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この作品との初めての出会いは確か私がまだ高校2年生のころだったと記憶している。 連載が週刊少女コミックスと言う雑誌で始まったのがそれより若干遡る昭和54.年。当時は今のようなBL的な作品の市場流出は皆無だったに等しい。事実、同性愛を扱ったこれらストーリーは著者がまだ新人だったころには、出版社にプロットを持ち込んだ段階で全てボツにされてしまったようだ。 本当に描きたいものを描くためには、まず自分自身が何を描いても出版社側に有無を言わせぬほどの実力をつける必要がある。そう考えた著者はヒット作を生み出すために奮起したのだと最近何かで語っていた。そうして生まれたのがおそらく竹宮作品の代表作でもある「ファラオの墓」であり「地球へ…」なのではないだろうか。 そういう視点から見てもこの作品は作者にとってもかなり思い入れのある作品ではないかとうかがい知れる。 作品の時代背景は身分制度などによる差別や偏見が色濃く残るフランス、子爵の地位にありながら娼婦と恋に落ちた父親と、ジプシーだった母親の血を受け継ぎ、褐色の肌を持つセルジュという少年が、亡くなった父親の母校である田舎町の寄宿学校に入るところから話は始まる。 彼は用務員に連れられ挨拶に行った院長室で一人の少年と出会った。名をジルベール・コクトー。 透けるように白い肌、紅を描いたような唇、それはさながら少女の面差し…不思議な色香を放つ彼は学校内でも悪しき噂が飛びかう問題児。 前向きで真面目を絵に描いたような芯の強いセルジュと、儚げな印象とは裏腹に、数多くの浮名をもち人を食ったようなところのある子悪魔ジルベール。互いの肌の色のごとく何もかも対照的な二人はそれゆえ反発しながらも強烈に惹かれあった。登場人物たちのそれぞれの思惑が複雑に交錯する壮大な愛憎劇の幕開けだ。 物語は回が進むごとに複雑になっていく、許されぬ恋に落ち爵位も家も捨てて駆け落ちした両親を持つセルジュの生い立ち。そして、それ以上に複雑な事情を持ったジルベールの生い立ち。同性愛的内容というだけでなく、時には虐待や陵辱、強姦や近親相姦。かなりオブラートに包んだ表現ではあるものの、それなりの描写ももちろんある。昨今のボーイズラブ界においては当然のごとく出てくるそんなシーンも、男女間の恋愛が普通であった当時の少女マンガ界にあってはありえない事だった。 冒頭から男同士がベッドの上で裸で睦み合っているこの作品の内容が当時どれだけ読者の度肝を抜いただろうか?そんな沢山のタブーをふんだんに盛り込んだ、年端も行かぬ少年たちの許されぬ恋の物語はどこか排他的な香りを漂わせ、とてつもなく斬新で新鮮に写ったに違いない。 内容が内容ゆえにおそらく親に見つかれば捨ててしまわれるだろうこのコミックを、まるで性に芽生えたばかりの少年がエロ本の隠し場所に四苦八苦するのと同じように、どこにどうやって隠しておくかをいつも考えながら親の目を盗んではドキドキしながら読んでいたのを覚えている。 お互いを片羽とさえ思うほどに求め合い、迷宮に嵌まり込んだ二人の恋の物語はどんな結末を迎えたのか?それは読んだものにしか判らない。 この作品を手にした後、私が同じジャンルの本をそれからも買いあさったかと言うとそうでも無く、その後はまた普通の少女マンガの世界に戻った。しかし数年の時をへて今こんな風にここでコラムを書いていたりするのだから当時から十分腐女の素質はあったのだろう。 色褪せてしまった表紙だけではなく、中の紙さえも茶色く変わってしまったこの古い本は、今でも押入れの中に人の目を盗むようにひっそりとしまってある。結婚をし母になってさえ、ページをめくればあの頃の気持ちがまざまざと蘇る、輝かしい青春の時……。そんな恥ずかしくも懐かしい作品なのだ。
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