花丸文庫BLACKから、新装版の「未完成」。
絶版し中古で高値がついており手に入らず、悶々としていたところの新装版でした。
プラチナさんありがとうございます。
凪良さんの文庫デビュー二年目の作品とのことでしたが、
凪良さんの黒か白かという両極端があまり感じられない、中間色の作品でした。
そもそも花丸BLACKのレーベルだったということに少し疑問でした。
内容は、凪良さんの得意とする「時間」「成長」がとてもキーワードになっているこの本。最初の出だしこそダークな印象がありますが、読後感は非常にあたたかい気持ちになりました。
また、忠犬ワンコな年下攻と、美人でクールで口が悪くてでも実は脆くてエロい(笑)部分がある年上受、という非常に美味しいカップリング。
「真夜中クロニクル」や「あいのはなし」のカップリング然り、凪良さんの原点が詰まった一冊のようにも感じました。
ただ、キャラクターはさておき、内容がつい先日発売した「雨降りvega」とダブってしまったのが残念でした。
言い換えれば、「雨降りvega」の切なさがお好みだった方にはおすすめです。
個人的に先生と生徒という設定が好きではないので、凪良さんはというだけで購入して読み始めました。
が、数ページ読むだけでぐいぐい引っ張られ、結局1日で読みきりました。
涙腺にもじわじわ来るものがあり、泣いてしまいそうになりながら読みました。
家庭に問題があって不安定な生徒と、その繊細な心の受け皿になる先生。優しい先生のことをどんどん好きになってしまうのは当然のこと。
私は、どんどん先生に溺れて素直になっていく瀬名のかわいらしい年下男の描写にきゅんきゅんしましたが、包容力のない子供の欲望そのままに暴走する攻でもあるので、読み手の好みを選びそうな本でもあります。
ただし、巻末SS2編の成長した瀬名はきゅんとくるほどのいい男でした!
この成長っぷりを見るために一冊読んでも損はないかと。
旧版をお持ちの方でも、「young swallow」「さなぎ」がとても素敵なSSなので、このために買っても損はないと思います。
本編だけだったらちょっともやもやしただろうな…
また、草間さんの阿南先生がたまらなく色っぽい…
草間さんの先生生徒ものということで、「イロメ」と「ヌレル」を思い出しました。
個人的には一番最後のカットが本当に好きです。。
ひとつ不服をあげるならば、少しちらつかされる先生の過去が見たかったなぁということ。
それが瀬名に惹かれる理由に繋がっていたらよかったのにな、と。
きっとその過去が見えてたら、瀬名だけでなく私まで完全にノックアウトされて、「神」評価をつけてたと思います(笑)
タイトルの「未完成」の指すところは、そりゃあ高校生の瀬名のことだろうと思っていたわけですが、終盤「あぁ、違ったんだ!」と覆されました。
凪良さんの作品にはいつも、萌だけじゃない、励ましのエールをもらえる気がします。
『too young to die!!』
この攻は青くて痛いなー辛いなーと思われるかもしれませんが、
できるなら、もう10代を通り越した20代以上の落ち着いた大人の女性にお勧めしたい本です。
落語の「貧乏神」と「寿限無」をモチーフとしたお話。
まさか落語がBLのモチーフとなるとは…!驚きです。
「寿限無」は知っていましたが、「貧乏神」は今回初めて知りました。
ちなみにデラシネとは、根なし草のことだそう。
転じて、故郷や祖国から切り離された人のことをいうそうです。
今回特に落語を下敷きとしているからか、単なる萌えではなく、情とか色気とか侘しさとか、そんなものがたくさん織り込まれているように感じました。
秀さんの作品はセリフも少なくさらっと読めてしまうから、物語の行間や表情を味わえるか味わえないかで、作品への評価が分かれてしまう気がします。何度も読み返して味あわないと、本当のおいしさはわからないのかも、と秀作品はいつも思っています。
正直、私個人的にも、一度読んだだけの状態ではあまり好みではなかったのですが、本作の「金魚すくい」を読んだ後に落語の「貧乏神」を読んだら、一層物語がわかりやすく、そして味わい深くなったような気がしました。
今回は、「リンゴと蜂蜜」シリーズのような、わかりやすい萌えで万人受けするタイプではなかったのですが、最後に収録された「小日向家の事情」は唯一万人受け。
個人的には、お父さんカップルの過去に妄想が膨らみました(笑)
たとえば、二人の関係を息子へ隠す日々なんかを読みたいなーと思ってしまいました。
onBLUEさんの本、すべて読んでいるわけではないですが、新たな試みのある作品や難解な作品が非常に多いなぁという印象です。
自分の心に余裕があるときに、じっくり味わって読みたい本です。
一冊丸ごと同じ登場人物の話のBLというのは、本当に久しぶりなのではないでしょうか。
私は今回も短編が収録されているのではと思っていたので、久々にがっつりヤマシタさんの作品を読みたいなぁと思っていた身としては嬉しい誤算でした。
…それなのに、「一冊がっつり読みました感」がないのは、
この不可思議な、時系列バラバラ形式のせいでしょうね。(涙)
普通に時系列通りに流れていけばあったであろう萌えも切り取られてしまっているようで…ちょっと残念でした。
おそらく雑誌掲載時にはあった表紙絵を取り外し、全く区切りのない一本の話にしているので、最初こそ時系列が気になってなかなか読み進まなかったですが、意外とあっさり読めてしまいました。
ヤマシタさんのこの新たな試みのお楽しみは、この漫画を一冊読むだけではなく、
一冊読み終わった後、一度読者自身の頭の中で時系列順にまとめて反芻した時、
漫画には書かれていない行間を、個人個人で妄想をして二度楽しむことができる、よ、
ということなのかなぁと深読みしてみたりしています。
あと、バラバラなのでなかなか1ページ1ページが印象に残らないから、何回かペラペラ読み返しても楽しめる…ということなのかなぁ。
私の浅慮はここまでにしますが、ともかくヤマシタさん、デビューからずっと、活動の場がBLだけでなくなっても、いつもなにか新しいことに挑戦しているのがすごいなぁと思うのです。
onBLUE掲載時より、10P分の加筆もあるそうですが、本誌を読んでる人でもこれはなかなか気付けないでしょうね。どこを加筆したのかとても気になるところです。
ノンケとゲイ(というわけでもないのか?)の話だからか、同作者さんの『恋の話がしたい』を思い出しました。
日常のどうでもいい会話を切り取って、お互いの月日を重ねていく…
当たり前で平凡な中で、ちょっと胸が痛くなるようなシーンもあり。
今回は彼女がいた彼を持った故の痛みが描かれています。
作中に引用されている谷川俊太郎さんの詩がとても沁みました。
もちろんこの詩の良さは谷川俊太郎さんのものだけど、こういう詩(時に曲、映画など)に出会わせてくれるところがヤマシタ作品の魅力でもあると思うのです。
そういえば、今回は作業曲が書かれていなかったような…
作業曲表記のないBL本は初めてでしょうか?
(単純に自分の見落としだったら恥ずかしいのですが。。)
なかなか、BL初心者、ヤマシタトモコ作品初心者にはすすめがたいですが、
エロがなくても、女の子がいい味を出していたりする、ハイセンスなこんな作品もあるんですよと、フツーのBLが飽きたお姉さんには是非オススメしたい本です。
大好きな作品が完全版になると聞き、
780円で買えた1冊が、680円2冊にしちゃうなんてヒドイ商法だよな~
と思いつつも、買ってしまいました。完全に負けました。。
だいぶ前に、以前のBBC版で内容はレビューしているので詳しくは今回割愛しますが、
日下の黒髪ネコ目の色っぽさ、飯島と日下の熱量のあるやりとりが魅力的で、
二人の恋愛だけでなく、古書店を舞台に繰り広げられる人情劇もとても読み応えがあります。
やはり何度読んでも、二人が最初のお布団シーンに辿り着く流れで迷子になってしまうのですが、学生時代からお互いに気になっていたんだよなぁと思うと、そこは二人の盛り上がりに迷子にされるのも魅力の一つなのかと、最近は思うようになりました。笑
数年前から大切にしている漫画ですが、だからこそ新装版を買って後悔したら嫌だなぁと思ってました。ただの金儲けのためだけにあくどい商売の道具にされているように感じられたら、ファンとしては嫌ですから。
実際、書下ろしはカバーと、数ページのおまけまんがとカバー裏の漫画くらい。
けれど、この書下ろしおまけ漫画がとても良かった!!
ずっと昔から読んでるファンにとっては、これだけに680円出す価値はあるかと思います。
幸せになったさつきちゃんの再登場や、日下のかわいすぎるプロポーズ、
書店に出入りしてた小学生男子ふたりの意外な会話などなど、
みんなが幸せになっている未来が少しでも覗けて夢のようでした。
カバー裏の漫画を読んで、「誰にも愛されない」どころではなく、ご近所にも愛されてるじゃん、と突っ込んでしまいました。笑
あと、今回の表紙に転がっている本の中に転がっているオレンジの本は、BBC版の「誰にも愛されない」ですよね…?ファンサービスの遊び心が嬉しい!
また、上下巻購入で特典小冊子にも申込みできるそう。どうやらその小冊子には飯島と日下のラブラブも書く予定とユギさんのあとがきに書いてあったので、さらに期待大!
正直、下巻は大好きな飯島×日下編が終わって、残すところあと2話なので買わなくてもいいかなぁと思うところだったんですが、これは下巻も買っちゃいますよね。
この完全版を機に多くの人に読まれるといいなぁと思います。
黒髪ネコ目、不器用で無愛想な受と、血の気の多いバカでお節介で直球の攻というカップリングが好きな方には是非ともおすすめしたい本です。
でもやっぱり、上下巻にしてしまったのは手に取りやすさの点からは失敗なのでは…?
やっぱり、ちょっと商法としてあくどいのでは…?
と気になりつつも、こうしてまた飯島と日下たちに出会えて満足でした。
下巻は一冊にするには分量も足りないと思うので、また書下ろしに期待してます。
高評価が多く、2013年のランキングの中にも食い込みそうだしと、鮮やかな表紙にも惹かれて購入しました。
しかし、期待のしすぎか、終盤で「あれ、これで終わり?」と思ってしまいました。
涙腺も弱い方なのですが、涙目にもならずに読破しました。
期待のしすぎは禁物ですね。
あと、ご都合主義な設定・展開が重なって気になってしまい、物語に入り込めなかったのも原因かもしれません。
白黒の世界のはずの慎吾が色の名前を知っていることや、武の過去のトラウマに関して、納得しきれないことがいくつか…。どうにも納得できないのは、主役2人の生い立ちや過去が、あまり見えなくて説得力がないからなのかなぁとも思っています。
また、題名から「奇跡」とうたい、文中でも「運命」という単語が何度も出てくるのですが、こういう言葉って多ければ多いほどちょっと薄っぺらく感じてしまう気がするのです。
終盤読んでいて、二人はこれからずっと一緒にいるんだろうな、と疑いようがなかった。それは絵本のような、「みんな仲良く暮らしました」という完全なるフィクションに感じられて、BLは確かにフィクションでファンタジーだけど、お話にリアリティは欲しいなぁと感じてしまったのでした。
仮タイトルが「ミリオンカラーズ」だったと聞き、私もこちらの方が良かったのではと思うのです。
とはいえ、物語自体は優しく、作者さんが熱心に書かれたのが伝わってくる良い本です。
特に、色盲の慎吾がはじめて武の絵に「色」を見た瞬間の描写や、武が慎吾の歌声に魅了された描写は、それぞれの感情が読者にもビシビシ伝わってくるような臨場感のあるハッとするような場面は、とても心に残りました。
互いを最大限必要としあい、互いに高めあって成長していく関係が丁寧に描かれていて、お仕事BLとしても読んでいてとてもいい。
本編後に奈良さんのイラストをじっくり舐めるように見ることで新たな発見があるのがまた素晴らしい。特に表紙のイラスト、慎吾の靴に武が虹を描いているのに気付いたときは、感動しました。
萌評価としては、大人なんだけど、フニャンと笑う優しい受というのは個人的に大好きなのです。そんな受に年下攻は個人的黄金コンビ。
物語の序盤に、武が何かを隠して翳りのある笑顔を見せる度、年下攻・慎吾が切なくなったり、やきもきする、というのにはたいそう萌えました。
あと、お布団シーンで、普段はなまってないのに「あかん」と方言が出てしまうのにも、頭をスパコーンと叩かれるくらいの衝撃で、萌えました。
萌のカードは揃っているのに、期待感が強過ぎたのか……
BLはファンタジーだけどそれでも個人的には最低限のリアリティが欲しいのか……
自分の好みに合わず少し残念でしたが、購入したことを後悔する本ではないとは断言できます。
この話の続き、フクオのスピンオフがあったら私も読んでみたいです。
「あなたのためならどこまでも」の巻末の平安パラレル短編が、本になってしまうとは驚きでした!明日美子先生も思ってなかったようですが。
「あなどこ」の、高千穂が七海を追っかけているはずが、実際のところ七海に高千穂さんがとらわれちゃっている関係が好きで、
この二人の新刊なら!と思い、この本も購入しました。
個人的な感想としては…
正直、私は現代のあの二人の掛け合いがもっと見たかったなーと思っていたので、全編平安パラレルだったのにはちょっとだけ残念だったかな。
(本当に最後の数ページは現代のふたりのミニ漫画があるけれど)
とはいえ、もうなんでもありのべったべたのラブコメは何にも考えず楽しく読むにはうってつけ。
企画モノのように女装、妊娠、獣耳、複数プレイ、触手プレイ?と、「BLはファンタジー」と割り切ったお楽しみを明日美子さんの耽美なイラストで楽しめて、眼福でした。
七海に「この業界に不可能はありませんよ」と言わせちゃったり、出版社さんの名前までだしたり、明日美子先生自身の心の声をキャラクターに代弁させまくって、力の抜け加減も楽しいです。
あなどこファンと明日美子先生ファンに向けた、ファンブックみたいな本です。
その割に、表紙を見ただけじゃあなどこ番外編だと分からないのでは?と思うのですが…
あなどこ本編には全く関係ないので、この本だけを読むことも問題ないとは思いますが、あなどこ本編も面白いので、ぜひ2冊揃って読むことをおススメします!
砂原さんお得意のどシリアス。
10年以上前に書かれているお話で、今回手直しされてるとはいっても文章に少し読みにくいところがありました。しかし、題材などはやはり昔っから砂原さんは砂原さんなんだぁなと感じます。
『夜明けには好きと言って』『真夜中に降る光』という、CD化までされた砂原さんのホストものを彷彿としました。テーマもなんだか似ている。「優しいプライド」の方が先に書かれたものなので、その時うまくいかなかったものを『夜明け~』『真夜中~』に書かれたのかな、という印象を受けました。
女と適当に遊んでお金を巻き上げながらホストをしている志上と、真面目で正義感の塊みたいな医者の攻・保高。二人が再会して、志上が恋を知るまでのストーリー。
まとめれば単純ですが、毎度のことながら砂原さんはそんな一筋縄のラブストーリーで終わらせてくれません。
BLでは本当によく出会う「不幸な受」。天涯孤独だったり、いじめられてたり。
でもこの志上は今まで読んだどんな本の受よりも、生まれながらの不幸設定でした。
不幸受は結構読んでいたのですが、この設定には衝撃を受けました。砂原さん、はんぱない。
更には、ストーリーが進むにつれて怒涛の不幸。
やりすぎじゃないかと思うくらい、志上からたくさんのものを奪っていきます。
序盤はこの志上の性格の悪さになんとなく読み進まないページが、不幸度が加速するごとにどんどんページを捲る手を早くなってくる。笑
今までの悪事の「因果応報」とでもいうような不運な出来事の数々を受け入れるように淡々と生活していく志上の姿に、「どうか幸せになって」と願わずにはいられなくなりました。
中盤から終わりまでは一気に、泣きながら読みました。
本編の終わりは映画や舞台のようで珍しいなと思いながら、でもよく考えたらとても切なく、非常に優しくて素敵な終わり方でした。
初期の砂原さんは、最近書かれる本よりも痛い。尖っているというのか、胸の抉られ方が酷かった。「アヒルの赤いリボン」や、オー・ヘンリーの「賢者の贈り物」のお話が出てくるあたり、なんだか優しく可愛らしい感じがするのに、こうも痛いギャップが砂原さんらしいと感じます。
ただその分、本編の終わりもそのあとに収録のSS2本も優しいのでご安心ください。
この本の裏テーマは「因果応報」そして、「嘘、偽り」でもあるのかな。
なるべくネタバレなしでレビューするというのがモットーなので深く語りたくないのですが、『夜明けには好きと言って』と似ている部分もあり、自分自身への偽りを承認するまでの過程も描かれています。
恋愛だけを描くのではなく、砂原さんは人間の醜いところを描くのが本当に上手で、毎回胸が痛くなります。
砂原さんお得意の「性悪で意地っ張りなんだけど、落ちるとぐずぐずにとけちゃう受」と、「おカタそうなんだけど、意外とがっつく攻」は今回も健在です。
今回の攻に関しては25にして童貞設定なのですが、医者という設定もあってか、思ってたより上手そうです。笑
今回の書下ろし「愛しいプライド」で、攻めについての設定描写が多数足され、ちょっと不思議な変わり者だった保高が少し理解できて良かったです。
「愛しいプライド」自体とても素敵で萌えられる話だったので、アイスノベルスを持っている方も購入する価値があると思います。
この本には、ホストという職業柄、女子もたくさん出てきます。もちろん深く描写されてませんが複数の女子との絡みシーンもあります。特に保高の彼女はストーリーにかなり深くかかわってきます。(この女子が、実際こんな子いそうだよな、と感じてしまうリアル感があり、私は嫌いにはなりきれませんでした。)
とはいえ、BLに女子が出てくるのは嫌という人にはお勧めできません。
設定や主人公の性格の悪さに賛否両論でそうかな?と思いつつも、砂原さんの良さをぎゅっと詰め込んだような今回の文庫本。
もし迷われてたらぜひ読んでみてください。
夏の夜中に読み始めたら、止まらなくなってしまい朝が開けるまで読みました。
さすがの凪良さんです。受け攻めの交互のモノローグで少しずつ謎を明かしていくのと、先の展開が全く読めず気になって、どんどん読んでしまいました。
暗かった部屋がどんどん明るくなってくる様子と話の内容や情景が一致していって、より味わい深くなったような気がします。 不健康ですが、この作品の読み方としてはオススメです。笑
いつものことながら、読み終わった時には枕はびしょびしょで、でもとても満ち足りた気分でした。
ダークシリアスな方の凪良さんの本領発揮で、暗く重い話と評価されていますが、想像していたより暗くはなかったです。高久さんのイラストと相まって、とても情景の美しい映画のようでした。
ただ、近親相姦や凌辱という重たい設定に好き嫌いが大きく出る話だと思います。
しかし、同じく暗い重いで定評のある木原さんとはまた少し違い、凪良さんは甘さと優しさをたくさん用意してくれています。
話自体は萌えというより、凪良さん特有の、サッパリ簡潔な文章でぎゅっと胸を苦しくさせる泣ける描写がメインですが、攻の高知の優しさには切なくなるほどきゅんきゅんしました。
特に好きだったのは、辛い過去を語る遠召に高知がミントタブレットを口にいれるシーン。高久さんのイラストと相まって、とても好きなシーンです。
よくあるトラウマもの、同作者さんでも『積木の恋』と少し似ていますが、大きく違うのは、受けの心の傷を攻めが埋めるのではなく、お互い埋められないものを抱えながら一緒に生きていくというところ。
互いが互いを必要とする理由が丁寧に描かれていて、唯一無二の存在だと言い切れるBL小説はなかなかないのではないでしょうか。
テーマとして感じられる「どう頑張ってもわかりあえない人に対して、どう折り合いをつけるか」ということへの結論にはとても共感できて、私自身救われた気持ちがしました。
何もかもが綺麗に収まることはない。それがとてもリアル。
なかなかこんなことが描かれている小説には出会えないような気がします。
腹立たしく、でもどうしようもないことがあって、辛くて悩んでいる人、悩んだことのある人にそっと差し出したくなる優しい本です。
作中には二回の埋葬シーンがあります。
埋めたものはなんだったのか、きっと死体だけではなくて……想いを馳せるととても切なく、神聖なシーンです。
幸せな二人が読みたくなって小冊子を買いに走ってしまったのは、おそらく私だけではないはず。
本編、小冊子と読み終わってもこの世界に浸ってしまいなかなか戻れず、何度も読み直してしまいました。
唯一、遠召があれほどまでに過去にとらわれていた理由に納得がいかなかったのですが、ここまで二人の互いの必要性、そしてなかなか描けないテーマを描ききっているこの本はやはりすごいのでは、と思い「神」評価にしました。
これからもおそらく何度も読む、大切な本になりそうです。
シリアスかコメディかどちらかに偏りやすい凪良さんですが、今回はどちらでもなく、はじめてのほのぼのBL、やさしさ100%の癒し系でした。
特に大きな物事もなく、個人的には凪良さんのダークな部分が好きなためにちょっと物足りなく感じつつも、途中から引き込まれ、読んでいてとても癒されました。
いつも凪良さんの本には萌えではなく、他のものを目当てに読んでいるんですが、今回は二人のいじらしくじれったい恋愛の様子にちゃんと萌えました。笑
BL小説でびっくりするくらい何の抵抗もなく始まるお布団シーンも、この本では引っ張って引っ張って最後に一回。回数があるより、じらされた方が数倍悶えますね。
ただし攻の月浦くん、初えっちを温泉でとか考えたり、結婚を視野に入れたお付き合いをしてみたり…健全な男子だよね?と疑問に思うくらいの乙女脳で、少女漫画のよう。
文体も、三人称の文章でも「月浦くん」「呂久さん」という敬称付き。最初こそ気になりましたが、慣れてしまえば意外と全く気になりませんでした。
「くん」と着けることで、凪良さんのあっさりした文章(それが時にすごい冷酷さを持つ、上手な文章)も、ずっと柔らかく優しく感じるのかなぁと思いました。
もちろんストーリーの主軸は、月浦くんが恋を知り、二人が結ばれるまでのじれったいお話。ですが、呂久さんやお父さんお母さんや奥田など周りの人たちの仕事、生き方も書かれているのがフツーの恋愛小説とは違う凪良流なのかなと思います。
呂久さんは、自分の才能のなさに諦めを感じてブツ撮りへの道を進み、満足している仕事ではないながらもささやかなやりがいを感じていたり、でも一方では夢を叶えた恵まれた元カレに才能を諦めるなと言われて葛藤していたり、とてもリアル。
月浦くんは、就活に悩み、恋人のために安定がほしいから公務員と考える思考も実際ありそうで、ちょっとイタくもありつつ、微笑ましい。
個人的には、萌え以上に、むしろBLの主軸である二人以上に、月浦くんのお母さんの強さが一番心に残りました。
病気のお父さんを抱えて気持ちが弱り、お父さんの入院中は家で大好きなアイドルの曲を大音量でかけるお母さん。
それでもお父さんの病状が良くないと医師に言われた時でも、「お母さんは大丈夫。あなたはいつも通りにね」と言って息子をデートに送り出し、自分もいつものようにアイドルの追っかけをしに行く。「いつもどおりが一番」というお母さんの強さには完敗です。
月浦くんは恋をすることで(お父さんの病気という一因もあるけれど)周りの人の生き方や人生に触れていて、この本は月浦くんの成長譚でもあるように感じました。
そういえば最初、名前の感じからか呂久さんが黒髪で攻めで、月浦くんが受けだと勘違いしてました。途中から話が違う方向にすすみかけて驚いたのでした。
攻め視点の小説が珍しいからか、呂久さんのが女の子にもてそうなかんじだから?
よく考えたら、イラスト付きのキャラ紹介もなしに、「こっちが受で、こっちが攻」と当たり前のように一目瞭然にさせるBL本はすごいのですね。
最後のSSは、金ひかるさんのブタ猫のぶうたんのイラストずくしでとてもうれしかったです。不穏な未来がちらつきつつも、この二人とこの月浦くんの家族なら大丈夫じゃないかなーと楽観してしまう読後感。
あっさり読めるほのぼのBLテイストで包んでいますが、仕事や病気、人生、裏に流れているテーマは普遍的だけど重たいテーマなのかも…?
癒し系、だけど読んでよかったなと思う本が読みたい人、猫好きの人には是非!とおすすめしたくなる本です。
凪良さんには大きく分けると2つパターンがあって、
ダークでシリアスなお話と、明るくコミカルなお話に分けられるのですが(最近の作品にはどちらにも偏らない作品が増えていましたが)、今回は久しぶりの重め設定でした。
読む前、あらすじに「椢が自分の中に父親がいると言い」と書いてあるのをみて、『まばたきを三回』に似ているのかなぁと思っていたのですが、今回はあそこまでのファンタジー設定ではなく、どちらかといえばchara文庫さんの『天涯行き』を彷彿としました。
(淡々と描かれているところや、逃避行・犯罪・海…といったキーワードが同じで雰囲気が似ているだけでテーマは違うので、『天涯行き』の近親相姦や凌辱設定は一切ないのでご安心ください。)
愛していた男・裕也が急に亡くなって、その喪失と向き合うまでのお話です。
序盤は裕也がなくなって裕也の息子・椢と二人で逃避行を図るお話で、椢は9歳、波瑠は19歳。後半3分の2は10年後、19歳になった椢と29歳になった波瑠が再会してからの物語。
設定としては重いのですが、凪良さんの文章はとても読みやすく、そして結末が気になって仕方なくてページを捲る手が止められなくなり、私は一晩で読破しました。
波瑠の繊細さと不遇な展開、そして椢の健気さに、ギリギリ胸が締め付けられて、気が付くと涙を流していました。読み切った時には枕が涙でぐっしょりでした(笑)
凪良さんの本は毎回萌えとかではなく、今回一番心に残ったのも9歳の椢の日向のような愛でした。子供だから不器用で無力な、でも精一杯の9歳の子供の愛がしんしんと波瑠に沁み渡っていることが分かったシーンは泣けました。
ムクさんのイラストと口絵も、切なく苦しいけどあたたかいイラストがとても作品によくあっていて、腕枕のイラストや砂山のイラストは見ているだけで泣けます。
読み終わってから凪良さんのブログを拝見したのですが、今年の春に愛犬をなくされたそうです。その体験があってのこのお話だったのでしょうか。ご冥福お祈り申し上げます。
ちなみに、chara文庫の『恋をするということ』の呂久さんの元カレで引っ掻き回し役だった奥田も登場し、裕也と椢は奥田の劇団「裏窓」に所属しているという設定でした。
奥田は今回も核心をつくようなことを言い、引っ掻き回しつつも、椢のことを見守るような親心もあり。劇団の大きさを見るに、『恋をするということ』のあとのお話なのでしょうか?
また作中に、Akeboshiの「peruna」を9歳の椢が鼻歌で歌っているというシーンがあって、実際の曲がBL小説の作中出てくるのは珍しくて驚きました。
ちょっと9歳が歌うには重すぎるし難しい歌だなぁと思いましたが、改めて聞き返すと、この本のイメージにぴったりの歌です。
凪良さんのお話は、よく受や攻が高確率で警察のお世話になっており、毎度無情に感じる(執行猶予がつかないことが多い)裁きを凪良キャラはしんしんと受け止めるのですが、今回終盤に出てくる警官キャラにとても救われた気持ちになりました。
ファンタジーに感じられるエンディングは賛否両論かもしれませんが、重い話の中にも優しさが滲んでいて、最終的に見えてくる希望に心が優しくなれるお話でした。