kurinn
kiss
BL作品に登場する女性はあまり好きでは無いのですが、さすがは一穂先生でした。女性の使い方が上手いです。
明渡のはとこである果菜子は、苑が唯一シンパシーを感じた人間でした。一見明るくて何の憂いもなさそうな彼女の内にある仄暗い部分に、苑は無意識のうちに惹かれていたのだと思います。
明渡、苑、果菜子の3人の中で1番最初に大人になって、自分の居場所を見つけたのは果菜子だったと思います。
だから苑がどんなに否定しようと彼女には全てが分かっていたと思うし、あの間接キスは2人へのエールだったと思っています。
その証拠に諦めかけていた明渡が苑の側に行くべく行動を起こすのですから。
父親の葬式の後、明渡と二年ぶりに体を重ねた苑は、翌朝、眠る明渡を起こさず、一人東京に旅立ちます。
SSペーパーは、一人目覚めた明渡の視点です。
苑の姿はなく、ちゃぶ台の上には『鍵は新聞受けに』と、そっけない書き置きだけ。
明渡が家に戻ると、果菜子が、営業部の社員と付き合っていて、結婚して会社を継ぐからね、と告げてきます。そして、「いつ出てってくれる?」と、暗に「苑を追いかけて東京に行きなよ」と背中を押すのですが、明渡は煮え切らない態度。
業を煮やした果菜子は、とっておきの切り札を。明渡の胸倉をつかんでキスし、「中継してあげたんだよ」「苑くんのキス」と煽ります。
そして「どういうことだ?」と慌てる明渡に、「苑くんに訊けば?」と最後の一押し。
まんまと果菜子の策にはまった明渡は、苑の居場所を探すため、離れに積んだままの段ボール箱を漁りに向かうのです。
果菜子は、早朝のホーム、どんな気持ちで苑にキスしたのでしょう。最初から明渡に中継しようと思ってキスしたのだとしたら、恐ろしいほどの機転です。
なんとなくですが、果菜子は、明渡と苑と三人で過ごした短い高校時代の日々を惜しむ気持ちだったのではないでしょうか。それは彼女が明渡に片思いしていた時でもあったし、だからこそ、好きな苑を追いかけない明渡がじれったくて、尻を叩くような、自分の片思いに区切りをつけるような、そんな気持ちで明渡にもキスしたような気がします。果菜子、行動的で、可愛いです。男は女にはかなわないものですね(笑)。
明渡と苑は、この間接キスの話をいつかすることがあるかな。そのとき、二人はきっと笑って、果菜子に感謝するのでしょうね。
本編の終わり方には賛否あるだろうなーという感想。
個人的には夜明けのようなイメージのあれで悪くないと思うのだけれど、
明渡視点のこの特典ペーパーがあると、確かにBLとしては収まりがいい。
個人的には最後の一言に込められた意味、にグッと来ましたが、
これを特典ペーパーでっていうのは、ちょっと残念な感じもあり
じゃあと、こんな話でしたよ、というのを書いてみます。
ということで、以下完全なネタばれ(というよりネタそのもの)ですので、
おイヤな方はご覧になられませんように。
↓
本編から明けて翌朝。
カーテンのない部屋でまぶしさに目を覚ました明渡は、
側に苑の姿がないことに気がつく。
卓袱台(という表現がいいなぁ)の上にはカレンダーの裏に書かれた書き置き。
それは単なる鍵についての伝言。
そっけない対応に「そんだけ?」と呟きながら、自分がそこにいても仕方ないと
歩いて家に帰ると、さすがに一晩家を空けた息子におかんむりの母親が出てくる。
そして言うには、夜客がくるので出歩くなとのこと。
客?誰?と思うと、果菜子がひょっこり顔を出し自分の婚約者が挨拶に来るという。
そして「明渡、いつ出てってくれる?」
そして果菜子は伸び上がって明渡にキスをする。
突然の奇行にに面食らった明渡に果菜子は
「中継してあげたんだよ、苑くんのキス」を告げ……
事情は本人に訊けとやり込められ、そう言っても連絡もつかないのに、と思いながら
でも、彼の足は離れに向かう。
苑に近づくためにやれることがあると思うだけで嬉しくて。
だって、お前が会いたくなくても俺は会いたい……つったら、言ってくれるか、苑。
ほんと変わんないね、って。
End