその後付き合いだすという流れに、最初は躊躇しました。いつかは真実がばれてしまうし、人工的な美しさに惹かれて恋に落ちるというのも、どうなんだろう…と。黒石は顔が好きだと告白の理由を言うので。
しかし最後にその引っ掛かりがするんと解けます。咽喉の小骨が取れるようなすっきりとした無理のない理由が隠されていました。
中学時代に付き合っていた黒石と白坂。ひと夏の恋と言うには余りにプラトニックでしたが、付き合うきっかけになる黒石の言葉が白坂にとって存在価値を感じられた唯一でした。そしてその恋が黒石にとっても26年間の唯一。
一途だったのは黒石だったのでしょう。10年越しの想いが実って付き合いだし、つれない態度を取られても、白坂が心を開いてくれるのをずっとじっと待っています。
最後は2人でこれからを開いていくというような、ささやかな希望のあるハッピーエンドです。呪縛から解かれた白坂と、その隣にいて見守るような立ち位置の黒石。
本当に真面目というか、恋に対して真摯な内容なのですが、黒石はちゃんと?むっつりです。無論ツボ。
独特の絵柄から、高い評価を知りながらなかなか手を出せずにいましたが、買って読んでからそんな自分を悔やみました。描かれている少年は決してスマートではない普通の高校生なのに、線から既に色気が漂っていて、耽美な雰囲気があります。それでもストーリーは純愛で甘酸っぱさそのものです。
派手な外見でお馬鹿な草壁と真面目でお堅い佐条。"まじめに、ゆっくり、恋をしよう"という作者のテーマ通り、ゆっくりとそれでも確実に進んでいく2人の恋愛模様が丁寧に描かれています。
軽そうに見えて佐条がだいすきな草壁が汗を滴らせながら告白する場面と、とても繊細な佐条が本音を吐露する砂場の場面はどちらも秀逸です。
夏の匂いが詰まっている作品です。そんな時期を過ごす男子高校生らしい台詞がいちいちツボに嵌ります。しかしこの方の眼鏡男子は本当にいいなぁ…。
続編の"卒業生"のコミックス化が本当に楽しみです。
「その唇をひらけ」「どうしても」
俺様で無骨な慎司と素直になれないたまき。高校生の幼馴染同士です。
昔も今も変わらず露骨にアピールしてじゃれてくる攻めに、受けはどぎまぎしっ放し。つい突っぱねて自分に来なくなると、途端にしゅんとしてしまう受けがかわいいです。くっ付いてからのモノローグが秀逸です。
お互いに不安になったり嫉妬したり素直になれなかったり。それでも最後はらぶらぶしてます。
あとがきの通り、たまきさんの後頭部が可愛いです。
「ドロップアウト」タイトルに"アウト"の付く3連作。
冷めている大学生(家庭教師)・西念と軽いノリでのらりくらりな高校生(生徒)・嘉一。
恋愛に限らず、他人に対しても一歩離れたところから見ているような攻めが、受けの内面に触れて徐々に絆されていき、本気になっていく過程が描かれています。受けも年上相手に簡単にあしらう様な仮面の下の、可愛らしい年相応の面が引き出されていきます。両者にとってプラスになる恋愛が素敵。
そして猫の擬人化が2本。尻尾にキスをする攻め猫が色っぽかったです。極道と元同級生のほのぼのした短編も。
どこか不器用な登場人物の恋愛がいっぱい詰まっている1冊です。三池先生の作品の中では、色っぽい方ではないかと。
「フリーパンチ」
生徒×先生設定にしては、とってもライトなラブコメとして描かれています。それも、科学マニアで天然お人好しな天野先生がお相手なお陰なのでしょう。同居設定でもありますが、先生自ら他の生徒の前であっぴろげに話してしまう位なおとぼけキャラなので、何だかほのぼのしています。
垢抜けない眼鏡を掛けて受け持つ生徒を全力で愛そうとするこの先生、夏目先生の作品の受けにしては色気が無いなぁと当初思っていたのですが、ふと瞬間に見せる表情が色っぽくて。無防備で隙だらけの先生です。クールでぶっきらぼうな生徒・山田に若干押され気味なのも仕方ないかな、と。
明るいテンションが維持されていて、2人のやり取りににこにこしながら読める作品です。
「絡陽館ワイドショウ」
表題作よりもこちらの方が好みでした。
こちらも同居設定。頭は良くないけれど慕われるキャラ・池田と、秀才だけど性格の悪くて一匹狼な桐野のお話です。
生意気で意地っ張りな受けキャラがどんどん可愛くなっていく夏目先生節全開。ツン→デレという見事なギャップに萌えないわけがありません。またデレのターン時のキャラの色っぽさといったら…。これは堪らないよね、と池田とシンクロしてしまう位でした。
ツレない受けに悶々としている攻めをたくさん見ることが出来ます。夏目先生は本当にこの描写が上手いです。
カバー下の3コマ漫画にも是非萌えてください。