エロなし/軽くハッピーエンド
――――――冷たかった。それ以上の言葉はいらないという代わりにふさいだ唇はまるで俺を試しているかのような感覚だった。
「ねぇねぇ、どうしてユキは年を取らないの?」
小さい頃に俺は何度か聞いたことがある。
そういう時、決まってユキは少し悲しそうな顔をしながらこう言っていた。
「変わるべき時が来ないからだよ―――」
俺、高梨和希は現在高校1年生。
兄弟はいないけど、アンドロイドのユキと暮らしてる。
ユキは俺が小学校に上がる少し前から家に来た。
母が小さい頃はまだ、家にロボットがいるのなんて珍しいことだったらしいけど、
俺にはユキがいない生活なんて考えもつかない。
ユキの方がどうかは知らないけど、それほど俺にとってユキは特別な存在だった。
「ねえ、かず…ボーっとしているようだけど、ボクの説明ちゃんと聞いてた?」
……そうだった、俺は今ユキと一緒にテスト勉強してるとこだったんだ。
「あ…わりぃ、考え事してた…。もう一回お願いしてもいい?」
「もう……かずはほんっと、相変わらずだよね…。もう一回だけだよ?」
こういうとこ、俺はユキに甘えてると思うし、ユキも俺を甘やかしてると思う。
ホントは分かるけど、ちょっと一緒にいたかった…なんて言えたもんじゃないよな。
ただ仲が良いっていうのにも、違和感を感じてしまう。
あ…、マズい。またユキの説明ちゃんと聞けてない。
こんなことばっかり考えてしまう俺ってちょっとおかしいのかなって思う。
「わかったよね?2回目だよ?」ってユキが言うから、
ちょっとごまかしつつ休憩しよう?ってユキに告げた。
ユキは1人の部屋を持っていない。というより、和希と同じ部屋ですごしてるというべきか。
かずは部活が忙しいから、実際この部屋にいるのは夜中だけ。
「高校生なんだから、いつまでも一緒の部屋っていうのもなぁ~」ってかずはよく言う。
かずは一人でゆっくり過ごしたいんだろうか。
ボクとしてはずっとかずと一緒にいられたら楽しいと思うんだけど。
「ねえ、ユキはさあ。」
いつの間にか部屋に戻ってきてたかずが唐突に言った。
考え事が口に出ちゃったのかなっていうくらい不思議な声だった。
「男なの、女なの。」
「………は?」
え、あれだけ考え込んでますって感じでこの質問なの?
「いや、ボクが男型のアンドロイドだって見ればわかるよね?」
「うん…、そうなんだけどさぁ…」
かずはよくわかんないって顔してるけど、ボクの方が理解できてないと思う。
「ユキは…俺が幼稚園か、小学校上がるくらいの頃から家にいたじゃん。」
なぜいきなりそんな昔の事を語りだすのだろう。
「その時なんとなく思ったんだ。今もだけど…なんで男の子のロボットなの?…ってさ。」
「…何。なんか不満でもあるの。」
「いやいや、違うって!」
よくわからないことを言っているかずは、否定だけは速かった。
「いや、なんとなくさ、友達…っぽい?感じかなって…どう?」
何でユキは理解してくれないんだ。
「普通に…友達というか、兄弟みたいな感じじゃないの?
ボクに言いたいことがあるならはっきり言わないと…
ほら、読み込み作業がスムーズにいかないかもだし!」
冗談みたいにくすくす笑うユキに少し腹が立ってきてしまった。
俺自身何言おうとしてるのかわかってねえのに。
「いや…あの、だから、ユキは男だからでもアンドロイドなら女にもなれてでもちがくて――」
分からない、でもあの言葉は―――
「かず、言いにくいことだったら何も無理しなくて―――」
――――――冷たかった。それ以上の言葉はいらないという代わりにふさいだ唇は
まるで俺を試しているかのような感覚だった。
「か…じゅ…お…ねがい、んっ、いったんはな…れて…」
ユキ、お前は変われないって言った。でも、心がないわけじゃないんだよな?
一度唇を離し、手首を抑えてベットに押し付けた。
「どうしたの…かず?」
もう答えるしかないよな。あの言葉で――
「お前の事が俺は好きなんだって。文句あんの?」
照れ隠しじゃない、そうじゃないけど、早口になってしまった。
こんな状況で、くすくすってユキが笑うから、不思議に思った。
「なんで笑うんだよ。」
「……なんでボクが男の子だったの、ってかず言ったよね。」
「…言ったけど。」
ユキが変なことを言うからボタンをはずしていた手が思わず止まった。
「その家の子が、年頃になった時に変な気を起こさないようにだって。」
残念だったな、ユキ。男でも女でも、たぶん俺はお前が好きになる。
でもそれの何がいけないんだ?
「アンドロイドは基本、その家のお手伝いとして来てるから
余計な感情を持ったら処分されちゃうんだよ、例えば―――恋愛感情とか。」
「…ユキが俺の事普通ならいいんじゃねえの?」
途端にユキが真っ赤になった。何、俺なんか悪いこと言った?
「…ぼ、ボクもかずか好きだから、でも…手出されちゃうとばれるじゃん?」
「…もういいじゃん。お前も好きなら―――」
「だめだって!」
「え…?」
ユキにそんな力があったなんて知らなかった。そのままさっきと立場が逆転した。
ユキは軽く俺の唇に触れてこう言った。
「す、好きだから、何にもさせない!ずっと一緒にいよう?」
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