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今は無きビブロスから出版されていた鳥人さんのこのコミックは、同人誌のゲスト原稿が最初だったらしい。実質作者さまにとって、デビュー作となる作品のようだ。 毎月数多くの出版社から数十冊の新刊が世に出るBL業界、出版されてから絶版になるまでのサイクルがとてつもなく早い。ビブロス時代のこのコミックスを私が、友人から借りて読んだときには出ている4冊ともすでに絶版の状態であった。 一冊目のコミックが出てから次が出るまでの期間が長かったりしたこともあって、連載が終了しない間に1冊目のコミックスが絶版になってしまい作者様が自ら同人誌と言う形で最初のコミックスを再度発行したと言う話も聞いたことがある、そんなことからもこの作品は作者様にとってかなり思い入れのあるものなのではないだろうか。 連載が始まってから最終的に終了するまでに8年、絵柄が最初と最後ではずいぶんと違うことからも、かけられた年数の長さと作品に込められた思いの深さが偲ばれる。 この作品が雑誌に掲載されていた当時、BL界では学園物が真っ盛りでハッピーエンドの明るい話が求められていたようだ。 そんな中、ドラッグや近親相姦、トラウマに幼児虐待。どう考えても重く暗い雰囲気の漂うこの作品はさぞかし描かれる方も肩身が狭かったことだろう。 実際、文庫化されたコミックスのあとがきには当時、出版社側から何度も終了させて欲しいとの催促があったと書かれていたりするのだから、尚更その気苦労が伺える。 作品の内容を簡単に触れておこう。カメラマンの喜瀬川 英(きせがわ えい)と彼のマネージメントを勤める佐伯徹。恋人同士の二人の出会いは、大学時代にカメラをやっていた喜瀬川が撮った佐伯の写真が雑誌に掲載されていたのを佐伯が目にしたことから始まる。 最初は佐伯の興味本位から始まった関係だが、付き合いが進むにつれお互い真剣なものへと変わってゆく、その中で次第に開かされる英の過去は佐伯が考えているものよりずっと複雑で深刻なもので佐伯は戸惑いつつも英を受け入れることを決意する。 最初は上手くいくだろうと思われていた二人の関係は付き合いが長くなるにつれ微妙な変化を見せ初める。 英の抱えるものの深刻さに気づきその重さに耐え切れなくなった佐伯と英の、別れ、再開、そして復縁まで。さまざまな羽陽曲折を得て、本当の意味でお互いをたった一人の相手だと確認しあったストーリーのラストシーンは今読んでもやはり泣けてくる。 カッコいい王子様がある日突然白馬に乗って現れるような夢のようなお話はこの物語のどこにも存在しない。 人を傷つけ、また自分も傷ついて、あがき苦しみ落ちるところまで落ちてしまっても、その中から自分の進んでいく道をどうにか見つけ出して這い上がりまた、自分の足で歩いていく、そんな泥臭くて人間らしい、深くて温かい人と人との係わり合いだ。 夢を見ることは出来ないかもしれないけれど、ここには彼らの真実の姿が描かれている。そんな魂の篭った作品は、だからこそ読む人を惹きつけて止まず、細く長く沢山の人の支持を得ることとなったのではないだろうか。 一度は絶版の憂き目にあったものの、こんな風にまた違う出版社から文庫版が出版され、新たな形でまた世に出てくることになったのもこの作品が愛されていた証拠ではないだろうか? オークションで高値がつき手が出せず買うのをあきらめていた私に、このコミックスをまた手にする機会を与えてくれた現在の出版社さまには深い感謝の気持ちを捧げたい。
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