書店へ行ったときに、好みの設定や読んでみたいと興味を引かれる作品があまり無いと思っている人がいるなら、その理由はとても明確です。
「売れない設定だから出していない」
これに限ります。
商業で刊行するからにはたくさんの人に気に入ってもらえなければ意味がないので、より好まれるものを作る必要性が出てきます。
「面白い作品を刊行する」というよりは、「面白いと感じてもらうために好かれそうな作品にする」のです。
それを目指した結果、「できれば避けたい設定」として次のような項目ができてきました。
・バッドエンド
・ファンタジー
・時代物
・外国設定(メインキャラに日本人がいない)
・エッチシーンが無い
・血縁設定
・オッサン受け
避けられることが多いだけで、決してやってはいけないというわけではありません。
レーベルによっては問題ないものもあるので、それぞれで異なります。そしてそれがレーベルの個性に繋がっていきます。
ただ、これらの設定を楽しんで読める人はごく一部だけだと思われているので、たくさん刊行されることはありません。
売り上げ実績を確保したいと考えたときには、誰もが抵抗なく読める設定が好まれます。
「ボーイズラブ」と呼ばれ始めた頃くらいまでは、意味不明な設定の作品や絶望感や悲壮感しかない展開の作品も読んでいたような覚えがあるのですが、気がつけばほぼ絶滅していました。あの当時はそれなりに流行があったので、流れがいつの間にかハッピーエンドのラブコメ主流に移っていたように感じています。
しかし、近年は商業BLでの大きな流行も無く、読者の好みが細分化していることもあって、絶滅期に上がった設定へのハードルが、また下がっていると思います。
「好かれるようにしたところで、結果が伴うわけじゃないなら自由にやりたい」ということなのでしょう。
このように考えていても、もちろんすべての作家に自由な設定構成が許されるでわけはありません。
どういう作品を出しても売り上げが取れると分かっているか、変わった設定を作ることに定評があると編集部側が把握していれば却下されにくいと思います。作家やレーベルのイメージチェンジを考えているときにも通りやすくなるでしょう。
あとは、担当編集がその趣向を理解していることが前提です。
中には自分の好みを押し付けて「言うとおりにやってください」と言うタイプの編集もいるので、そこは運次第としか言えません。
それが当たるならいいですけど、強制しておいて外したときにはどうするんでしょうね……。
こんな感じで簡単な「縛り」のようなものが商業BLにはあります。
レーベルの傾向による違い以外に、漫画と小説でもその中身は異なります。そもそも性質が違うので当然です。
個人的には漫画のほうが自由度が高い印象です。多少の無茶や遊びは許容範囲内といった感じでしょうか。
小説の場合は「全編攻め視点はやめてほしい」とか「エッチシーンは○回以上入れる」などの要素が加わるレーベルもあります。
数年前よりは決まりごととしての効力が薄れている気もしますが、漫画より頑なであることに変わりはないと思います。
確かに200ページ読むのに好みではない設定では厳しいものがあるので、より作品に安心感を求めてしまうのかもしれません。
それだけでなく、漫画と小説の違いは読者の年齢層や書籍刊行までの過程などがあります。
読者の平均年齢には約10歳は開きがあると考えられています。10歳も差があると好むものにも違いが出てきます。そうなると対象を絞りすぎた場合に片方には受け入れられても、もう片方の趣味とは噛み合わなくなります。
さらに、漫画はまず誌面に掲載するのに対し、ほとんどの小説が1冊分を書き下ろしなので、刊行への判断が厳しいと言われる現状では大きな勝負に出にくいと考えられます。
逆に漫画で小説と同じだけエピソードやストーリーを掘り下げるためには、連載にならないと厳しいので、それはそれで難しいこともあります。
漫画にできて小説にできないことがあり、小説にできて漫画にできないことはひっそりと区別されています。
ただ、結局は売れ行き次第です。
これまでは避けられていたような設定や展開の作品に人気が出れば、その勢いに便乗しようとよく似た系統の作品が増えます。
男性向けラノベのように堂々と二番煎じをやれば面白いですが、「パクリ」と言われては大変なので、あからさまにならないよう匙加減をしつつしれっとした顔で乗っかります。
それが増えていくと、マイナーだったものもメジャーに転向していきます。
こうして設定のパターンが増えていき、定番に浸透していくのが最近の特徴と言えます。
それでも鉄板王道に敵うはずは無く、全体的に売り上げが地を這っていると言われている現状で、できれば手堅くみんなに好かれるものを出していきたいという考えは当然でしょう。
これまでにも「受けは初物でなければ」とか「30歳を過ぎたらオッサン」と言われていたことがあるので、今は避けられている設定もいつか普通になる日が来るのかもしれません。
しかし、こういうことを考えながら書店に行くと、とても楽しくないです。
コラムを書くようになって、改めて市場調査も兼ねて売り場を見るようになりましたが、変に知っている事実があるだけに複雑な気持ちになります。
それでもあえて書くのは、読者が何を考えて本を選んでいるのか知りたいからです。
自分が一読み手に戻った今、的はずれなことをされているような気がしてしまうのは、好みが偏っているからなのか。それとも他に同じことを感じている人がいるのかを純粋に知りたいのです。
友人に意見を訊いても、自分と感覚が似ているから友人なのであって、あまり参考にはならないと感じています。
とことん追求してみたいので、思うところがある人は教えてください。
ご意見・ご感想はコメント欄かツイッターアカウント@misaki_dxまでお寄せ下さい。