まりぽん812
mellow rain
一顕と整が恋人同士になって初めての秋、ある日曜の夜。
二人は電車で出かけたものの、遅延で目的地を諦め、乗り換えでしか使わない駅で下車します。居酒屋で飲んで、気分良く散歩しているうちに、人気のない町工場の一角まで来てしまいます。
他愛のない話をしているうちに、雨が降り出して。あたりにはコンビニも、雨宿りできる軒先もなく、二人は古い電話ボックスに駆け込みます。
「電話ボックスなんか入った記憶が昔過ぎてもう定かでない」、という整。
一顕は、どしゃぶりの逢瀬の後、公衆電話から整の携帯にかけたことを思い出しますが、口には出しません。そのとき出たのは、和章だったから。「最近の子どもは使い方わかんないらしいすね」と無難に返します。
ふと見ると、電話機の上にテレフォンカードが。整が受話器を上げ、差し込んでみると、残りは3。迷いなくプッシュしてかけた先は、一顕の携帯。整が「あっち向いてとって」というので、背中合わせで通話が始まります。
整が「せっかくだし悩み相談とかしてよ」というので、一顕は軽くあれこれ言ってみますが、「愚痴だろ」と取り合ってもらえません。そして、整の「言ってすっきりしたいのが愚痴で、解消したいのが悩み」という言葉に、一顕は、メールで互いに吐き出していたあの苦しさは悩みだったのだな、と思いを巡らせます。
整が「で、お悩みは?」と、続けるので、一顕は「半井さんがいて幸せだから、何もない。ありがとう、好きだよ」と返し、整を照れさせます。素直に気持ちを口にする一顕は素敵だし、「何それつまんない」と、本心と裏腹に返す整も可愛いです。
一顕が整のうなじに口づけたとき、雨粒が流れ落ちる描写が、とてもいいなと思いました。二人には雨がとても似合います。
テレフォンカードの度数3で携帯電話にかけたらどのくらい話せるのか、気になって調べてみました。同じ圏内だと、1度数で15秒強話せるそうです。二人が45秒ちょっと話したとすると、結構な早口ということに。ポンポンといきのいいやり取りなんですね。自分的には、すごく面白い発見だと思ったのですが、細かすぎると思う方がいたら、ごめんなさいね。