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二木了は、プロの漫画家なのに生活能力が異常に低く赤ん坊なみに手のかかるマイナー作家。幼なじみの東海林に甘える姿はひな鳥のようで、腐女子の母性本能をくすぐります。 まだ恋心を自覚していないのに、最初から東海林に依存しまくっている二木が、かわいらしく、手がかかる二木を放っておけない東海林もこの生活に満足しています。 が、メジャー出版社での掲載から、大きく生活がかわり、二人の関係に変化が現れ話が大きく動き出します。 二木に、アシスタントがつき東海林の存在意義が揺らぎ、そして東海林も、アシスタントにそこまで甘やかして何もできない状態にして二木のためになるのかと指摘され、今まで甘やかしていたことが、自己満足でしかなかったのかと後悔します。 いつまでも自分がいなければ何もできないようにしたのは、二木に自分を頼って欲しいからだと気づく東海林。それは二木を誰にも渡したくないという気持ちの裏返しであると、はじめて二木への恋心を自覚します。 それまで、自然にできていた二木の世話に後ろめたさを感じ、手が出せなくなります。二木に与えていたすべてが後ろめたいことのような気がして、戸惑いを覚えます。 (ここからネタばれで) 東海林の動揺に気づかず、東海林を求め続ける二木に、背を向ける東海林。 どうせ一人では何もできないままだろうと、一人前になれば会いにくると別離を告げる東海林。 そして、一人前になれば、東海林が再び帰ってくると仕事を頑張る二木。 東海林のいなくなった部屋の前で、かりかりと東海林の部屋のドアをこする二木、二木を部屋に帰そうと電話をする東海林。 お互いがお互いを大切にしているのがわかるだけに、切ないシーンです。 母親を求めるように東海林を求めている二木と、その気持ちに答えることができないと一度は別れを決めた東海林ですが、東海林に会いたいと一生懸命頑張っている二木の姿に、東海林も胸を打たれます。読者も胸が熱くなり、頑張れとエールをおくりたくなります。 盗作事件で、バッシングを受けながらも自分には、マンガしかないからと自分の道を貫く二木がかっこいいです。生活能力の低い、不器用でへたれな二木が、男気あふれる力強さを見せ、展開の妙を見事に描いた榎田先生の文章のうまさにうならされます。 しかしラストで東海林を見つけ、がんばり続けていた二木が弱音をはきます。東海林がいないと生きていけないと泣き喚いてすがりつきます。自分の意志をはっきり告げることが苦手な二木の初めての慟哭に、物語はクライマックスを迎えます。 受動的だった二木が、自分から東海林を求めます。東海林もそれが二木の意志によるものだからと二木の側にいることを許すことができます。 打算も何もなく素直に全身で東海林を求めつづける二木と、全てを包み込むような東海林の愛があふれる作品は、読者の要望にて同じタイトルでコミカライズされ、ついにはドラマCDにまでなりました。 ドラマCDではイメージよりやや賢そうな声で二木の声を演じられた福山潤氏ですが、「東海林がいなけりゃ息ができない」と慟哭する迫真の演技は、二木の慟哭でありました。 小説から生まれたキャラクターが、コミックとドラマCDでさらに生き生きとした存在になるのは、読者にとって嬉しい限りです。
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