snowblack
midnight biginning
新聞社シリーズ番外編総集『ペーパーバック』の
2巻連続刊行記念の全員プレゼント小冊子。
こういうのって、すっかり忘れた頃にやってくるのが慣例だが
締め切りからわずか1ヶ月で届くという早業に、まずは拍手。
登場するは『off you go』の二人。
16Pの短い話の中に、新聞社シリーズらしい小ネタやスパイス、
密らしい、良時らしい、描写が盛り込まれ、
そして、この二人の切っても切れない特別な絆が描かれ、
大人な二人の深い夜の洒落た一編になっているのが素敵!
読み終わるのが勿体ない気分で、ニヤニヤしながら読みました。
☆ ★ ☆ ★
ある何でもない冬の日の夜。
企画もので世話になった広報のスタッフと
ちょっとした打ち上げの食事に出かける良時。
相手は一回り以上年下の女性で、彼女の希望で食事の前に
古い映画を一緒に見る。
その映画に関する高校時代の記憶の場面がすごくいい。
「真夜中のカーボーイ」の主題歌にまつわる
密と十和子と3人、実家のリビングで見ながらの会話。
本編のタイトルを想像させ、彼らの関係を浮き彫りにする逸話。
さて。
良時は思ってもみなかったのに、相手の女性には想いがあり
素知らぬふりでタクシーを見送りホッとしたところ
道の向こうには見慣れたシルエット、
しかも美女にネクタイを締めて貰っている我が恋人(笑)!
その後のやりとりの、心浮き立つことといったら、
やっぱり彼らの話での筆者の筆は冴え渡る。
美女に良時を「俺の男」と紹介する密、
それに動じもせずに「次は麻雀でもしましょう」と答える美蘭の
相変わらずのハンサムガールぶりも嬉しい。
珍しくもネクタイを「むしりとる」と宣言する良時、
そして、その後の濃密な大人の夜が垣間見える
阿吽の呼吸の二人の会話にニンマリしてしまう。
『ペーパー・バック1&2』連続刊行記念の全サ小冊子。
限りなく黒に近い焦げ茶色の装丁がシックな一冊です。
中身は『off you go』の番外編で、 16Pの書き下ろし。
企画ものの仕事が終わり、広告局の若い女性から打ち上げに誘われた良時。
ダスティン・ホフマンにハマっている、という彼女のリクエストで、1969年の映画『真夜中のカーボーイ』を観に行きます。
映画を観ながら、高校生の頃この作品を密と十和子の三人で観たことを思い出す良時。
主題歌"Everybody's Talking(うわさの男)"の中の「お前を置いて行けない」という一節に対し、
「腰抜けの歌なのね」
とバッサリ斬る十和子。
「だってそうでしょう、何かをしない理由になんてされたくないわ」
と続く言葉は、
密に対する彼女の愛し方、後の見送り方を思うと、ズシリと胸に響くものがあります。
「いろんなとこへ行くようなとこふかして、結局どこにも行けねぇ男の歌だよ」
という密の言葉も、彼のその後の20数年間の生き方を思うと何とも切ない気持ちになりました。
その後レストランで、自分に気があるらしい彼女を上手く躱し、タクシーに乗せ見送る良時。
ふと顔を上げると、道の反対側には、美女にネクタイを締めて貰っている密がいて……
この美女、『is in you』に登場した美蘭。
密が良時のことを「俺の男」と紹介しても動じず、今度麻雀でもやりましょうと誘うあたり、相変わらず素敵な女性でした。
美蘭と別れた後、良時の自宅で飲み明かす二人。
絡みのシーン自体はカットされていますが、その前後の二人のやり取りが大人の魅力たっぷりで堪りません。
密が美蘭に貰ったネクタイを
「むしり取る」
という良時の宣言にはドキッとするし(ちょっと驚いている密に萌)、
事後、良時の作ったカクテル《カウボーイ》に《ミッドナイト・カウボーイ》で返す密の察しの良さも流石。
こんな小洒落たやり取りのできるカッコいい大人になりたいな、と思わせる素敵な一編でした。
ペーパーバック1・2 連続刊行記念の全サ小冊子です。
新聞社シリーズの良時と密のお話。
BLを読むと、もう少し若いときに読みたかったなぁ、と思うことがしばしばで、なんだか言いようもない淋しさとか苦さを感じたりすることがある。
これは今の私が読んでちょうどよい・・・そんな個人的感想も持ちつつ
。
映画とお酒のお話を織り交ぜた、洒落た大人の一晩・・・といったところなのですが、今回はいつもより少しだけ強気な良時とそれに少しだけ驚いている密の短い会話が、この2人を見守ってきた(?)読者の心をくすぐります。
お互いが女連れで偶然にも近くに居合わせた夜、その後の2人がお互いに作りあうお酒の名前も映画とリンクして、書き下ろしの短編にもかかわらず、一穂さんの力が注ぎ込まれたと感じるお話です。
「表紙」も、「発送のご案内」も素敵なデザインで、ペーパーバック1・2と一緒に大事に本棚に飾っています。
きっと来年の2月にはまた、これを読み返すと思います。