kurinn
seinaru hoshoku
正直言って本編より楽しめました。
普段は当て馬ザマァみたいなサイドストーリーが読んでみたいと思うのですが、こちらは美鶴と宝と柾鷹の母親の葉月目線のお話しでした。
何不自由無く育ち短大卒業後に働きもしないで親の勧めのままに見合い結婚してます。結婚後も今まで通りの生活レベルで、長男の美鶴は親から見ても近寄り難い美貌で学力も優秀で優しいのです。そして次男の宝が産まれると育児も手伝ってくれて葉月は幸福だと思っているのです。
そのうち美鶴と宝の絆に疎外感を感じるようになり、出世して留守がちな夫に寂しさを感じて夫の弟と不倫関係になります。
浅はかなのは夫と離婚して義弟が父親になれば何もかも上手く行くと思い行動するところです。
世間知らずのお嬢様だったので、全て悪いのは夫と美鶴で自分は被害者だと思っていました。当てにしていた両親から援助どころか絶縁され、親戚や友人からも縁を切られていました。
美鶴が初めから母親の葉月を排除しようとしていたかは分かりませんが、ずっと一緒に暮らしていても理解し合えない母子になったのは間違いないと思いました。
本品は『聖なる捕喰』のコミコミオリジナル特典小冊子です。
過去回想を主体とする三枝兄弟の母親視点のお話です。
三枝葉月は自分を「何もかもに恵まれている」と思っていました。
裕福な家に生まれ、優しい両親に蝶よ花よと育てられ、私立の女子高から
進んだ短大を卒業後すぐに親の勧めで見合い結婚した相手は、一回り近く
年上ですが、大手企業に勤めるエリートで結婚前と同じ豊かな暮らしを
続けられました。
結婚の翌年に生まれた長男の美鶴は、外出の度に芸能事務所のスカウトに
声を掛けられ、学校では美鶴の友人になる為に苛烈な争いが繰り広げられ
る程、綺麗な子供でした。
しかも美鶴は並外れた美貌を鼻にかけたりせず、分け隔てなく優しく、夫
の母校でもある名門校でも常に上位で運動神経も良いという、非の打ちど
ころのない少年だったのです。
さらに美鶴が中等部に上がる前に思いがけず次男の宝を授かると、幸福は
ゆるぎないものとなります。美鶴は年の離れた弟を驚くくらいに可愛がり
積極的にお世話をして助けてくれました。
しかし宝が生まれてからというもの、ふと気づけば宝は美鶴に抱かれ、甲
斐甲斐しく世話を焼かれていて、微かな違和感を感じるようになります。
よくよく思い出すと夜は美鶴が必ず宝と同じ部屋で眠り、泣き出せばあや
していたのです。
そんな美鶴を葉月は親孝行な息子だと思っていましたが、ミルクをあげよ
うと美鶴の手から宝を受け取ったとたん、今までご機嫌だった宝が火のつ
いたように泣き出したのです。
挙句にため息をついてが腕を差し出しつつ「返して、お母さん」と言う
美鶴の腕に抱かれると鳴き声はぴたりとおさまったばかりか、たちまちの
うちに笑顔になったのです。
よしよし、宝。ごめんね、怖かったね。
ふふ、宝はいい子だね。可愛い可愛い、僕の子ども・・・
2人の姿は兄弟ではなくまるで親子・・・夫の書斎に会った画集の聖母子のよ
うです。美鶴も宝も葉月が産み、母親は自分のはずなのに、目の前の光景
に呆然としてしまいます。
葉月の心に生じたほころびは、日に日に広がり・・・
A5判カラー表紙(文庫カバー同イラスト)12頁のボリュームで、美鶴によっ
て排除された母親視点での本編裏事情になります。
宝が1才になって少し経った頃、夫の航平は昇進して多忙になり、ろくに
帰宅できなくなり、宝はすくすく大きくなったもののあいかわらず美鶴に
べったりで、葉月は自分が仲間外れにされて居場所がないと感じるように
なります。
友人達はぜいたくな悩みと取り合ってくれず、そんな葉月の唯一の慰めは
夫の弟でふフリーカメラマンの櫂斗だけでした。生真面目で融通の利かな
い兄と違って、細かい事を気にしない大らかな海斗に自分だけを見てもら
えた事に歓喜した葉月は当然の流れのように彼と男女の関係になります。
そして家族を顧みない夫ではなく、海斗が2人の父親になってくれればと
願うようになるのです。そして海斗とともに今後の計画を立てるのですが、
葉月と海斗が描いたような未来は訪れません。
常識的な大人たちの目には幼い弟を可愛がる兄の姿は微笑ましいばかりで
あり、勝算があったとしても子供を置いていった出て行った母親には厳し
い目しか向けられないのです。
本作は2人の弟である柾鷹が生まれて、葉月が己のとった行動の身勝手さ
を振り返りながら終幕となるのですが、葉月は夫である航平との関りや、
子供達との関りを振り返りつつ、いつかは5人で暮らしたいと願う一方、
見え隠れしていた美鶴の宝への執着からは目を逸らしています。
葉月にとっては美鶴も宝も可愛い我が子ですが、美鶴にとって葉月は宝を
自分だけのものにするためには邪魔でしかなかった事が、よくわかるお話
で母が夢見た未来は訪れないので救いはありません。
萌度での評価は難しいですが、母親でさえも巧みに操る美鶴の狂気を見せ
つけられてゾッとしたので「萌」とします。