『透過性恋愛装置』と『上海金魚』の番外編から成る同人誌です。
「恋は遠い日の花火でなく」では、『透過性~』のストーリーが攻、牧田の視点から語り直されています。本編では、牧田がどうして落ちたのか、イマイチ彼の心情が見えにくい感もあったのですが、こちらでは彼の心情の動きがじっくりと描かれていて、また、牧田の目を通した北嶋の一途でいじらしい姿も浮き彫りになっていて、とても満足しました。
離婚の際に負った傷が、牧田を恋愛感情から遠ざけていましたが、北嶋に付きまとわれ(笑)、猛烈にアタックされる中で、忘れていた、彼にとっては遠い日の感情を心の中で再度湧き上がらせていくことになります。単に押せ押せの北嶋に絆されて付き合い始めたわけじゃなかったんですね。
牧田は、初めて出会った時から北嶋に対して恋愛感情ではないにせよ、どこか興味を惹かれていて、北嶋に告白され、プライベートな領域を抉られて痛みを感じ、平静さを失うことはあっても、北嶋自身に対して不快感を抱くことはないんです。むしろ成熟した大人のはずの牧田が、そこで平静さを失い、北嶋にむき出しの感情をぶつけることが、牧田における北嶋の位置づけが(はっきり意識していないけれど)特別だということの表れとして描かれているように思いました。なんだかんだ戸惑いながらも、北嶋の存在は、牧田の中でごく自然に特別なものとして受け止められていくんですね。
一番グッときたのは、ホテルでただ一晩一緒に眠って、朝、別れ際に北嶋に縋るようにせがまれてキスするシーン。いやあ萌えた!牧田のいままで気持ちを抑え込んでいたタガがはずれ、衝動に駆りたてられる描写が秀逸でした。本当はこのまま別れてもう会わないつもりだったのに、その決意がぱあっと霧散しちゃう瞬間がもう‥!牧田の閉ざされていた心が本当に解放された瞬間だったのかなあと思いました。
『透過性~』のもう一つの番外編、『迷走性恋愛模様』は、クリスマスデートに向けて北嶋が甲斐甲斐しく準備を頑張るお話。この子、本当に可愛いww完全に牧田バカになって、彼の中では、もう世界は牧田を中心に回っている感じなんでしょうね。とにかく牧田を喜ばせることに命を懸けている北嶋の一途ぶりがたっぷり拝めます。相変わらず周囲の都合はお構いなしに目的達成のために相談を持ちかけて歩くんだけど、全部相手が言うことをそのまま受け入れちゃうあたりが素直というか単純というか‥。KWで俺様でちょっとおバカな健気受けって最高に萌えます♪しかも牧田の前では結構Mっぽいのがまたいい‥!どんどんエロさも増してきてるしw
『上海金魚』の番外編の方は、二人の性格に拠るところもあるのでしょう、とても落ち着いたゆっくりとしたテンポでストーリーが流れて行く感じがして、ホッとしますwいい意味で大人の、安定したカップルですね。穏やかな気持ちで読み進めることができます。『透過性~』では、北嶋が次に何をやらかしてくれるんだろうとドキドキしますしね~(笑)この2カップルが揃うと、ちょうどバランスがとれているような感じがします。一冊でカラーの違う二つのカップルを楽しめて、お腹いっぱいになりました♪
英田先生のヤクザものです。下剋上+敬語攻め。組長×組長という珍しい組み合わせですね。あえてカップルという言葉は使いませんwお互いに惚れてるんだけど、鼎が頑固で不器用すぎて、恋人関係にはなりえないので…。なのでBL的に見てハッピーエンドかどうかは判断が分かれるところかなあと思います。
父親の跡を継ぎ、組長となった深弦の前にかつて自分と組を裏切った鼎が組長として自らの組を率いて現れます。深弦は、鼎のことを誰よりも慕っていたんだけど、鼎は深弦を強姦し、兄貴分を刺してその女と逃亡。ゆえに鼎は深弦にとって組を裏切った男というだけではなく、自身にとって忘れがたい憎むべき相手なんです。
だけど、再会後、強引に鼎に抱かれた深弦は、憎しみの裏にある鼎に対する強い愛情に気づいてしまいます。さらに、鼎の中に秘められた自分に対する未練にも気づいていきます。
本当は互いに思いあっている二人だけれど、あくまでも対立する組に共に対抗するという組同士の利害関係のために手を取り合います。抱き合うのも組長同士のある種の「契約」。こういうビターな関係はもどかしくて結構萌えます♪
ただ鼎というキャラ自体にはあまり感情移入できなかったですね。理由があるにせよ、深弦を強姦してから逃げ去ったことはあまりにも自己本位的だと思いました。深弦を強姦することで憎しみを植えつけて、深弦の存在を断ち切ろうって自己本位だし短絡的…。
そんな過去があるので、本当は深弦のことを恋人としてベタベタに甘やかしたいんだろうけど、それを自分に許すことができないんですね。自分で自分を呪縛して苦悩してるわけだけど、これはまあ自業自得かな。
不器用な攻めは好きなんですけど、鼎は頑なすぎて結局「自分がどうあるべきなのか」を優先させていて、相手にとっての幸せまで思いやれてないというか。英田先生の描かれる攻めって、自分のそれまでの生き方や価値観を捨ててでも相手にとっての幸せを一番の優先事項にしてるキャラが多く、鼎のような石頭タイプは珍しいような…。
個人的には、深弦の側近、井浪の方がずっといい男だと思います。つねに深弦を側で見守る、よく状況や物事も見えている渋い大人の男です。本当に深弦のことを大事に思っていて、深弦が危機に瀕したら、盾になって深弦を守るんだろうな。(残念ながら?お父さん的ポジションですがw)
一方の深弦は清楚な漢前受け。大好物のツンデレ受かと思いきや、徐々にツンデレさは薄れて行ったような。でも、一途さを持ちながらも、女々しくならず、矜持を保っていて、聡明なところが大変ツボでした♪クールビューティーな組長さんって素敵ですよね!やっぱ英田先生が描かれる受って好きだなあ。
表題作はビターなまま終わるのですが、書下ろしでは、少しばかり甘い場面が描かれます。父を亡くして疲弊する深弦への誕生日プレゼントとして、一日だけ二人は普通の恋人同士のように過ごします。この一日がほんの一時の夢のように描かれていて秀逸でした!互いに正直に愛情を示すことができる一時。このお話の場合、あまり甘くなりすぎるとバランスが悪かったり、お話の主題から逸脱してしまうと思うんだけど、ほどよい甘さが閑話的に挿入されている感じで、ビターさと甘さのバランスが絶妙だったと思います。
二人の関係はビターなままだし、大きな組と戦っていかなければならないという将来に対する不安も残りますが、新しく「恋人以上に深い絆」ができ、とりあえずは二人にとっての最大公約数的な幸せが生まれたのかなーと思います。(というか、甘々な二人って想像出来ないんですけどw)でも、こういう形ができたのは、自分の欲を抑え、鼎の本心をしっかり汲み取ってあげる深弦の聡明さに負うところが大きいと思うんですよね。このお話って、攻めより受けの方が包容力があるような気が。今後も、がんじがらめになっている鼎を深弦が主導していくんじゃないかなあ。
エビリティノベルズ第1巻。俺様王子久家×クールビューティー益永カップルのお話です。
同僚同士、年下攻め。
このカップル、シリーズ中一番のお気に入りです♪とにかくどっちも可愛い!恋愛経験がない初心な受けが可愛いのはもちろんですが、遊びなれてるはずの攻めが初々しいというのは大変な萌えポイントです。ギャップ萌えというやつですね!
犬猿の仲だったはずの(というより益永が一方的に嫌悪しているという方が正しいかな)二人の関係が、ある一夜をきっかけに毎夜身体を重ねる関係へと大きく変化を遂げます。
ここからね~益永も久家もどんどん可愛くなっていくんですよ!益永は、久家の手を拒めずに久家に溺れていくんですが、今の関係を久家の気まぐれだと思ってるんです。まあこれは、これまでの久家の女癖が悪すぎたことが原因なんですが。読んでる方からすると、久家が益永に本気で惚れてるのが手に取るように分かるんですけどね。益永の「初めての」デートを獲得してはしゃぐ久家が超可愛かったですww
ストーリーが進むにつれて久家の俺様な顔に隠れた優しさや献身ぶり(益永限定なんですけど)、天才肌な仕事ぶりの背景にあるしっかりとした価値観が見えてきて、読んでる側の久家への好感度はぐんぐん上がってきます。そんな久家の存在が自分の中でどんどん大きくなることに戸惑う益永もまた可愛い!童貞(処女)受って萌えです♪
この二人って年齢的には立派な大人で仕事もめちゃくちゃできるエリートなのに、すごく初々しいんですよ。益永は対人関係が苦手で接触恐怖症もあり、今まで恋愛感情というものを抱いたことがないから初々しくて当然なんですけど。一方の久家も、女性経験自体は豊富なんだけど、本気で心の底から恋をした相手は今までいなかったので、これが「初恋」なんですよ。いわば初恋同士の恋みたいなもので、そりゃ初々しいですよね~。
「益永和実のユウウツ」
「プロローグ 久家有志のユウウツ」
両想いになったものの、自分の思いと恋人の思いに温度差があると不安になる久家。うう、可愛すぎる~。恋する男の一途さ、切羽詰った感がいいです!
「益永和実のユウウツ」
こっちは益永さん視点。感情表出が苦手な益永ですが、久家を真剣に想っていることがよく伝わってきます。
お互いに深く思いあっている二人だけど、性格やこれまでの生き方の違いゆえに二人の間には、ちょっとばかり恋愛に対するスタンスの違いがあるように思います。オフィスであろうが、隙あらばスキンシップをしかけ、絶えず「好き」と口にする久家。対して久家のことは大好きだけど、公私の区別をはっきり付けたい益永。こういう違いから久家は本当に愛されてるのか不安になり、益永は自分が恋愛経験豊富な久家に振り回されていると感じ、自分と久家の経験の差に引け目を感じてる。こういうすれ違い(ってほどでもないかw)は好物です♪
公私のケジメは付けたがるけど、無自覚に「誘惑フェロモン」を垂れ流す益永に久家が悶々としているのが笑えます。久家がちょっとずつワンコ化してきてるwwでも勝手に益永の部屋の合鍵を作っちゃったり、情事後の益永の寝姿を撮影したりと随所でしっかり俺様ぶりを発揮。俺様なくせにワンコって何とも味があっていいです(笑)
『堕ちる花』シリーズの第2弾。前作よりもエロ度が格段にアップしています。正直なところ、エロの印象が強烈すぎて、一回読んだだけだと、どんなお話だっけ?と肝心なストーリーが思い起こせないという感じでした(笑)全体の3分の一くらいはそういうシーンだったような…。省吾兄さん、エロスイッチが入ると凄まじいです。誠を壊す気か、と何度も思いましたw女装やらお道具やらバラエティーに富んだエロが展開されていましたが、特に乳首攻めが凄かったデス。
エロの話はさておき、今回のお話の鍵は、亡くなったとされる省吾の母親、薫の影でしょう。この母親が、魔性なんて言葉では生ぬるい、まさに自らの狂気でもって他人を食い殺す猟奇的な人物なんです。母親の狂気は、「好きになったら殺したくなる」という言葉に端的に表れていますね。省吾は、幼い時に垣間見たそんな母親の狂気を自分も受け継いでいるかもしれないという恐怖を抱いているんですね。薫という女性は、実際に姿を見えなくても、あたかもそこに存在しているかのように思わせる存在感があって、それがお話の怖さ・不気味さを引き立たせているように感じられます。何かホラーチックです。そんな中で兄弟の父親が事故に遭う、誠が襲われる等の色々な事件起こり、それらは一応解決をみるのですが‥。
省吾が精神的に疲弊しています。ていうか病んでる。省吾にとって誠の存在は、アンビヴァレントなんじゃないかな。自分を癒し、救ってくれる存在である一方で、誠を愛することで自分の内にある闇に気づかされる。愛すれば愛するほど、自分の中の母との親近性を自覚せざるをえなくなり、苦悩と恐怖が深まっていく。
省吾は誠をいつも自分の手の中に置いて独占したいと思っているんですよね。誠を抱くという行為は、誠が自分の手中にいることを確認して、安心したいという気持ちの表れだと思います。激しくめちゃくちゃにしても誠が自分から離れていかないか、それを試しているんです。だけど、同時に自分の独占欲からくる衝動が、誠を壊してしまうかもしれないという恐怖をも抱いている。誠を壊してしまうということは、母親と同じ道へと堕ちていくことになるわけで、そうなることが省吾は怖くてたまらないんですね。このあたりの心情・葛藤の描写はすごく面白かったです。
こうしてみると、エロの濃厚な描写も、ストーリーの流れやキャラの掘り下げにおいて必然性を持っているんだなあという気がしますね。
ここまで兄の事ばかり書いてきましたが、誠は相変わらずいじらしくて可愛いです。そして強い。もちろん兄弟で愛し合うことに対する背徳感や逡巡はあるんですけど、それでも兄に付いて行く、兄の手を離さない、という意志の強さは持っていると思います。まあどこでもヤリたがる兄さんにはちょっと困惑気味っぽいですが‥。でもいざやるとエロいんですよね。それも無自覚で。そういうところが兄さんを煽ってるんですよ~!
お話の方は、ラストで黒幕が登場し、佳境に入っていくことを予想させて次巻に続いていきます。
花嫁ものは地雷だと思っていたのですが、これは、楽しかった!ヒューマンドラマ(コメディ?)として楽しめる作品だと思います。
拓海から感情を持たない「超合金合体ロボ」と評されていた朝倉が、真っ直ぐな拓海と触れ合ううちに、人間らしい表情を見せるようになる過程と二人が気持ちを通わせて行く過程が併せてじっくり描かれていて、どんどんお話に引き込まれていきます。
拓海は、凄く性格のいい子です。顔は女の子みたいで可愛らしいんですが、中身はとても男前で度量が広い。そして、先入観に囚われない柔軟さと庶民感覚に基づいたな真っ当な基準を持っている。(まあその柔軟さや真っ当さゆえに、常識はずれな人間達に引きずり回される損な役回りをするハメになるんですけどw)なので、年下受という感じがしないんですね。朝倉に普通の人生の楽しみを教えてあげたり、どこか拓海が朝倉を育てていくという感じさえする。
物語が進むにつれて、朝倉がどんどん可愛くなっていっちゃいます。なんだかんだいっても朝倉ってそれほどスレてないし、根っこは素直なんじゃないかな。どちらかというと、子どものまま大人になった人という感じがします。本当は、心の奥では色々な感情が渦巻いているんだけれど、それらを自覚して表現することができないというか、ある感情があっても、それが何であるのか分からないというか。それは、朝倉が育った家庭環境によるところが大きいんですけど。子どもの感情を育むには程遠い環境ですからね。そんな朝倉ですが、拓海と触れ合ううちに色々な感情が引き出され、やがて拓海に強く魅かれていきます。
作者様のユーモアとテンポ感が秀逸でした。朝倉のトンデモお貴族様ぶりも、個人的には、鼻につくというより、むしろ笑いを誘う要素になっていたように思います。朝倉家当主の正妻と愛人がバチバチやりながら同じ敷地に住んでいるという朝倉家のぶっ飛んだ事情も、華麗なる一族か!とか突っ込みながら笑わせていただきました。
姉、美花のキャラも素敵です。凶暴で計算高いだけかと思いきや、ひたむきさや情の深さもある、味のある女性でした。BLに出てくる女性って、どうでもいいキャラor好感の持てないキャラが多いんですが(笑)、彼女には感情移入できました。なんだかんだ言いながら、やっぱり愛着のある男の方を選んじゃうよね。美花の彼氏、エディ(日本人ですよw)は、徹底したヘタレキャラですが、土壇場で根性を見せて、ストーリーの転換に貢献し、ヘタレなくせに、ある意味キーパーソンとなりました。彼が美花をさらっていく場面では、ちょっとウルッときてしまいましたね。BLでまさか男女のカップルに萌えるとは思わなかった(笑)
姉の婚約者ということで、もちろん拓海の中には、朝倉と気持ちが近づいていくことに対する背徳感もあるんですが、センスある軽妙なユーモアのお陰で、作品全体がに重くなることはありません。笑いを誘う地の文(時々シニカルですけど)がところどころにバランスよく配置されていて、作者様の文章センスの素晴らしさが伺えます。重くなりすぎないんだけど、でも例えば、二人が結ばれる場面では、「一度限り」という想いから来る感情の高ぶりがじっくりと描き込まれ、切なくなりました。笑いと切なさが絶妙に同居している、という感じですね。
拓海がウェディングドレスに着替える部分は、緊急のドタバタとしてコメディタッチで描かれていたせいか、意外とOKでした。個人的には「男がウェディングドレスを着る」という事態が、さも普通のことのように描かれるとダメなんですよね~。が、本書のように、普通じゃないんだけど、話の流れ上必然的に着なきゃいけないことになりました、みたいな感じだとすんなり受け入れられてよかったです。
秀さんの業界ものがどんな風に再現されるか楽しみにしていましたのですが、期待以上の出来で大満足です。近藤さん演じる傲慢極まりない俺さま攻めも遊佐さん演じるストイックなクールビューティー受けも、どちらもぴったりハマリ役で萌え萌えしながら聴いてました♪
澤村(攻)は、水嶋(受)への想いを自覚するまでは、徹底して身勝手で酷い男なんですが、そんな澤村を近藤さんは、もう聴いててムカついて、殴ってやりたくなるほど見事に演じてらっしゃいましたね(笑)仕事の場面でも恋愛の場面でもいつも自信満々。オレの思う通りにならないことなんてねえよ、と言わんばかり。水嶋に対しても自分に思いを寄せているのをいいことにやりたい放題です。でもムカつくんですけど、凄くセクシーでカッコイイんですよ~。フェロモン垂れ流しという感じで。これならそりゃ女にモテるだろうな~と納得です。まあもうちょっと子どもっぽく演じてもよかったかな、という気もしますけどね~。精神年齢低いですしね、水嶋ってw
そんな澤村が水嶋に拒絶されて初めて自分の想いを自覚するところでのテンションの変化が見事です。水嶋は、おそらく人生で始めて手に入らないものに直面し、うろたえ、戸惑って、不安でいっぱいになっていると思うんですが、そうした澤村の人生の一大転換とも言うべき事態がよく出ていたんじゃないかな。
一方の遊佐さん演じる水嶋。こちらは澤村と対照的で自分に対して自身が持てない、コンプレックスを内包した神経質で繊細な人柄なんですが、遊佐さんが、それを抑制的で細やかな演技で表現しておられます。素直になれずあえて冷たい態度を取ったり、無表情を装っちゃうところや傷つくのを恐れ、澤村の存在を心の中から閉め出そうとするツンデレぶりがかわいくて、切なくてヤラれました。クールな仮面が外れそうになる瞬間がいい!!遊佐さんの演技は、水嶋の心情の推移がひしひしと伝わってくるというか、その瞬間、瞬間にほんの少し浮かび上がった心の中の漣のようなものを、陰影やちょっとした間の取り方で絶妙に表現されていたように思います。水嶋の動揺とか不安、期待といった複合的で揺れ動く感情が伝わってきて、引き込まれました。
最後に重要なのは、やっぱり濡れ場の表現ですよね(笑)これがお二人の相性もバッチリで素晴らしかった!近藤さんの攻め喘ぎがエロすぎでした。言葉攻めがまたまたエロい。自信たっぷりにデカイとか持続力がとか自信たっぷり偉そうに主張してるところがさすが俺サマ。遊佐さんの抑制されたエロティシズムもいいですね。こういうどこかストイックさを残した乱れ方は、却ってエロくて、そそられますw
新米弁護士、津田真澄は訪ねていった遠距離中の恋人からひどい言葉を投げつけられ、ショックのあまり浴びるように酒を飲み、泥酔したところで、行きずりの男と関係を持ってしまいます。が、一晩だけの相手だったはずが、その後、思わぬ形で男と再会することとなって…。
恋人の言葉が深い傷となり、津田は心を閉ざしてしまいます。自分を肯定することができなくなり、セックスでも快楽に素直に従えなくなってしまうんです。恋人の暴言はあんまりですね。もはや人格否定だと思います。津田にとっては、まさにこの暴言が心を抉る刃となり、後々まで尾を引くことになります。このお話は、心に傷を負った津田が、そこから立ち直り、自分を取り戻して行く過程を描いているわけですが、恋愛だけでなく、かなりお仕事やサスペンスに比重が置かれていたような気がしますね。むしろお仕事やサスペンスの合間にラブが描かれると言った方がいいかな。津田が弁護士としての意識に目覚めていき、地道な案件にもやりがいを見出していく過程が丁寧に描かれていたあたり、読みごたえがありました。また、犯人の心情にしっかり触れられていた点もよかったです。人間って、正しく生きたいと思っていても、いつ、どんなきっかけで罪を犯してしまうか分からないから怖いなあと思ってしまいました。
さてさて、相手の男、深町は刑事でした。弁護士と刑事という微妙に利害が対立する関係にある二人。深町が津田の事件調査に協力する形で行動を共にすることとなるのですが、なかなかじれったい関係が続きます。
深町は、当初、調査協力の見返りに津田の体を要求したこともあって、俺様攻めかと思いきや(顔も強面だし)、なんのなんの、気配りが出来て、とっても真っ直ぐで優しい男でした。津田の失恋話やキャリアに関する悩みを聞いたとき、津田が一番欲しかっただろう言葉を自然にかけてあげたところなんか、心の機微が分かるいい男だな~としみじみ思いました。
ですが、彼が出した上記の交換条件がすれ違いを生んでしまうんですよね~。本当のところ、深町は津田に一目ぼれだったんですが…。好きなら好き、と一言言えば、津田も悩みを深めずにすんだかもしれないのに。多分、深町にとって津田はクールビューティーの高嶺の花で、好きだと言えなかったんだろうな。交換条件は彼なりの苦肉の策だったんでしょうね。ま、この不器用さも深町の味なんですけどね。
味といえば、深町が作った無骨な「シャケ缶鍋」(なんちゅうネーミング)に萌えました。いいですね~男の料理。この場面のイラストも秀逸。得意げな顔の深町と微妙な表情の津田のコントラストが笑えました。
散々すれ違った二人ですが、最終的にはしっかりバカップルに落ち着きます。明るい未来を予感させる終わり方で、読後感もスッキリでした。
下巻では、水斗が過去と向き合い、自分を取り戻すまでの過程が主題的に描かれています。
二人だけの空間で心を通わせて水斗と樋口でしたが(華藤先生は二人だけの静謐な空間を描くのがとてもお上手だと思います!)、徐々に水斗をとりまく状況が動き始めます。水斗の師、長山にまつわる諸々の疑惑の捜査に警察が動き出し、彼の愛人であった水斗にも、長山の不法行為に加担していたのでは、という疑惑が向けられます。さらに、そうした状況の中で、水斗の記憶が少しずつ戻り始め、水斗は、自身の過去に怯えることになります。
水斗と長山、そして、樋口と長山の対決シーンが前半の軸になります。ありのままの水斗を愛した樋口と水斗をただ所有しようとした長山の対決。ここに来て、長山がなぜ水斗に執着したのかが明らかになったこと、そして何より水斗が長山を許してしまったことにより、絶対的な悪役がいなくなってしまった感がありました。長山にはとことん悪役に徹して欲しいという意見もあると思います(それはそれで面白かったと思いますがw)。ですが、長山が単なる悪役ではなく、一人の弱い人間であったこと、なぜ悪へと傾いてしまったのかというあたりに触れられていたことで、単純な善悪二元論よりも人間の内面が掘り下げられていて読み応えがあり、引き込まれましたね。
ところで、長山によると、水斗は弱い人間だということですが、その後の水斗を見ていると、それには半分同意しかねました。自殺を図る長山に道連れにされそうになった衝撃で水斗は記憶を取り戻します。それは比喩的に「湖の底に眠っていた自分がそこから湖面へと引き上げられる」という風に表現されるのですが、彼は、長山に対する憎しみだけは「湖の底」に置いてくるんですね。そのことに、私は水斗の魂の強さを感じました。
確かに、長山の知る水斗は、無気力で弱かったかもしれません。ですが、憎しみを捨て、許すという行為は、強さの表れなんじゃないかな、と。そして、水斗を強くしたのは、樋口の揺るぎない愛情だと思います。樋口も長山も水斗を愛したけれど、愛し方が全く違うんです。
さて、本巻の後半を占める書き下ろし「幸福の領域」では、記憶が蘇った水斗がどのように過去を乗り越えて行くかが主題になっており、私の中では、これをもって『シナプスの柩』が完結します。長山への憎しみは乗り越えたものの、彼の愛人だったという事実と黙認という形で間接的であるにせよ長山の悪事に関わっていたという事実は決して消えることはない。水斗は、長山の愛人であった自分の存在は樋口の将来に影を差してしまう、自分は樋口から離れるべきではないか、と思い悩みます。ぐるぐる思い悩むあまり、記憶が戻ったのに、それを言い出せずに子供のふりをして、樋口に甘える水斗は可愛いかったけど、相変わらず後ろ向きだなあ。子供のままの状態でいれば、樋口からずっと愛情を注いでもらえる、このまま幸せな時間が続いていく…。水斗はそう考えて、記憶が戻ったことを告げるのをついつい先延ばしにしちゃいます。う~ん、不安になるのは分かるんですけど、樋口からすれば、記憶が戻ろうが戻るまいが水斗であることには変わらないし、彼にとっては「一人の水斗」だけが存在するわけで。樋口は、そのことを言葉にはしないけれど、水斗への愛情を誠実に献身的な行動で示しているわけですから、もっと信頼してあげて!と少しじれったく感じてしまいました。
水斗の演技を信じ込んで「サンタさんから預かっておいたから」とか言って、水斗にキタキツネのぬいぐるみをプレゼントする樋口には萌えました。樋口は、すっかり子育てが板について、最初に比べてキャラ変わりすぎです!
樋口は包容力があって無条件にいい男だと思います。水斗は、樋口の深い愛情に包まれ、幸せを掴めて、もちろんそんな水斗の幸せな姿を見ることができて嬉しいんですけど、ただ欲を言えば、この書き下ろしで、もう少し前向きになった水斗が見たかったかなあ。本人も樋口の愛情により「生まれ変わった」と言ってるわけですしね。今後、水斗が徐々に前向きに生きられるようになっていったらいいなあと思います。過去を乗り越えた時が、人生の再出発の地点ですしね。そういう意味で私は、この「幸福の領域」を、物語の完結であると同時に、出発点でもあると受け止めました。
次男和貴編。和貴の性格も和貴と深沢の関係性もドツボでした!こういう濃厚なドラマがやっぱり一番萌えます。
父・冬貴に容姿が酷似している和貴は、そのことに嫌悪と恐怖を抱いています。「汚れた」父から生まれた自分は、生まれながらに汚れていて、全く無価値の存在である。己の存在を肯定できない和貴は、つねに破滅(死)への願望を抱いています。
和貴は、「自分は父とは異なる」ということを確認するために、セックスを通して他者を支配しようとし、高慢な自分を擬態します。しかし、擬態は、和貴の本来の自己から遠ざかること。擬態を続けていれば、自分自身を見失って行きます。結局自分を保つために為していたことが、自分を追い込む結果となっていくのです。自らを追い込むことでしか自分を保つことができない和貴が痛々しいです。
さて、そんな和貴が職場で出会った深沢。眼鏡が似合ういかにもエリートな男です。初めは、穏やかで実直な人柄を装っていますが、和貴の妹、鞠子の婚約者として清澗寺家に入るや、目的を露にします。いえ、彼の目的は実にシンプルで、ただ一つ、和貴を手に入れることだけなんですけどね。
深沢は、和貴を抱くことで、和貴が父とは違う存在であることを彼に知らしめ、彼を破滅から引き離そうとします。これがかなりの荒療治なんです。濃厚な諸々のプレイも、荒療治の一環。深沢の趣味も入ってるかもしれませんがw(最初に読んだときは、強烈な印象だったんですけど、最近読み直してみると、そうでもない。あれ、私、麻痺してる?)
理性では抗いつつも、快楽に溺れていく和貴に激萌えしました。この辺り、やはり兄の国貴と共通する部分がありますね。二人とも、父と自分を重ね合わせて見てるから、性に対して禁忌の念を抱いている。そういう意味でも和貴にとって、国貴はただ一人の「共犯」なんです。兄が側にいてくれれば、父に対する感情を共有することで、和貴は精神の均衡を保てたかもしれません。だけど、ただ一人の共犯である兄に見捨てられてしまったことによって、和貴は絶対的な孤独に陥ってしまった。
和貴は、心の奥底ではつねに、自分を孤独から救い出してくれる存在は求めていたんだと思います。「おまえだけが僕の存在を定義する」。和貴と深沢の関係は、この和貴の一言に尽きるんじゃないでしょうか。深沢だけが和貴を和貴自身として見てくれた。深沢の前だけでのみ和貴は和貴自身として在ることができるんです。深沢によって高慢な擬態が剥ぎ取られ、現れたのは、繊細で脆く、子どものように孤独に怯えて、「捨てないでくれ」と訴えかける姿でした。ああ~どんだけ可愛いんだよ、和貴。
人間って他者から認めてもらうことで、初めて自分の本来の姿を知り、本当の意味で「私」になるんだと思うんですよ。和貴がそんな相手と出会ったことで、今後どのように自分の人生を歩んでいくのか。すごく気になります。
二人の関係は、きわめて危ういものですね。和貴は、深沢という自分にとっての唯一無二の存在を無条件で欲しつつ、深沢を失うかもしれないという可能性と彼によって暴かれる自分の本来の姿に怯えています。一方、深沢の愛は、深いがゆえに強烈です。深沢は、和貴の全てを独占せずにはいられないし、和貴のすべてでありたい。彼は、いわば和貴の全権を所有したがっているんじゃないでしょうか。快楽も生き死にもすべて自分が与えたい。深沢の愛は、そんな強烈な欲求に基づいているようにみえました。
こうした二人の関係は、危ういけれど美しい。虚飾のない、生身のところで結ばれる関係、全存在をかけてお互いを求める関係は、たとえその後に何が待ち受けていても一番美しい、素直にそう思いました。
まさに受の粘り勝ちといったお話でしたね。実に15年にもわたる執着愛には感動を覚えました。ここまで一人の男を思い続けられるって凄いです!
若手企業家、九鬼の秘書である御巫の仕事は、九鬼のビジネス・プライベイト両面をサポートすること。御巫の仕事ぶりは隙がなく、行き届いたものなのですが、御巫は九鬼の前では一切感情を覗かせることなく、機械のように振舞います。過去の可愛く一心に自分を慕ってくる御巫とのあまりの違いに九鬼は苛立ちを覚えます。しかし、御巫の変化にははっきりした理由があるんです。
二人は大学バスケ部の先輩・後輩でした。九鬼は日本屈指の天才的なスタープレイヤー。怪我のために選手の道を諦め、マネージャーとなっていた御巫は、九鬼に対して崇拝と恋慕の情を抱いていました。将来を嘱望されていた九鬼でしたが、ある夜、事故に巻き込まれたことで、生活は一変します。後遺症でバスケはおろか、一生歩くことすらままならないかもしれないという体になってしまうのです。友人も恋人も離れていく中、ただ一人御巫だけは、九鬼の側で献身的に尽くします。日常生活やリハビリの介助に加えて、性欲の処理まで(大人しい御巫が九鬼に乗っかっちゃう場面は、御巫が可愛すぎて、ちょっぴり萌えてしまいました。介護萌え?)。が、御巫の献身は、九鬼にとっては重荷だったんですね。自分を知る者がいない場所で再出発するために、九鬼は御巫に何も告げることなく突然、アメリカに渡ってしまいます。
当然、残された御巫は深く傷つき、何かが欠け落ちたようになってしまいます。それでも九鬼を忘れることができず、彼を憎んだまま想い続ける。そして、10年余を経て、帰国した九鬼に誘われ、共に仕事をするようになってからは、御巫はは九鬼に対して心を閉ざし、そんな御巫に九鬼は苛立ち、すぐ側にいるのに限りなく遠い、そんな関係が続いていきます。九鬼に心を閉ざしながらも、身を粉にして九鬼のために万全のサポートをしようとする御巫がホントに痛々しい…。九鬼にとって自分は無価値な存在なのだ、とひたすら自虐思考まっしぐらの御巫が哀れすぎて、かわい先生、これ以上御巫を虐めないで、とか思いながらもついツンデレ御巫に萌えてしまいました(私ってSか?)。
二人の間には、純然たる意識の差があるんですよね。学生の頃、御巫にとって、九鬼は世界の中心だったんだと思います。それに対して、事故直後の九鬼は、心の中に他者を容れる余裕はなく、ある意味「自分しかいない」ような状態だったので、御巫を「捨てた」という意識すらないんですよね。だからこそ、御巫がなぜ自分に対して心を閉ざしているのかが分からない。うう~ひどい鬼畜だ、九鬼…。
ただ事故直後の九鬼の気持ちも考えてみると辛いですね。御巫は、決して同情からではなく、ただただ純粋に九鬼の役に立ちたい、九鬼に尽くしたいという一心で側にいただけなんですけど、プライドが高い九鬼にとって、無力感の中で相手から一方的に与えられるという関係は耐え難いものだったんじゃないかな。過剰な贈与は時に相手の負担になりますよね。だから、九鬼が御巫の方を向くには、少なくとも九鬼が自力で運命を切り開こうとする強い意思を取り戻す必要があったのかもなあとも思います。
御巫にとっては、本当に辛い15年でしたね。彼の中で、この15年というのは、止まった年月だったんではないでしょうか。御巫の仮面が剥がれ落ちて、泣きじゃくりながら、九鬼に向かってずっと抱えていた複雑な感情を吐露する場面はこっちも泣けてきました。
「あなたなど…憎んで…憎んで」
ずっと憎みながらも恋慕を捨て去ることが出来なくて、だからどんなに辛くても側にいることをやめられなかった…。切なすぎます…。長い時をかけて求めていたものを手に入れた御巫には本当に幸せになって欲しいです。
全体として御巫の九鬼に対する執着が丁寧に描かれていて読み応えがありました。ここまで思われていると知ったら、そりゃ九鬼も感嘆するしかないですね。
ただ、九鬼の気持ちがいまいち見えにくい部分もあって…。九鬼が御巫に対し「愛おしさ」を感じるのが唐突すぎるんですよ。なぜあの場面で?という観が否めないというか。直前まで征服したいという欲求しかなかったはずなんだけど。九鬼の御巫に対する感情は、征服欲とリンクしていて、「愛おしさ」というのも実のところ意のままにならない御巫を征服し、仮面の奥にあるものを引きずり出したという達成感のようなものにすぎなかったのではないか?そんな一抹の不安が残りました。今まで苦しめた分まで御巫を大事にしてくれるといいんですけどね。
ラブラブの場面の割合が少なかったので、その後の二人のラブラブな姿を番外編で描いて欲しいなあ。