エロなし/片思い
「お前・・・からかってる?」ユキは答えない。ただずっと楽しそうにしている。からかわれているということに気づき、顔が熱くなるのがわかった。
春の陽気な日差しが窓から差し込み眠気を誘う。
何度聞いたかわからない、日本の歴史を先生は詳しく教える。
モニターに映るのはまだアンドロイドが普及される前の日本。俗に言うお手伝いロボットだ。
暖かさにつられ瞼が自然と落ちてくる。春眠暁とはよく言ったものだ。
「・・・き。」
呼ばれている気もするがこの睡魔に勝つつもりもないのでゆっくりと瞼を閉じる。
「和希!!おい、和希!!」
隣でいつもうるさい、晃が騒いでるがそれに応えることすら億劫だ。
「和希!!ヤバいって!起きろよ!」
あまりにもしつこいので文句を言おうと振り返るとそこにはにこやかな笑顔の先生がいた。
・・・めんどくさいことになった。
「おはよう。高梨くん。よく眠れたかい?」
素直に返事を返すのもむかつくので嫌味たっぷりに返事をする。
「おはよう。先生。今から夢の世界へ行くつもりだったよ。」
「夢の世界へ行くのは勝手だが、今はなんの時間かわかってる?」
睡魔の誘いでふわふわしていたため全く授業の内容を聞いてなかった。
「あー・・・。なんでしたっけ?」
はるか遠くない昔この世界は自分でできることは自分でしなくてはいけない世界だったらしい。
しかし今は家政婦アンドロイドというものが普及され始め身の回りのことは大抵その家政婦アンドロイドがしてくれるようになった。
このアンドロイドは見た目は人間と同じでパッとみだけじゃ見分けはつかない。
しかしこのアンドロイド達はどのアンドロイドもとても美しい見た目をしているのだ。
このアンドロイドが普及する前は反対の声があったらしい。しかしいざ使ってみるとその便利さに瞬く間にアンドロイドは普及した。
俺の家も例外ではなく家庭用のアンドロイドが身の回りの生活を手伝ってくれている。
「あー!!飽きた!!なんでまたいちいちこんなことしなきゃいけないんだよ」
アンドロイドの話は小学生の時から何度もきいてる。それをいまさらレポートにまとめて提出だなんてめんどくさいことこの上ない。
「また、怒られたのですか?」
机に伏せていたら上から凛とした声が降ってきた。
顔を上げるとそこにはとつてもなく整っている顔があった。
見るものを吸い込んでしまうような真っ暗な瞳。すっと高すぎず整った鼻、優しそうに微笑む唇があった。
アンドロイドのユキだ。
男の俺がいうのもなんだか、とても綺麗だ。
「歴史の授業で居眠りしてたらなー。」
おどけるようにユキに話す。
するとユキはふふふと控えめに笑う。
「和希様はいつも怒られてますね。」
「うるせーよ。眠くなる授業をする奴が悪い。」
ユキは文句をダラダラと言う俺を咎めることもなく、静かに耳を傾ける。
ひどくゆっくりとしたこの時間が好きだ。
「今回のレポートは、私たちアンドロイドのことなのですね。」
ユキは手元にあるレポートを覗き込む。
「んー、そう。アンドロイドなんていまさら勉強してもなー。こんな常識なことは子供でもしってるつーの。」
「そうですか?多分・・・和希様も知らないことがありますよ。」
「え・・・なにそれ」
ユキの含みのある物言いに興味が湧き、食い入るように聴く。
「教えて欲しいですか?」
ユキは意地悪をするかのように楽しそうに笑う。
「教えろよー。気になんだろー!」
「それはね・・・」
ユキは俺の耳元へ唇を寄せる。
ドキドキで変な汗をかく。
「実はアンドロイドの間でしか知られてない"掟"があるのです・・・それは・・・」
ごくりっ。と唾を飲み込む音が大きく聞こえた気がした。
「アンドロイドは使えた家のものに
『恋』をしてはいけない。」
は?え?なに?恋?
あまりにも予想外すぎて頭がついてこない。
ユキの顔は楽しそう笑っている。
もしかして・・・。
「お前・・・からかってる?」
ユキは答えない。ただずっと楽しそうにしている。
からかわれているということに気づき、顔が熱くなるのがわかった。
「ユキ!!からかうなよ!!めっちゃ緊張したのに!」
ぽかぽかとユキの胸を叩いてやる
「すみませんって!あまりにも真剣な和希様が可愛くて・・・」
「男にかわいいとかいうな!あとかわいいって褒めてない!!」
もっと力を込めて殴る
「いたた・・・。和希様、昔に比べると力強くなりましたね。」
「そりゃ、成長したしな!もうすぐユキの身長抜いてやるからな!」
上をみる。ユキと目があった。
「それは楽しみですね・・・っと、そろそろ夕食の時間ですよ」
ユキは不自然に目を逸らした。それがなぜだか無性に悲しかった。
「ふー、お腹いっぱい!ごちそうさまでした!」
今日の夕飯はユキ特製シチューだった。
「ユキの作る料理は全部で美味しいよなー。」
「そんな、私はただレシピ通りにつくっているだけですよ。」
「んー、でも、おれにとっての、『おふくろの味』ってのはユキの作る料理だな。」
実を言うと母親の料理はあまり食べたことがない。
昔からユキがおれの食事の用意をしていてくれいた。そして両親と揃って食事をするなんて記憶にもなかった。
ふたりだけの食卓。その空間がおれにとっての日常だった。
「そんなに美味しいといってもらえると嬉しいですね。」
「ねぇ、ユキ。」
台所で食器を洗っているユキに何気なく声をかける。
「なんでしょう。お風呂ならもう用意してますよ。」
「いや、風呂じゃなくてね、あのさ、おれの我儘になるけど、これかもずっとおれに側にいてご飯作ってよ。」
ユキは手を止めてまっすぐおれを見つめる。その目はおれを縫い付ける様にしっかりとおれを射抜いていた。
何気なくかけた言葉をそんな表情されるとは思ってなく内心焦ってしまう。
「私は・・・あなたが私を捨てない限りずっと側にいますよ。」
捨てる・・・?小さい時から一緒にいてくれたユキを捨てるなんてするわけない。なんでそんなこと言うんだよ。
「捨てるとかそんなことあるわけないだろ・・・。おれにとってユキは・・・大切な家族で友達なんだよ。」
ユキはゆっくりと微笑みを浮かべただけだった。
なにも言わない、言えない。なんとなく重苦しい空気が耐えれなかった。
「風呂はいってくるね。」
「ゆっくりしてくださいね。」
おれは逃げる様に風呂場へ向かった。
日に日に和希様は美しく逞しく育たれる。幼い頃からそれをみてきた私はとても嬉しく思う。
しかし私はそれと同時に苦しかった。
この妙な感情が辛かった。
和希様に触れられるもぎゅっと胸の奥が苦しくなる。
和希様に見つめられると全てを見透かされている様に感じる。しかしそれが嫌なわけでもない。和希様に家族と言っていただいたのに胸がとても締め付けられました。アンドロイドにはこの上ない喜びなのに・・・
・・・私はこの妙な感情を知っている。しかしそれはアンドロイドにインストールされていない感情だ。
この気持ちを認めてしまえば私は和希様の側にはいられなくなってしまう。
誰にも・・・和希様にも気づかれてはいけない感情。
今度のメンテナンスでもばれない様に振舞いましょう。
あなたの我儘で仕方なく側にいるのではありません。全て私の我儘。
あなたの側に居たいから。
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