切ない/無理やり/執着攻め
「い、やです」「ふーん、人間様に逆らっていいの?」家の庭にある小さな倉庫の中。和希はユキを壁際まで追い詰めていた
「い、やです」
「ふーん、人間様に逆らっていいの?」
家の庭にある小さな倉庫の中。和希はユキを壁際まで追い詰めていた。壁の上方に取り付けられた窓から西日が入り、色素の薄いユキの細い髪を照らしている。
「…でもっ」
「別にいいじゃん。ヤらせろよ」
「和希様っ」
横をすり抜けようとするユキの両側の壁にガンッと腕を伸ばし、捉えた。光の中に、細かな塵がキラキラと飛んでいる。
「もし…俺の余りある性欲が暴走して、女の子ゴーカンしたらユキのせいだよな?いいんだ」
「…よく、ないです」
「じゃあいいよな、ユキ」
俯いたユキの顎に手をかけて持ち上げる。ユキは、肩、腕、腰、どこをとっても華奢で、力もなく、人間には抵抗できない仕組みになっていた。
「お前も怖いとか、あんの」
「そういう、わけでは」
「レイプされんの怖い?」
ヒュ、と息を飲んだユキには、人間でないものとは思えないほど表情がある。見開かれた瞳、震える肩。するりとTシャツの中に手を差し込むと、「……ぁ」と色気のある声をこぼした。
「なんでヤなの?お前あれだろ、元はソレ用でしょ」
「っ?!…知って…」
「偶然だけど。雑誌の絶滅アンドロイド特集の隅っこにあった。お前とソックリなの」
ユキはか細い息を吐いた。
変だと思っていた。他の友達の家にいるアンドロイドは、もっとロボットくさい。ちゃんとプログラムされて動いている、というのが分かる。けれど、うちにいるユキは違う。身体の動き、顔、表情、感情、言葉、どれをとっても人間としか思えない。それは、一昔前のアンドロイドの特徴だった。あまりにも人間に近いものはよろしくない、そういう風潮ができ、最近はロボット風のアンドロイドが主流で、ユキのようなアンドロイドはもう製造されていない。
「お前、セクサロイドなんだろ」
耳の近くで囁くと、ユキは目をギュッと瞑って顔を背けた。
「なぁ、いーじゃん、ヤろーぜ」
「ダメ、です。これは源一郎様からきつく言われています」
「は、じじいはもうくたばっただろーが」
「それでも、私の主人は源一郎様です」
ずっと伏せられていた灰色の大きな瞳が、和希を見据える。
「私を救ってくださった源一郎様のためにも、和希様とそういったことはできません」
「じじいは死んだんだよ」
「できませっ…」
言い終わらないうちに、和希はユキの腕を掴んで乱暴に投げた。軽いユキの体は簡単に吹っ飛び、床に積んであったダンボールに倒れこむ。ガラクタのような中身が方々に飛び散った。
「じじいはお前に呪いでもかけてんの」
「…違いますっ」
崩れてしまったダンボールから必死に上体を起こすと、ユキは訴えた。
「源一郎様は、使えなくなった私を拾ってきて、普通の家政夫として使用してくれていました。それだけです」
「もういいから。じじいの話は」
和希の祖父、源一郎は、有名なアンドロイド研究者であり、ロボット倫理委員会の会長だった。人間に近寄りすぎていたアンドロイドの人工性を復活させるという流れを起こしたのも、源一郎だったらしい。しかしそんな祖父も、一週間前に亡くなった。小学生のころ両親を亡くした和希は、祖父の源一郎と家政夫のユキと3人で暮らしていた。源一郎は晩年、ユキの介護なしでは生活できない身体になっていた。介護と家事のすべてを担い、それでも笑顔を絶やさなかったユキ。そのユキを、和希は今押し倒している。
ベロッとTシャツを持ち上げると、白い肌と濁りのないピンク色の二つの突起が露わになった。そのまま馬乗りになり、乳首を両の親指で弄る。
「やめっ…ん、か、ずき……さまっ」
「声もやーらしー」
クックックと笑いながら、尖ってきた乳首をつねったり潰したりする。
「ぁ、ん」
「ココだけでそんななんの?恥ずかしいねお前」
和希が放った言葉に、カッと頬を染める。ユキは反射的に顔を隠すと、もう一度か細い声で「これ以上はおやめください」と言った。
「これ以上って何?俺バカだからわかんねーや」
「和希様っ」
履いていたスウェットとパンツを一気に脱がせる。少し足をバタつかせたくらいでは、和希の力に敵うはずはない。
「なぁ、こっちは?コッチどうなってんのー」
口ずさむように言うと、和希はユキの膝裏を持ち上げた。陰嚢の奥には、窄まった入り口が見える。
「和希様っ、本当に、おやめくださ、いっ…」
和希はユキの訴えなど聞かず、その穴に指をかけた。
「お前排泄はしないんだろ?綺麗だよな」
「そんなっ…」
「あ、入った」
意外にもスルリと招かれた指を、中でぐるぐると動かす。
「あぅ…」
「てかお前さ」
ズボッと指を抜くと、和希はその指をしげしげと見つめた。
「ここ濡れんだ?」
ニヤリと笑うと、次は躊躇なく二本同時に指を入れる。
「はぅ、ぅ…も、もぅ……」
「もうおやめください?まだ言う気?」
嫌がる、というにはあまりにも艶のある表情に、和希はかみつくように唇を押し付けた。
「っふ…ぅ、んんっ」
「エロいな、やっぱお前」
指は三本に増やした。恍惚の表情をするユキからは、すでに抵抗の動きは抜けている。
「入れっぞ」
「ぁ…や、め…あぁぁあああっっ!」
細い腰を持ち上げると、限界まで張りつめたモノを一気に突き立てた。簡単に和希を飲みこんだ体は、大きく痙攣した。
「お前、何年ぶり?昔はよくヤってたんだろ?」
「ぅ…か、ず…やめ、て……」
「すっげ気持ちいいんだけど、中どうなってんの?」
「あ、ぁん、あんっ」
和希が突き上げるとユキが嬌声を上げる。惜しみなく発されるその声をもっと聴きたくて、強く速く腰を動かす。
「お前、も、キモチいい、ん、だろっ」
「んっ、あっ、あっ、うっ、うんっ、ぁ」
揺すぶられながら、性器からピュッピュッと白濁したものが飛び出ている。
「しゃ、せい、した?」
「はぅ、う、ぁうぅ」
焦点の合わないユキに問いかけるが、返事はない。そのうち和希も絶頂を迎え、強く腰を押し付けると中に大量に注ぎ込んだ。
「んっ…」
ユキからズルリと自身を引き抜くと、その辺に落ちていた布で拭い、ズボンを整えた。
しかし、その間ユキは微動だにしていない。違和感を感じて、和希はユキをのぞきこんだ。
「ユキ…?何、オチた?」
ぺちぺち、と頬を叩くが、眼球が動かない。
「…ユキ?」
恐ろしくなって体を大きく揺さぶったが、首がガクガクと前後するだけで、意識が戻る様子はなかった。
「ユキ、おい、ユキっ…!!」
どんなに大声を出しても、うんともすんともしない。和希はユキを横たえると頭を抱えた。
「なんで…?なんで急に動かねぇの?!死んだ?!ってか…最初から生きてないのに!!」
なんでだ、なんでだ、と独り言を繰り返しながら倉庫の中をぐるぐると動き回る。
「倉庫…そうだ!!ここ、じじいの書類とか、置いてあるんじゃ…!!」
アンドロイド研究者だった源一郎のものが、ここには多く置かれていた。わけのわからない英語の論文、精密に描かれた設計図、倫理的観点でディスカッションされた会議の議事録…。ダンボールの中身をどんどん外に投げる。ユキについて書かれたものはないのか。
「これ…!」
一番下のダンボールの中から、日記の束が見つかった。B5サイズのノートが20冊はあるだろうか。源一郎がユキを拾ったというのはいつごろだ。わからないが、ベラベラとめくってヒントになるものがないか血眼になって探した。
「…っ!!」
そのページは、30年ほど前の日記にあった。『アンドロイドを発見した』と書かれている。
「これ、絶対ユキだ…!」
そこには、祖父の緻密な字で詳細が綴られていた。
『2305年10月5日
大学からの帰り道、路地で裸になって倒れているアンドロイドを発見した。その様子から察するに、強姦され、打ち捨てられた模様。早速家に連れ帰り、まずは洗浄した。暗い路地ではわからなかったが、体を拭きとると中性的で美しい顔、体つきの少年だった。数年前秘密裏に製造されていたPZ-5023型に近いものと思われる。何点か盗難にあったという話も聞いていたので、そのあたりのものかもしれないし、持ち主の元から逃げてきた、とも考えられるが、定かではない』
『2305年11月20日
再起動に成功。ひどく怯えた様子だったが、保護する意思があることを伝えると事情を話し始めた』
「なんだよ…その再起動のとこ詳しく書けよ、クソじじいがっ」
悪態をつきながら、日記を読み進める。
『やはりPZシリーズのセクサロイドで、オークションにて売られたものの、欠陥が分かった途端店に出され、客の相手をしていたらしい。隙を見て逃げ出したがすぐに見つかり、複数人に強姦されて意識を失ったということだ。話を聞くに、おそらく激しい性交渉で電源が落ちる、または配線が切れるなどのトラブルが起こりやすい個体である模様』
「ユキが…欠陥品…?」
和希は夢中で日記をむさぼり読んだ。ユキを拾ってからの源一郎の日記は、しばらくユキについての文章で埋め尽くされている。
『2305年11月28日
中を分解し修復するしかないという見解に至ったが、彼自身がその必要はないと訴えるので、必要最低限のメンテナンスを施し、それ以上はしないこととする』
『2305年12月17日
初雪。初めて雪を見た、と喜ぶ彼にユキという名を付けた。名をつけるのはどうかと思っていたが、ユキは単にロボットの個体と言うには人間味がありすぎる』
そこからは、ユキが源一郎の身の回りの世話をするようになる様子が記録されていた。そしてそのあたりから、源一郎はあまりにも人間に近づきすぎたアンドロイドの存在へ警鐘を鳴らす活動を始めている。年月が経ち、ロボットらしさを残すアンドロイドが主流になっていく中、源一郎は、ユキを残すべきか否か、という悩みにもぶち当たっていたが、そのとき息子とその嫁が亡くなり、孫を引き取ることになる。
「俺、だよな……」
孫の和希はユキによく懐いていて、ユキもよく面倒を見てくれる。自分の体ももう弱ってきて、一人では動き回れない。ユキの存在は必要不可欠なものだ、という内容が書かれていた。
源一郎の晩年の日記を読むころには、もうあたりは真っ暗になっていた。気付いてみると、外から入ってくる街灯の光で文字を読んでいた。
『2334年7月3日
もういよいよ寿命が近づいてきたように思う。あとのことはユキに任せた。心配なのは孫の和希だ。誰に似たのか荒っぽいところがあり、家に帰って来ない日もあることを考えると女遊びもしているのかもしれない。もし和希がユキを襲うようなことがあれば、と考えないこともない。が、孫を信じることにする。次にユキに何かあれば、もうおそらく再起動はできない。しかし、普通に生活する分には支障はない。ユキと和希が末永く協力しあって生きていくことを望む』
日記に、いつのまにか水たまりができていた。和希は気付かぬうちに涙を流し続けていた。
両親を亡くし、ふさぎがちになっていた幼い和希と遊んでくれていたのはユキだった。毎日美味しい料理を作ってくれて、夜遊びする自分を遅くまで待って迎え入れてくれた。人間より慈悲のある美しい笑顔に欲望を覚えたのはいつごろだっただろうか。しかし、それは間違っていた。
もう、優しいユキは戻ってこない。
自分が、壊した。
「ユキ…ごめ…ユキっ……!」
ベタついたものが付着したユキの体を抱きしめる。人間とほぼ同じ体温を持っていたその肉体は、もう冷たかった。
「ユキ…」
開いていたままのまぶたをそっと閉じる。
この灰色の瞳も長い睫毛も、何もかも好きだった。
祖父ばかり見つめるユキを自分のものにしたかった。ただ、それだけだった。
体を離すと、ユキが何かを握りこんでいることに気付いた。ユキを倒したときにダンボールからいろいろなものが出てきた。それが偶然、手に入っていたのだろうか。
「…おりがみ…?」
手をそっと開くと、色が薄くなったおりがみの手裏剣が出てきた。両親を亡くしたころ、家にこもりがちだった和希に、器用だったユキが教えてくれた。おりがみ、あやとり、切り絵…。
「ユキ…俺、なんてこと…動けよ、ユキ…っ!!!」
和希はユキの亡骸を抱きしめ、声を枯らして泣き叫んだ。
街灯に照らされた床には、二人を囲むように色とりどりの折り紙が散らばっていた。