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中原さんと言えば、BLの中でもキラキラとした華やかな世界の話ではなく、オヤジや極道など、男と男のぶつかり合いどこか無骨で男気のある作品をかかれる方と言うイメージが強い。 長い間気になりつつなかなか手にすることの出来なかったこの方の作品を初めて読んだのは、奈良千春サンの挿絵に釣られて買ったシャレード文庫の「愛してると云わないでくれ」だった。 自分のブログの感想に「愛してる~」が初中原作品だと書いた。その時コメントをつけてくれた人たちがこれも読んでみてと、親切にも教えてくれた本の中にこの作品も入っていたのだ。 このシリーズは既刊作として現時点で3冊目、今もまだ現在進行形のようだ。主人公は探偵事務所の所長をしている竜崎というどこかさ冴えないオヤジ。彼が悪友である男から自分の弟を竜崎の探偵事務所で雇ってくれないか頼まれる事から話は始まる。 数日後、竜崎の事務所にやってきた青年、深見謙二郎は触れれば噛み付かんと言わんばかりに、人を寄せ付けまいとする高いガードを自分の周りに張り巡らせた危うくどこか影のある美青年だった。 母親に性的虐待を受けていた彼は、それだけでなく傷害事件を起こし、少年院に入っていたという暗い過去も持つ。ワケあり青年だった、一番の身内に酷い扱いを受けて入った少年院でもお決まりのように他の男たちの慰み物にされて、女性恐怖症どころか初めは人に触られる事すら嫌悪しているような有様だった。 そんな彼が、竜崎や彼の元にやってくるオカマちゃんのオリーブの母性愛とも父性愛とも言える溢れんばかりの愛情に心を次第に癒され、仕事上でも人生においても常に自分の前を行く竜崎に追いつこうと切磋琢磨し成長していくと言う人間成長物語とも言える話だ。 虐待、少年院、レイプや薬、竜崎が探偵事務所をやっている事などもあり、事件に巻き込まれお互い死にそうなほどの危ない目にもあったり合わされたりもするので決して内容的に明るい話ではないのだが、そこに、オカマのオリーブや、2作目で加わる謙二郎に出来た初めての友人たちの色々なエピソードで話の中に和みの部分が加わり 難さを緩和しているのだ。 母親に虐待された事で、女性恐怖症になってしまった謙二郎理由(わけ)ありの環境で育って来た者の持つ影や危うさと、それとはまた逆と言える負けん気の強さ、もろくもあり強くもあるそのアンバランスさがかえって謙二郎の魅力となり竜崎を魅了する。 預かった当初は何とか理性のしたに押しとどめていた思いを、解き放った竜崎が余裕の顔を見せながらもしだいに謙二郎に振り回されメロメロになっていく様子は読んでいて思わずニヤリとしてしまう。 作者様は以前この作品の同人誌のあとがきに、「竜崎が命を落とすところまで書いてみたい」と言われていた。 だからなのか竜崎は時々死を渇望しているような節も見受けられる。そんな竜崎を見ていると、彼ならばそれもありかなとなぜか思えてくるから不思議だ。ただそれが物語の中で万が一現実のものとなった時には、謙二郎の落胆振りは想像に耐え難いもがある。そう思うと出来るだけ実現しないでいて欲しいものだが、竜崎を愛し、また彼からも本気で愛された謙二郎ならば、きっと、その辛さを乗り越えてくれるだろうと今ならば思える。 その辛さを乗り越えた後の謙二郎は一回りも二回りも人として男として成長し磨きがかかっている事だろう、そんな謙二郎の姿をいつか何処かで見られれば、読者冥利に尽きると私は思っている。
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