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第1回 BL小説アワード

アンドロイドは人間を愛してはいけない

エロなし/純愛

「いや、嬉しいんだけどさ、大切にしてくれて嬉しいよ。でも、初めてのプレゼントが女の子の人形って、ね。恥ずかしいんだよ。」

秋風悠
5
グッジョブ

ユキと僕。1

我が家のアンドロイドにして僕の世話係となったユキは面白い。
「ユキくんさー彼氏いたの?」
「はい?」と言いながらユキは紅茶をカップから溢れさせている。実に分かりやすいと思う。
「ユキくんさー、親父が厳選したプレミアのクラシカルモデルじゃん。僕よりも少しだけ長生きしてるじゃん。」年の差というものが悔しくて長生きを強調していってしまった。
「そうですね。で、なぜ彼氏なんですか?」と言い、こぼれたところを適当に拭いたティーカップを渡してきた。いつもなら入れ直してくれるのになあ。どうやら先ほどの発言で機嫌を損ねてしまったらしい。なかなか主人に反抗的で面白いと思う。
「ユキくん美人だし面白いしモテそうだから。あとさ、僕ね隣のクラスのイケメンに告白されちゃったの。だから参考にしようかなって。」と言ったらユキは固まってしまい、そしてケーキをのせた小皿を落としてしまった。ケーキはカーペットの上にあるので、さすがにそれは食べられないかなあと思っていると
「貴方は馬鹿ですか、大馬鹿ですか。アンドロイドであっても男性モデルの私に美人という形容詞は間違っています。それと16才のお子さまに恋愛なんて、それも同姓なんてダメです。ダメにきまってます。」と憤慨している。モテる発言は否定しないのか、ユキよ。やっぱりモテたのかと誇らしいような寂しいような気持ちになってしまう。
「恋愛なんて大学に行くようになってから語って下さい。いや、私には話さなくて結構です。というか、そのイケメンってだれですか?
ちょっと、私の話し聞いていますか?」怖い目をしたユキに肩を揺さぶられて捲し立てられる。落ち着いてくれよユキ。君人間ならもう青年の年頃だろう。でも、アンドロイドなのに感情表現が豊かなユキを僕は特別気に入っていた。
「ごめん、ごめんゆきくん。大丈夫だから。ちゃんとお断りしてきたから。」
「そう、ですか。」
「ねえ、ユキ。大学生になったら恋人作ってもいいんだね?」
ユキの手は少しだけ僕の肩を握って落ちていった。
「ええ、いつまでも私に世話されてないでかわいい恋人と青春してください。」
「そっか、じゃあそれまで僕はユキのものだね」おかしなことを言っている自覚はあった。
「そうですね」とユキは人間だって滅多にしない悲しそうな、けれど綺麗な笑顔で笑った。
「あ、アンドロイドの恋人はだめかな?」
「ダメです。ダメにきまってます。しっかりして下さい!本当に馬鹿ですか。」ユキは少し怒りながら部屋を出ていってしまった。「ユキくんはやっぱり面白いなあ」と僕はすっかり冷めた紅茶を飲みながら呟いた。


ユキと僕。2
「ユキ!ユキくん!ユーキ!」
「なんですか?」
「今日はなんの日でしょうか?」
にやにやしながら問いかけるとユキは面倒くさそうな顔をしている。
1年に1回しかないというのにひどいと思う。
「何が欲しいんですか?」
「ユキ。」
「只今在庫切れです。ちなみに再入荷の見通しはありません。モウシワケゴザイマセン。」
「ユキのけち。俺二十歳だよ!は!た!ち!おめでたくないの?」
「それはそれはおめでとうございます。」
「ユキくんが冷たいよう。じゃあさデートしよう。映画行こうよ。ユキが見たいって言ってたやつ。」デートという言葉が引っ掛かるのか、ユキは少し考え込んでいる。
「しょうがないですね、いいですよ。一応プレゼントは別に用意してありますけど。」
「もしかしてユキのお祝いプランあったの?」
「そんなわけないじゃないですか!ついさっき言われて思い出したんですよ。」とユキは顔を赤くしながら怒っている。ユキは面白いなあ。ついさっき思い出してプレゼントがあるのか、なんて無粋なことは言わないけれど。ユキはやっぱり面白い。

その日は映画を見て、ユキお手製のごちそうを食べた。僕の好物ばかりあった。とっても美味しかった。ユキがくれたのはセンスの良いネクタイと革靴だった。そして、来週にでもスーツを見繕いに行こうと誘われた。もしかしたら今日のプランそれだったのかなあと少し申し訳けなく思ったが、それ以上に嬉しくてたまらなかった。その夜はユキがおでこにキスしてくれる夢も見れて幸せだった。


ユキと僕。3
「今日は最高の気分だよ、ユキ。」僕は今ならなんでもできるような気がした。だって今日は愛すべきユキの誕生日であり、アンドロイド法案が改定された日であり、ユキが僕のものになる予定の日である。いや、僕のものになる日である。
「貴方はすごい馬鹿な人ですね。アンドロイドなんて替えがきく存在なのに、深い関係になんてなれなかったのに。ほんとうに馬鹿だ。」ユキは言ってることとは裏腹に穏やかに笑っている 。

アンドロイドの定義とは、人類の良き友人であれ、である。友人とは便利な言葉である。アンドロイドは決して人間に逆うことができず、人間に使われるという意味での友人とされていた。アンドロイドに自由はなく、主人とは対等にはなれないのだった。主人に逆らえば消滅プログラムが起動し、たちまちそのアンドロイドは壊れて、いや死んでしまうのだった。現在、アンドロイドは心さえも手に入れ、もはや機械とは言えない存在だというのに。近年では、アンドロイドは主人に逆らえないというところを利用され、一部の人間に非道なことをされる、という事件まで多発していた。もちろんアンドロイドと人間が愛し合うなんて言語道断で、アンドロイドが好きだとか愛してるだとかを主人に言って死んでしまう、という悲劇は度々あった。僕はアンドロイドを救うため、という大義名分のもと法改正を目指した。そして今日実現した。改正されたアンドロイドの定義とは、アンドロイドは第二の人類であり人類のよきパートナーであれ、である。

「ねえ、ユキ。僕に言うことないの?」
「今更言わなくても分かるのでは?」
「だめ。僕すごいがんばったの。ご褒美ちょうだい。言って。もう大丈夫だから。」
「貴方が、和希のことが好きです。」
ユキの声は掠れて震えていた。このとき僕は初めて彼が泣いているのを見た。本当は気づいていた。昔見た僕に向けた表情の意味を、二十歳の誕生日に僕に手の上からだったけどキスしてくれたことを。ユキは僕を愛してくれていた。少しだけ遠くから 、けれど誰よりも深く僕を大切にしてくれていた。僕は初めてユキを抱き締めることができた。
「ユキ。ごめんね、ありがとう。」
「本当ですよ、私は貴方に触れることはおろか、好きということさえできないのに。あんな試すようなことばかり、ひどい。」ユキは弱々しく肩を叩いてくる。
「ごめんね、ユキ。だってユキが面白くて。」
「その面白いといのもからかってるんですか?」さっきまで泣いていたのに今度はキツくにらんできた。
「違うよ!本当はかわいいって意味で言ってたの。でも、かわいいなんて言ったら君、怒るだろう。」
「そうですね、アンドロイドにかわいいなんて言うやつは頭がおかしいと思われるので。」
「でも、もうそんなことないんだ。アンドロイドはもう人間のパートナーなんだから。」そう、アンドロイドが人間を好きになることも、好きということも許されたのである。もう愛を伝えて、死ぬなんて悲劇は起きない。

「貴方は言ってくれないんですか?」
ユキが僕を試すように見上げてくる。
「愛してくれてありがとう。僕も心からユキを愛してるよ。」と言うとユキは固まってしまった。
「馬鹿ですか。私は愛してるなんて言ってません。」と顔を背けてしまった。
「ユキはほんとかわいいよ。僕を思って泣くなんて、これは愛に決まっているじゃないか。」
「うるさい馬鹿」
「ユキの馬鹿は好きって意味だよね」
「なっ!?」彼がやっと僕を見てくれた。固まっている彼にキスをしてみた。
「な、え、ちょ」言葉にならないくらい喜んでいるので僕はそのまま続けることにした。
「ん、っあ、ちょ、まって、待って下さい。アンドロイドは、というか私はこういった経験がなっ」
「知っているよ、というか経験があったら許さないよ。僕だけのユキなんだから。」
僕が強く言うとユキは押し黙ってしまう。その照れたような、怒ったような、嬉しそうな顔を見て法改正のため駆け足で努力した10年間が報われた気がした。
「このエゴイスト。自分のために法律まで変えるなんて。」
「こら、ムード壊さない。それに自分のためじゃない。君のためだよ。happy birthday ユキ。愛してるよ。いつまでも。」
ユキはもう抵抗するのを諦めたように「優しくして下さい。」と言い、身を預けてくれた。


番外編 和希と私
私の主人は優秀な人だが馬鹿である。矛盾しているがそうなのだ。例えばアンドロイドの私に対等に接するところ、私が反抗すると面白いと言うころ、そして傷ついたアンドロイドを人間のようにいたわるところ。エゴイストなどと思わず言ってしまったこともあるが、あの人は確かに弱い立場であったアンドロイドを救ってくれたのだ。
私が彼に初めて会ったのは彼が6才の時だった。私は彼の前の主人に非人道的な扱いを受け、人間に絶望していた。そんな私に彼は「ぼくのおともだちになってよ!」と当時流行りのおもちゃを渡しながら言ってきた。とても驚いた。アンドロイドの定義だった〈友人〉という関係になることを主人に望まれるのは初めてで、ほんとうに嬉しかった。それから彼の家で側にいることができて幸せだが、決して彼に好きとは言えない切ない日々が続くのだった。

「ねえ、ユキちゃん。ぼうっと何見てるの?」と彼が後ろから抱きついてきた。ユキちゃんと呼ぶときは甘えたい時だと長い付き合いで分かった。
「重いです。懐かしいなと少し昔を思い出していたんです。」嘘だ、彼は昔より少し軽くなっていた。お互いに長い時を生きてきたのだ。当たり前であった。
「あっ、これ。まだ持ってたの?恥ずかしいから捨てていいよ。いや、捨てて下さい。」思い出のおもちゃにこの言い草とはひどい人だ。
「嫌です。これは貴方に初めて貰ったものなんです。私のです。」
「いや、嬉しいんだけどさ、大切にしてくれて嬉しいよ。でも、初めてのプレゼントが女の子の人形って、ね。恥ずかしいんだよ。」
彼は珍しく顔をしかめて言う。こんな表情を見るのは久しぶりで私は面白くなっていた。
「なんでかわいいお人形さんをくれたんですか?」
「だって君に似ていると思って。」
と恥ずかしそうに言ってきた。いや、恥ずかしいのは私である。これは黒く長い髪に切れ長の瞳、そして赤いチャイナドレスに身を包んだかわいらしい人形である。
「貴方やっぱり昔から馬鹿ですよね。」
「いや、違うからね。君の方がこの子よりも綺麗だよ。というか、チャイナドレスを着てくれないか。」と真剣な眼差しで残念なことを言ってくる始末だ。呆れてしまうが、こんな馬鹿なところも好きなので救えないな、と笑ってしまう。
「あ、笑ってる。意外と乗り気なのか。よし、明日にでもデザイナーを手配しよう。」
「一人で盛り上がってるところ悪いですが、着ないですよ。」
「そんなあ、絶対似合うって。」本気で悲しそうな顔で言ってきた。
「分かりました。貴方が健康を考えて煙草を止めるなら考えてやってもいいですよ。」投げやりに、でも少し心配していることを条件にしてみた。
「分かった。もう一生吸わないよ。約束する。」嘘は絶対につかない人なので驚いた。これは近いうちに必ず着ることになるなと思う。
「いつまでも元気でいてください。」
「任せろ、愛してるよ。」と自信満々にいってくる。恥ずかしい人だ。でも私も嬉しくてたまらないのが歯痒かった。
「私も和希が好きですよ。」と言うと愛おしくてたまらないというような表情で笑ってキスしてくれた。

La Fin.

秋風悠
5
グッジョブ
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