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六青先生の近未来ファンタジーです。 女性ばかりが急死する謎のウィルスの存在や、海底の人工の居住区、特権階級だけが暮らす海上都市という近未来の背景を理解するまでややわかりづらいですが、それらのお約束をつかむと、ショアの切ない物語が見えてきます。 主人公ショアは、水腐病という女性ばかりが死滅するウィルスの完全免疫を持つただ一人の人間なので、製薬会社や、特権階級に彼を奪われないよう隔離されて育てられてきました。 しかし薬が大量生産できる目処がたったので、今度は不要となったショアの存在。 命の危機を感じて海上研究都市を逃げ出し、ショアはグレイを頼って海底都市にやってきます。 特権階級を憎む労働者たちのなかで、自分の出自を隠し、そこでの新しい生活になじもうと頑張るショアですが、養い親のエルリックが迎えに来たことから、ショアの立場が揺らぎます。 グレイにスパイではないかと疑われ孤立します。それでも、いい訳もせず誠実であろうとする主人公のいじらしさは、六青先生の書く小説に共通する主人公の強さです。 一見運命に翻弄され流されるだけの弱い主人公達のようですが、逆境のなかでも逃げ出さず運命の好転を待ち、身を潜めて堪え忍ぶ姿は、冬を越す小動物のようで弱い生き物のようです。 しかしそこはかとない力強さを感じさせられ、立ち向かっていく姿勢に読者は、魅力を感じるのかもしれません。 (このあとネタばれあり!) グレイとの誤解がとけたのは、シュアが旅立った後。 そして一番大切な存在がシュアである気づいたグレイがショアにわびることで話がおわります。 本来であればここでハッピーエンドで終わるはずなのですが、この作品には、もう一つ悲恋が隠されています。それが、養父エルリックの想いです。 うら若き研究員であるエルリックがショアを育てた15年間、その間シュアの存在がエルリックの中では大きく育っていたのです。権力を手に入れるために研究という武器で他者を排斥してきた孤独な研究員のエルリック。力を求め、のし上がってきた男の孤独を埋めてくれるショアの存在は大きいのですが、愛することが不器用な男は、ショアとのこじれた関係を修復する術を知りません。 エルリックの悲しみや孤独について、書き足りなかった感を作者も感じているのですが、本作品がショア視点で進行したので、エルリックについてページを割くことがかないませんでした。唯一文庫に収録された書き下ろし短編作品で写真を送りつけるという行為で、エルリックの悲しみを表現しています。グレイの元に去っていったシュアを忘れることができず、自分の想いをどうにかして伝えたかったエルリックは、自分が大切にしていたショアの写真をショアに送りつけるのです。 しかし、やはり作者もそれだけでは物足りなかったのでしょう。後日作者が「寄せては返す波のように」という同人誌を出版し、その中でシュアを忘れられず、苦悩するエルリックが描かれています。エルリックは寂しさや後悔を埋めることのできず、ショアに似た記憶障害のある少年を身代わりにします。 少年に記憶障害があるので、エルリックは彼にどんな感情をぶつけても彼は覚えていないからと、寂しさや後悔やショアへの想いを彼にぶつけるという卑怯なことをまたします。そこがシュアに逃げられたエルりックの敗因だということに気づいていない滑稽さですが、ラストで少年にわび少年からも愛されることで最期にエルリックの救いをみられて、作者といっしょに読者も本編の終結を感じることができます。
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