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■1坂の上の魔法使い(全3巻)/明治カナ子/H&Cコミックス 坂の上の家に住んでいる魔法使い・リー。仕えていた今は無きセロハン王国の王から託された子・ラベルと共に、リーは静かに暮らしていたのだが…。 舞台は中世ヨーロッパ的な雰囲気の異世界。そこでは魔法使いは存在を認められ、人と共存しています。でも、人とは違い、魔法使いの寿命はとても長い。リーは戦乱の中でセロハン王から預かった赤子を自分の腹に隠し、半世紀後、弟子として一緒に生活を始めます。魔法使いの修行中であるラベルはまだまだ力が弱く、人嫌いのリーと一緒に暮らしているために世間をあまり知りません。外の世界を知りたいラベルはふもとにある学校に通い始め、友人も出来、刺激を受けながら成長していく。一方、リーは過去に決着を付けるため、或る人物を探しているのですが…。BLというよりファンタジーの側面が強い作品ですが、愛憎も絡む読み応えのある内容になっています。 1巻で描かれているのは、主にラベルとリーの日常の中で起こる様々な出来事。リーはラベルにセロハン王を重ねている。でも、ラベルは似ている部分はあってもやっぱり別の人間で、リーはそれを寂しく思いながらも、ラベルを優しく見守っています。ラベルとの生活の中で、リーの王を慕う気持ちや、仲間を思う気持ちが垣間見えて、長い時間生きている中でリーが感じてきた想いが伝わってくるのがとても切ない。 2巻はリーとセロハン王のエピソード。王となる前、セロハン王国の王子として成長していく中で、王子は魔法使いがセロハン国の中でどんな存在なのかを知っていくことになります。魔法使いは王家にとって手駒のひとつであり、対等な関係ではありません。王子はリーに興味を持ち、近づこうとしますが、立場上それを受け入れる事が出来ないリーは、王子と距離を置こうとする。王子がリーに抱いていた想い、リーが王子に抱いていた想い、それぞれ複雑に絡み合って話が展開していきます。女王が亡くなり、王子が王となったセロハン王国は、周囲の国との争いや身内の不穏な動きに次第に追い詰められていくことに。ラベルがいる時間軸ではすでにセロハン王国は滅びているので、過去のエピソードがよい結果を招かない事は読み手には分かっています。報われない王とリーの想いに胸が痛みます。 そして最終巻では、ラベルと生活している現在の話の中にリーの過去の記憶が語られていて、ラベルとリーが何故一緒に暮らしているのか明らかになってきます。そんな中、ずっと探していたある人物が見つかり、リーは対決に向かう。これはラベルを守るため、亡くなった王子を弔うため、セロハン王国が滅んだ時からずっとリーに課せられていた使命みたいなもの。それを背負い続けてきたリーですが、ラベルとの生活でいつしか気持ちは変化しています。その変化が、これまでの話の中でそこかしこにちりばめられていて説得力がありました。ラベルに対する態度は端から見ると素っ気ないようにも感じるけれど、リーはラベルを大切に想ってきたのだなという事がどんどん見えてくる! リーと王の会話がすごくよかったです。 リーがやり残していた仕事をやり終え、話はラベルに戻って来ます。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、この事件の後のラベルの成長に胸がギュッとなります! BL本の満足度は、萌えとストーリーという二本柱だと考えています。キャラでもエロでも何かしら自分にとっての萌えがあれば、たとえストーリーが平凡でも作品を好きになる事は多々あるし、逆に萌えはなくてもストーリーが面白ければ好きになる事もある。この作品の場合、キャラクターも魅力的ですが、何と言っても純粋にストーリーが面白い。それぞれが抱える感情もじっくりと描かれているので、リーとセロハンの王との信頼関係や確執、愛憎、そしてリーとラベルの間にある家族愛でもあり恋愛でもある繋がりが伝わってくる。ラベルの成長物語でもありますね。魔法使いの設定や過去の出来事は重いですが、ラベルや使役たちは可愛くてほのぼのしています。このシリーズは明暗のバランスが良い塩梅でした。 ラベルとリー、そしてセロハン王の物語。読み返す度に新たな発見があり、じっくり楽しめる作品です。ファンタジーが好きな方はもちろん、読み応えのある作品を読みたい方にオススメします!
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