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2006年6月の雑誌「ダ・ヴィンチ」でBL芥川賞であると称され、BL愛好者のみならず一般の方にも読まれ、そのすばらしさが高く評価された作品です。 市役所職員の堂野崇文は、満員電車のなかで痴漢と間違われ、警察につかまり留置所に。無実を訴える続け拘留期限の二十日最終日に起訴されました。保釈を申請するも認められず有罪判決が出るまでの一年半を拘置所で過ごし、反省の色がないと裁判官の心証もわるく、初犯でありながら執行猶予もつかず、二年の実刑判決がおりてしまいます。 無実を訴え続けたために、実刑をうけ、家族につらい思いをさせる。何が正しくて、何が正しくないのか。嘘を言って罪を認めるべきだったのか、それでも自分は何もしていないと、堂野は慟哭し続けます。 (ここからネタバレあり) 刑務所の中では、罪を反省するどころか、犯罪歴の自慢をしあうような雰囲気に違和感を感じ、なじむことができず苦しみます。 正しいとおもって貫いた良心、それが一番大切にしている家族を傷つけ、罪を認めうまく立ち回れなかったことを馬鹿にされ、前半部分読者は、主人公といっしょに苦悩させられます。 しかも、そんな苦しさを理解してくれると思っていた同室者に、退所後も会おうと言って教えあった住所から、両親は詐欺に遭い大金をだまし取られてしまいます。 誰も信じられず、体調も崩し食事ものどを通らなくなった堂野に、「ありがとう」という言葉をいってほしい、という単純な理由から優しくしてくれる喜多川。 喜多川と親しくなるにつれ、彼がなぜそこまで感謝される言葉を欲しがるのかわかります。愛されることを知らなかった男が人から感謝され、その心地よさに堂野のことを好きになる過程は、せつなく胸をうちます。 母親に与えられるべき愛情を、刑務所の同室者からしか得られない、かわいそうな喜多川が哀れで不憫です。 堂野の出所日が近づくにつれ、いらいらし始める喜多川。引き離される不安感に暴力事件をおこし、独居房にいれられたまま堂野は退所の日をむかえてしまいます。一生喜多川を受け止められるのか、という同室者の言葉に迷ったまま退所してしまう堂野。 刑務所という密閉された生活の中では喜多川を受け入れられたが、外に出ても同じように喜多川を受け入れられるかわからない堂野の不安で「箱の中」は終わります。 普通の男であるが故に両親を安心させたい、普通である生活に戻って刑務所での異常な生活を忘れたいと思う堂野。喜多川を捨てるという罪悪感を感じながら、普通の生活を選んでしまった堂野の後悔の涙に、読者も胸を打たれます。 続編「脆弱な詐欺師」では、刑務所を出所後、母親をもとめる幼子のように堂野を探し続ける喜多川が描かれます。喜多川がかわいそうで、やっと堂野のいる居場所がわかったというところで話は終わりますが、読者も作中の友人の独白のように、今後堂野と喜多川がどうなるかわからないとしても、喜多川は一歩を踏み出すことができたと安堵させられます。
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