てんてん
kioku no kakera
本品は『ハロー、マイアリス』の
フェア書店限定特典ペーパーです。
本編後、有泉の友人禅視点での
バレンタイン間近のある日のお話です。
2月14日まで2週間を切ったある日。
禅は友人の有泉と
日頃から兄と呼ぶ叔父・零の帰りを
待っていました。
善は課題を片付けていますが
有泉は最低限の書き込みさえせず
ゴロゴロとしています。
いつもはハッキリ発言する有泉が
もの言いたげにしている様子に
どうしたのかと問いかけると
もうすぐバレンタインだろ?
…渡したほうがいいと思うか?
思わぬ相談をされてしまいます。
渡せば喜ぶとは思うけど、
渡さなくても気にしないと思うよ
有泉も普通ならスルーするけれど
会社とかでもらうかと思うと
負けたくない気持ちが起こるらしく、
言いながら微かに頬を赤らめます。
零なら女の人が用意した高級チョコと
有泉が用意した駄菓子なら
迷わず後者を選ぶと思うよ
さすがに駄菓子は渡さないと言いつつも
零はかっこいいからモテると
有泉は煮え切らない様子です。
相談というよりも惚気の様だと
思えてきた善は良い機会だからと
有泉にある質問をします。
有泉は
兄さんのどんなところが好きなの?
A4サイズ両面(書店により型違い)にて
2人のその後に絡めて
善の中でのかつての有泉への思いが
垣間見れるお話になっています。
善は2人の関係を
好意的に受け止めて受け止めている事を
己のことながら不思議に感じています。
善も冷静で生真面目な零が
突然友人のストーカーと化した時には
目を疑わずにはいられませんでしたが
その数日後に件の友人が
零を好きだと告白してきて更に驚きます。
それでも有泉から伝言を頼まれたあの日、
返ってきた零の表情を見た瞬間
善は驚くほどすんなりと
事実を受け入れてしまいました。
まるでもうずっと前から
知っていた事のように。
結局、有泉には
自分の気持ちに気付くのが
かなり遅かったし、忘れていたからと
よくわからない返事をされますが
善は零が有泉を優しい声で
「アリスさん」と呼ぶたびに
むずむずしてしまうのです。
心の奥底のほうに
なにか大切なものをしまったまま
取り出せないようなもどかしさを
善が感じていると
そこに零が帰ってきて
有泉を「アリスさん」と呼ぶ声に
懐かしい記憶が微かに響く
…という終幕まで
楽しく読ませて頂きました。
タイムトラベルした有泉と
共に過ごした時間は
零の心には鮮やか刻まれましたが
幼かった善の記憶には
確かな形としては残りませんでした。
それでも優しい思い出として
善の中にもなにかを残していて
零と有泉の恋を善が自然に
受け入れた土台になっていたようです。
誰かを大切に思う気持ちは
確かな記憶として刻まれなくても
心の奥底にたゆたっているのですね。
本編では描かれることのない
善の思いが知れて面白かったです。