待ちにまった第5巻、通常版の表紙は杉木先生お一人です。
(特装版は違います。)さてこれは何を意味するのか……?
鈴木が出場し鈴木父委員長を務める大会当日の朝、
昔父に言われた試合の日の朝は米を食べろ!という言いつけを守る、いつもの朝、
しかしこの日、鈴木は父を裏切る……
大会のお約束ごと、大金がかかったゲスト選手たちが1位2位を取り、
鈴木達は常に3位、
だから3位相当のダンスをすればいい、本気で踊る必要はない……
その守られてきた不文律をこの日鈴木はぶちこわそうとする。
シード権があるのに一次予選から参加し、関係者を動揺させ観客の目を釘付けにし、
そしてキャップとサングラスで変装した?杉木は会場の隅から見守る。
ベーシックだけで戦う鈴木ペアの踊り、それに触発されたライバル達の思いと踊り。
この静止した絵だけで表されているとは思えないダイナミズムは、
是非実際にその目で読んで味わって頂きたいが
そんな中会場ではアクシデントが起こり、それが鈴木の覚醒を際立たせる。
激動と波乱の試合が終わるが、
鈴木の周りには人が集まりなかなか一人の時間を取れない。
せめて電話で声を聞きたいのに……
タイミング悪く繋がらず、朝になってようやく打ち上げの席を出て
一目散に杉木スタジオを目指すが、玄関の前にはまさかの杉木母の姿が……
一方の杉木は待つことを諦めきれず帰るに帰れず、スタジオの掃除をしまくり(可愛い)
そこに母が現れ「ラテンの鈴木くん」とそこで会ったと告げる。
スタジオを飛び出す杉木、もしや走っていつかの公園で巡り会う二人……
人目も気にせず口づけし抱き合う二人だが……
ここからの展開が、え?!そしてどうなるの?!というものでした。
(あえてネタバレはすまい。)
二人の関係性の本質に迫るもので、杉木が旧友のファンキーなアニーに
相談する下りがとても意味深いのだが、
自覚的な鈴木と無自覚な杉木……というところか。
この巻の見所は、縛りを断ち切って自分の力を解放した鈴木のダンス。
そして二人の関係の行き着く先は、まて次巻!
ダンスに関しては興奮の神の巻でしたが、二人の関係に関しては
まだボルテージが上がりきらず。ということで今回の評価は次への期待を込めて萌×2。
どうでもいいのだが、アニーのファッションとお部屋がなんとも楽しいです(^_^)
最近こういうBLって、珍しいかも……
昔の海外ドラマの大学生活みたいな、キラキラしてでも爽やかで、
個性豊かなイケメンが複数いて、悪役は悪役でぎゃふんと言わされて
最後はみんなハッピーな感じで気持ち良く読了。
出だしのシチュエーションも、最近ではこのパターンは珍しくない?
という、懐かしい王道学園(というには些か年嵩ですが)BLでした。
ハーバード・ビジネススクールという世界最高峰のエリート学府に留学した
一般庶民の日本人・佐藤仁志起(24歳)。
サトウニシキという彼は見かけは(も?)小柄なサクランボちゃんだが
実は武道の達人で、数字に強い努力家。
そんな彼はエリート集団の中でも一際すごいメンツのグループに属することになり……
寮で隣の部屋になったイギリス貴族(金髪イケメン)、ジェイク
世界一有名なアラブの王子様(金髪イケメン)、アーリィ
ドイツの大会社の御曹司(金髪イケメン)
(この3人をまとめて、ゴールデンデルタと称する)
&スーパーな女子二人と仁志起くんというのが、グループのメンバー。
ハードな学習の様子や、家族連れで留学している日本人コミュニティ、など
ただキャンパスの人間関係や恋愛だけじゃない描写が、面白く好感が持てる。
仁志起のお相手は最初に出会ったジェイク。
そしていつジェイクの仁志起への気持ちが友情から恋に変わったのか
正直分かりにくいのだけれど、
どうも周りの目から見ると、最初からジェイクは仁志起一筋だった模様。
個人的には、『熱砂の王』のラシード陛下の従兄弟にして、
『赤い砂塵の彼方』の主人公、中東のスーパーセレブ・アーリィ殿下の
アメリカ留学中の様子が見られたのが嬉しい。
「トイレと間違われたらどうしよう、このタイトル」と一穂先生(笑)
B面という言い方は、アナログ世代にしか通じないけれど
「秘密と虹彩」の国江田さんバージョンですね。
竜起が参加した「富久男選び」のロケに同行した計、潮、なっちゃん。
2カップル計4人(注:国江田アナが4人ではありません)の珍道中。
すらりと格好良く完璧に仕事をこなす国江田アナが、
あんな時こんな時に何を考えていたのか、
相変わらず裏面(あ、これもB面)の国江田計は面白くて可愛くて、愛おしい。
いろいろな積もった思いはお家でゆっくり……と東京に戻り、
夜のレギュラー業務をこなしてようやく潮が出迎えてくれるはずの家に戻ったら
お家はしーんと冷えて真っ暗……
一人仕事で関西に残った潮からは、最終に乗り遅れたとのLINE……
なんとか一人で眠りについたが、明け方に目が覚め……
そこからの展開が、お決まりと言えばお決まりだけれど、もう!神!
以下、盛大にネタばれです。
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続きは帰ったからな、と言った潮のことばが耳に響いて、眠れない計。
ピンポイントでスッキリさせて欲しいと訴える体。
「ああもう、めんどくせーな」と舌打ちをして下着の中に手を差し入れ、
さっさと帰ってきやがれ、このバカ……と潮を思い浮かべながら高まって
潮の名前を呼んだ所で、なんと「何すか」とリアルな返事!
一瞬で凍結した体と頭、そのあとの計の羞恥や行動は容易に想像がつくのだが
ちゃんとそれをくるんで受け止める潮。
そして二人の熱い時間、とその後は再びユーモラスな場面が訪れ
笑って、熱く萌えて、そして最後にもう一度笑って、幸せな気分で読み終える。
相変わらずノックアウトしてくれる、国江田さんでした。
読み終えた瞬間、続巻が待ち遠しい!待てないと叫んでしまった7巻。
前巻で切ない曜明×火弦編が一段落し、新章がスタートし、
今度の主役は、平岡組の現組長・吉利谷と顧問弁護士・財前。
「LOVE MODE」「是」に続き、この作品も沢山のカップルが登場するが、
正直「LOVE MODE」の葵一×晴臣(左右わざと逆ですw)、
「是」の阿沙利×彰伊(これもわざと逆です)のような
魂持って行かれるほど入れ込むカップルに出会えずにいた「花鳥風月」。
サバトも好きだったし曜明×火弦にも胸も涙も絞られたけれど、
ツボ真ん中じゃあない感じが拭えずにいたのだけれど、
今回は、来た〜〜!という感じでした。
財前が勤める弁護士事務所のボスであり、親代わりの恩人である星川。
彼を病院に見舞い、それをきっかけとして二人の関係を変えようとする吉利谷。
添い寝をする大の男達、そもそもこの二人の関係は一体なんなのか?
そして物語は過去に、彼らの関係の原点に遡る……
子ども時代に出会い、中高も共に過ごした二人(本当は一見と三人)。
それぞれ辛い子ども時代の傷を抱えた二人の結びつきは、
他の何物にも代えがたいものなのだが……
幼なじみ、両片思い、互いに自立した大人、
幕開けに描かれる美しい花のモチーフ、もうツボでございます。
正直前巻まで吉利谷にはそれほど良い感情を持っていなかったので、
こんなに来るとは予想していなかったのだけれど、もう続きが楽しみ過ぎます。
巻末には無自覚に甘々な曜明の犬自慢→甘々甘々なHの「幸福のわんこ」が収録。
正直、え?まだページ数あるんだからこのまま吉利谷達の話を続けてよっ!
と思ったのですが
読んでみたら、キュン!として萌えまくり、これまた満足でした。
Amazon限定特典の8Pのショートストーリーは、
本編の間を埋める、「あのとき」に財前は何を思っていたかが分かるもの。
これは個人的には(財前に入れ込んだので)必読だと思います!
この本、表紙の黄色の使われ方がyocoさんの絵に映えて印象的なのだけれど
読み始めて「なるほど!」DUCATIのscramblerのカラーなんですね。
ここ数年各社が競って発表しているスクランブラーモデル、
DUCATIって言えば一般的なイメージはイタリアンレッドだけれど、
スクランブラーに関してはイメージカラーも黄色なんですよね。
https://scramblerducati.com/jp
と、それはさておき、このバイクというアイテムを
魅力的に使った一作。
バイクという趣味を通じて、走りに行った先で名前も知らずに出会い惹かれ、
仕事を通じて再会し、真面目に恋愛をしていく様が描かれている。
お仕事の描写も適度な案配で、それなりの困難も乗り越えていく
地に足がついてた大人の恋愛模様。
どちらも男らしく自立した職業人としてもかっこいいところが、とてもいい。
トライアンフとドゥカティというイメージは、主人公2人のイメージにも被る。
ツーリングシーンも2人の関係がよく分かるし、とても気持ち良く読了。
今まで読んだ水原作品とはちょっとテイストが違うかな、と思うが
個人的にはこのまとまりの良さ、サラッとした気持ち良さに軍配です。
昭和初期の寮制旧制高校が舞台の、典雅風青春ストーリー。
『摩利と新吾』が好きだった(=無自覚に腐っていた)思春期の記憶が活性化し
うわ〜、旧制高校のドイツ語(スラングですね)だあ!とそれだけでテンションが上がる。
うん、面白かった。
なんと言っても主役2人のキャラクターがすごく好み。
小林作品のキャラはきらいじゃあないけれど、ツボ真ん中ってことがあまりなく
そういう意味では今まで読んだ典雅先生作品の中で一番のヒット。
ただし、大好きなこの「ドイツ語スラング」、典雅節を堪能するにはいささか不向きかも。
前半は受けの捷くん視点なのだが、彼のキャラがまっとうな良い子なこともあって
レトロな雰囲気にも浸りきれず、爆笑モードにも入り切れず、
良い感じではあるのだけれど、インパクトは弱めで穏やかに読了。
個人的には、後半、孤独なクールくんに見えていた攻めの草介の心の中の空回りっぷりが
なんとも楽しかった。
典雅作品は、ちょっと変態がかったこういうのがなくっちゃ!という感じ。
アホ臭い程のその心中のBGMとしてクラシックの名曲が流れるのが、また可笑しい。
ということで、全体としてはかなり楽しく読み終わりました。
今後の攻めの暴走ぶりを期待します。
スピンオフ要員もいるし、また彼らに会える機会もあることと楽しみにしています。
追記:
メチャクチャなレビュータイトルは、『摩利と新吾』の副題
ヴェッテンベルク・バンカランゲンになぞらえて。
全く意味不明なドイツ語もどきです。
追記その2:
ところで、この舞台。
武蔵野にある私立の旧制高校で、私鉄二駅のところに繁華街があり
そしてお祭りの名前は「紀念祭」。
ということで、練馬にあるM蔵ですね。
ただし実際のM蔵は、創立は大正で7年生(中高一貫)だったようです。
一穂先生、叙情派みたいに言われているけれど、
イエスノーは爆笑→キュンだったし、実はトリッキーだよねぇと思うことが多い。
(褒めています!)
流れに乗って読んでいるうちに、え〜そう来たか!というのを自然に受け入れさせられ
ちゃんとジワッと切なかったりキュンときたり、でも読み終わると暖かい、
新しい仕掛けもさりげなく自然に取り込んで、違和感なくその世界に入れる
そんな作風が定着しつつあるのだけれど、これもまたそういう作品でした。
:
主人公・御影澄は、AIによる婚活サイトの会社に勤める23歳と10ヶ月。
趣味は少女漫画を読むこと、JKみたいにピュアに恋に憧れる恋人なし青年。
会社の商品であるマッチングサイトに登録したものの、
実際には結婚なんてまだ考えられない彼は、ある日社長室に呼び出される。
俺何かしたっけ?と不安になりながら出向くと、
そこには社長と共に汚らしい風体の男が待っている。
社長が厳かに(?)告げたことにはマッチングサイトが
澄に「運命レベル」の相手が見つかったとはじき出したらしい。
え〜!ビックリ……と思っているとさらなる爆弾投下!
なんとその相手は、社長にそれで電車に乗るなと言われたそこの小汚い男
我が社のAI開発責任者の門脇楡氏だというではないか?!え〜!!
:
テーマは流行のAIか!と思いつつ読み始め、着地点は……
純文学に近かった『meet, again』から8年。
レビュータイトルにした『ストレンジラブ』は澄が勤める会社の名前だが、
『meet,again』でも印象的なモチーフだった映画『博士の異常な愛情』から取られている。
(原題はDr.Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)
後半の展開は、え?あ〜?あ〜〜!と言ったミステリー小説の醍醐味的な感じで
これは是非読んで頂いて味わって頂きたい。
時々挟まる架空の少女漫画のエピソードが、コミカルで可愛らしい薬味。
(タイトルがまたいかにもで可笑しい。)
この「運命の相手」の門脇楡氏。
澄がクレープの丸く平らな焼き器になぞらえた、フラットさ、
出会いこそ匂いそうに小汚かったが、お風呂に入って整えればシュッとした美形。
ちょっと(かなり?)不思議で個性的な彼の、背景と過去。
そんな楡に澄は、振り回され腹を立てながらも少しずつ惹かれ、
本人が感じていなかった痛みを感じ、自分ではコントロールできない気持ちを抱く。
澄の素直さに「自然」が分からなかった楡もまた惹かれていっていると思ったが……
脇役の個性が際立ち味わいと世界を広げているのもいつも通り。
特に、澄の幼なじみで妹・真子の婚約者・公の
「運命なんて、真子を傷つけていいほど大層なもんじゃない」
という台詞はグッとくる。
水槽みたいに青い春の夜の人恋しさ、窓ガラスを流れ落ちる雨……
イマドキで理系っぽい設定なのだが、そこに挟まれる繊細で美しい情景の描写と
そこから自然につながる物語の巧さは流石。
梨とりこさんの絵は、表紙よりも中の挿絵や特に口絵がいい。
:
書き下ろし『それでも、運命ではありません』は、
春を待つ2月、出会ってから10ヶ月、順調に付き合いの続く二人。
ご多分に漏れず、少女漫画よろしく、すれ違いと浮気疑惑が発生し……
すごく人間らしくなっている楡にニヤニヤ。
最後はこれまた少女漫画っぽい図で、ニヤニヤ。
ここで重要な脇役(?)は、キャベツについていた青虫です。
夕映月子さんは、デビュー作で惹きつけられ以来作家買いしている作家さん。
ご本人山がお好きで、
山岳BLと言いたいような物語を生き生き書いてデビューした夕映さんだが
その後は色々なジャンルに挑戦されているように感じる。
その心意気は買うのだが、正直個人的には当たり外れが大きい印象。
本作は私的には「しゅみじゃない」作品でした。
今作のテーマは、「恋にセックスは必要か?」……
BLにはエロありきが当たり前で、気持ちが通い合えばセックスをする、
時には通い合う前からセックスをする。
そんなBL界の風潮に真っ向から疑問を呈したコンセプトはなかなか面白い。
*
稀なる美貌が故に、幼少期から同性よりの欲望の対象にされてしまい、
そのトラウマから男性恐怖症の瑞希は、それなのに恋愛の対象は男性というゲイ。
そんな彼を見初め、経験豊富なのに今更ながらの本気なピュアの恋をし、
辛抱強く見守り関係を深めていく黒川。
気持ちはちゃんと繋がっているのに、触れ合うことに恐怖すら感じる瑞希。
その心の鎧が少しずつ崩れて、最後は穏やかに抱き合うことができるという流れは
むしろ好みだと思うのだが、特に受けのキャラに魅力を感じず
気持ちがのれずに読み終わることとなった。
攻めのスパダリぶりはなかなか好印象ではあるのだが、
攻め受けどちらもなんというのか、いかにもという絵空事っぽい現実感のなさが
この深く切ない設定を生かし切れていない、というのが感想。
同じベッドで寝ても抱けない切なさに、攻めが夜中に自慰をするシーンがあるのだが
ものすごく好きなシーン(のはず)……なのに、全然萌えられず、
その後体を繋ぐまでのあれこれも結構細かくかかれており、
主人公達に思い入れていたたら、すごく萌えるシーンのはずなに……
と、とても残念な気分になったのでした。
それと……
挿絵のミスマッチ感も、気持ちがのれなかった大きな要素の一つ。
秋吉しま さんの絵自体は嫌いではないが、表紙を見てもややコメディ寄りに見えるし、
瑞希はすごい美貌という設定なのに、全然そういう感じに描かれていない。
ただの可愛い男の子に見え、瑞希というキャラが
単に臆病で幼稚な子どもに見えてしまう。
これが違ったテイストの絵師さんだったら、印象は全然違ったのかも?とも思う。
OPERA Cafe(コラボカフェ、2018春)記念本。
A5版、156ページ、
ZAKKさんの裏表紙まで続くスタイリッシュなイラストの表紙
真ん中のタイトルの赤い四角はつやのある印刷、という非常にオシャレな作り。
なかなか後日談や番外編を描かれない作家さん達も勢揃い、という
嬉しい1冊です。
最初はOPERAの看板と言えば君たちだよね、という「同級生」の二人から
(エピソード的には「卒業生」からですが……)微笑ましくスタートし、
最後はbassoさんが甘いだけじゃない味わいでOPERAらしく締める。
ホノジロトヲジさんの双子のイラストの口絵に続き、
25人の作家さん達がそれぞれカフェというテーマで短編を描いています。
OPERAという雑誌がお好きならば、読めて嬉しい持っていて嬉しい1冊です。
個人的に特に読めて良かった!と印象に残ったのは、次の二編。
松尾マアタさん 『あやまちは紳士の嗜み』番外編
某ジーンズ店からクレームが来て店名を変えた「angel donuts」、
どうも大繁盛しているご様子でなにより。
久しぶりに店にやってきたジョナサン、そこに教授もやってきて……
昨年やっと続きが読めて嬉しかった本作品、こんなにすぐに番外編が読めるとは!
エンジェルはレヴィと幸せそうで、これまたなにより。
本編の最後は未来がはっきりとは見えない感じで、ちょっと切なかったのだが
この番外編ではどうなったか?は分からず(それがまたいいと思うのだが)
相変わらずのオシャレな雰囲気の中、通常運転の二人が見られます。
西田ヒガシさん 『やさしいあなた…』番外編
モナリザの歌が流れる一編の映画のようだった本作。
裏家業に生きる男達の少年のような可愛らしさと切なさ、そして散りばめられた笑い。
オチにも後書きにも「おお!」という感じだったが、
その後の出所後の二人を見たいと思った方も多かったのでは?と思います。
素敵なその日を見ること、それが叶います。
モナリザの歌は歌っていなかったけれどね。
追記:
bassoさんの『カフェ・ローマ』amato amaro番外編に出てくるブリオッシュ、
あれ?この形ってクロワッサンじゃあないの?砂糖?と思われた方いませんか?
イタリアでは、クロワッサンのこともブリオッシュと呼びます。
例のだるまのようなものもブリオッシュですが、
バターたっぷり発酵させたブリオッシュ生地を使ったものはみんなブリオッシュ。
ちなみにイタリアでブリオッシュは、パンではなくドルチェに分類されます。
柔らかに見える一穂ミチという作家の容赦なさ、そんなものを改めて感じた本作だった。
人が人を好きになる気持ちは、一体人間の体のどこに宿るのか?
今では心は脳にある、と誰もが知っていて、でもどこかで納得できない
そんな根源的な問いが作品の根幹にあって、読み終わった後
ハッピーエンドなのだとは思うけれど、手放しで喜べず
タイトルは「キス」というこの上もなく明快でシンプルなものなのに、
考え込んでしまうような作品だった。
幼なじみの明渡と苑。
片や地元名士の息子でいつも人の中心にいるような明渡と、
両親から虐待され、学校では蔑まれ、目立たぬように静かに生きる苑。
恵まれた明渡は何故か(そう何故か!)苑に執着し、
体温の低い印象の苑は、差し出されるまま自分から握り返すこともなく
明渡と繋がっている。
有能で明るく自信のある明渡は、どうしても(どうしてだか)苑と一緒にいたい。
小5に始まり、高校生、大学生、社会人と長い時間を経た中で
後半突然、それまで張られていた伏線が「あ!」という感じで回収されるのは
なんとも見事。
見事なのだが、普通のBLだと思って読んでいた読者は
そこで初めて当初の問いを突きつけられ、
自分が追ってきた彼らの過ぎ来し方、彼らに積もった時間を思って胸が痛むのだ。
この「あ!」の中身は、是非実際に読んで頂きたいので書かないが、
ただ密やかに息をしていた苑が、その後しっかりとした存在として浮かび上がる。
単なる筋立てのご都合ではない女性の存在感と、
脇役それぞれに(たとえそれが悪役であっても)それぞれの人生があると
感じさせる筆致はいつもの通り。
要所要所でそれぞれ意味の違う「キス」が出てくるのだが、
脇役果菜子の場面が映像として美しい。
ここからが始まりというエンドだが、
主役2人は、これからどのように生きていくのだろうか?
再出発した2人の人生に幸あれと願うが、
関係というのは意志を持って育み続けるしかないものなのだ、と
改めて深く思いながら本を閉じる。
非常に印象的な物語だったが、キャラクターへの好みの問題もあり
心を持って行かれるような萌えは薄く、評価は「萌」。
※BLとしては、明渡視点の特典ペーパーで補完すると座りがよく
更には苑視点のnoteの小話まで読むとほっこりします。