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「おカタい公務員が自分から腰くねらせて乱れちゃって」 みたいな台詞、BLではさかんに登場する。「いやらしいな」「とんだ淫乱だ」なんて台詞、あちらこちらに溢れてますよね。 でもこういう台詞って、実は受けのためにあるんだなぁと、深井さんの「オープンハウス」を読んで気がつかされた。 というのは、こういう台詞って、受けに対する賛辞なんだなぁ。男同士のセックスを描いているボーイズラブは、(根底に愛があるにせよ)快楽の原理で作られていて、そのなかでは、「いやらしく」「感じる」ことができることが重要である。「いやらしい」お前は、じゅうぶん俺を興奮させて、煽っている、立派な性的なパートナーだよ、という賛辞。いっけん侮蔑的にみえても、受けの淫乱さを指摘する台詞は、受けを褒めているのである。 でも、レディースコミック出身の深井さんの作品のなかでは、「おカタい公務員が自分から腰くねらせて乱れちゃって」というのは、完全に攻めのための台詞である。「あのおカタいあの子が、実はこんなにいやらしいなんて」というギャップ萌えは、あくまでも攻め(男性)の性的ファンタジーにすぎない。 だって実際、その言葉を聞いた受けは傷ついて、「だって…。仕方ないじゃないか…」と寂しさに身を震わせて泣くのである。その健気さに、攻めはキュンとくるのであって、「おカタい公務員」云々の台詞は、受けのためには存在してはいない。 考えてみれば現実の世界では、女性が「いやらしい」ことは、正面きって奨励されはしない。むしろ、侮蔑的な意味合いがある。レディコミの世界でもそれは同様で、「ああ、おかしい。感じてなんかいないはずなのに、いつの間にか感じているの、わたし」という心理的経路を必ず通過してから、女性が感じることになっている。 ときにはあっけらかんと、スポーツみたいにセックスを楽しむ女性が出てこないわけではないが、「淫乱だなぁ、あんた」と男にいわれても、「それがどうしたの。わたしは快楽に忠実にいたいのよ」とばかりに、無視するだけであり、それが賛辞として機能したりはしないのである。 深井さんがレディコミ出身だなと感心したのは、受けの身体の描き方もある。 深井さんは、受けの身体を中心において、舐めるように描く。攻めの顔はあまりみえず、受けの背後にいたり、背中をみせたりしていることも多い。ただ面白いのは、受けの身体を中心に据えたからといって、受けに感情移入するかといえば、そうとも限らないこと。攻めもまた、受けの身体を舐めるように見るから、物語によって、受けの視点をとったりすることもあれば、攻めの視点をとったりすることもある。ただ、どちらともつかない曖昧さは残すようなことはなく、誰かに同一化しながら、深井さんの提示する物語を読むことになる。 それにしても、深井さんのセックスシーンはどうしてこんなにエロティックなんだろう…。
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