snowblack
on your mark
数ある『林檎』の番外編の中でも、とりわけ好きな一編。
時間は付き合い始めて暫く経ち、志緒は高校に二年生になっている。
体育祭を前にした学校の情景、その中での志雄が桂の視点で描かれている。
生き生きと描かれる高校生達の描写の中、志緒が鮮やかに浮き上がる。
それは、志緒の持つ得難い個性の故もあるし、何よりも桂が見ているから。
そんな中、背筋の伸びた少女・山辺さんが志緒に恋していることに桂は気がつく。
今は少女の気持ちにすら気がついていない志緒だけれど、
もしかしたら彼女を選ぶのではないか?と恐れ、
嫉妬して、その時に自分は志緒のような潔い態度であれるのか?と自問する桂。
キスにさえ構えてしまうような10代の相手に、みっともなく狼狽えて、
せめて別れ際にみっともなくあるまいと、あれこれ心の準備をする桂が愛おしい。
少女の造形がまた素晴らしい。
一つ一つの仕草や振る舞いから、彼女が志緒くんを好きになった必然がよく分かる。
自分の気持ちを持て余しながら、桂が疲れ果てて帰った家で、待っていた志緒は…
告白を断ったという志緒に対し、桂は「後悔するかもしれない」と言う。
そんな事絶対にない!と全力で否定して欲しい、自分の不安を拭って欲しいと思う
ずるくて弱い大人に対し、志緒の答えが痺れる。ああ、これが彼の輝きだ。
その輝きに何度も魅せられる桂は、自分を生き直させてくれた志緒に感謝し、
自分も彼に相応しい者になろうと誓うのだ。