出版社にいるといろいろな人と話すのですが、いかに自分が他人に言い難い黒歴史を築いてきたのか、と気づかされることが多々あります。
そのなかでも特にマズいのが貢ぎ癖……。
小さなライブハウスや劇場がメインフィールドのマイナー人ばかりを探して、そのようなことを繰り返していました。
今は歳をとって貢ぎ行為をする気力はなくなりましたが、本を買うこともそれに近い感覚かもなぁ、なんてふと思ったのです。
というわけで今回は、お金とそれにかかわる部数に焦点を当てます。
前回「BLの骨組み」について書くと前フリしましたが、他ジャンルとそんなに差異もないため、もっと読者が身近に捉えやすいテーマにしようということで矛先を変えてみました。
BLだけの話ということではなく、商業で本を出版するときのほとんどに当てはまると思います。
まずは、お金の話から。
みなさんご存知かと思いますが、雑誌掲載の場合はコミックにしろ小説にしろ原稿料が発生します。
マンガならカラー原稿1枚がいくらで、モノクロ原稿だったら1枚いくらというのが各作家ごとに決まっています。小説も1ページごとや文字数で値段が決まっているのがだいたいです。
もちろん版元ごとに値段は変わりますし、ジャンル・キャリア・実績などでも異なります。新人が最低ラインでスタートして、成果が伴ってくれば金額が上がっていくことになります。
これが1冊の書籍として出版される場合は、原稿料ではなく印税が支払われます。
「印税」という言葉は知られていますが、どんな仕組みなのかあやふやな人も多いのではないでしょうか。
印税とは主に音楽業界や出版業界で使われる、著作者に対しての権利使用料です。
一番有名な例は、カラオケで1回歌うといくらかが作曲担当者と作詞担当者に入るというものですね。
書籍出版の場合は定価に「印刷した部数」をかけて、そこから印税分の金額を版元が著作者に支払うのが主流です。
最近は売り上げが落ちてきていることもあって「印刷した部数」ではなく「実売部数」で算出する版元も増えていますが、ここでは2012年現在のBL業界における一般的な計算例を挙げてみます。
500円の本を1000部刷るときに著作権者への印税が10%だった場合、
500×1000×0.1=50000
ということで、印税は50,000円です。
実際、こんなに少ない部数で刷ることはありませんが、こういう計算で作家に対してお金が発生しています。
一応、印税のパーセンテージに規定はありません。版元との契約次第です。それでも上限は10%くらいが普通です。
原稿料が1回のみの使用料なのに対し、印税は契約が失効しない限り印刷するたびに発生します。この流れに上手く乗れれば、夢の印税生活です。
次に部数についてです。
この数字が大きくなれば印税の額も増えてくるので重要です。
(定価が上がっても印税は多くなりますが、定価はジャンルの相場やコストで決まるのでここでは割愛します)
部数は刊行する書籍ごとに決めます。
まずは販売を担当する部署を中心に、書店からの注文数やその作家の過去の販売実績などを踏まえた初版部数を決定します。
部数を低めにしても微妙なときは、損益のバランスをとるために印税のパーセンテージも下がります。
手堅く損をしないことが最優先です。最近は特にその傾向が強いので、初版部数は下降傾向と言われています。
それでも初版分が調子よく売れていって、「これは在庫が切れてしまうな」と判断すれば重版します。ただ、小さな部数で印刷をかけるわけではないので、長い目で見ても売れ続ける見通しが立たなければ重版はしません。
なので「在庫が無いなら刷ってよ!」と言っても、会社が「NO!」と言えばそれまでです。
たくさん印刷しても在庫を抱えてしまえば赤字です。企業としてそんな判断をするわけがありません。
よって重版がかかるとちょっとしたお祭りになって、帯や広告に載せて人気作であることをアピールするわけです。
部数が増えれば人気作ということで書店での在庫を充実させてもらえたり、置いてくれる書店が増えることもあります。
つまり、部数からは「作家の人気度」「版元からの作品に対する評価」「市場の大きさ・熱量」などが読み取れることになります。
実際に版元で働いて初めて「ちゃんと本を買うって大事なんだな」と実感しました。
まざまざと在庫数などを見せられて怖くなったのもありますが……。
本を購入する際にブッ○オフ等の古書店を利用している人もいると思いますが、正規の流通ルート(版元⇔取次⇔書店/版元⇔書店)ではないのでそういう店で買っても儲かるのは店側だけです。作家にも版元にもどこにも反映されません。
たまに作家への手紙で「ブッ○オフで買いました!」と堂々と書いている人がいますが、失礼にあたるのでやめましょう。どんなに「面白かったです」と書いても、それに対しての正しい対価を払っていなければ売上数にも含まれないので、ありがたみは激減です。
(もし古本を買っていたとしてもおおっぴらに言わないほうがいいです)
つまり、正しく本を買って実売数に貢献することに大きな意味があるのです。
1冊買うだけでも十分ですが、気に入った作家や作品を人に勧める際は布教用に買ったものをあげるくらいじゃないといけないな思い、最近では複数買い計画を実行しています。
あ、これは某アイドルグループのファンと同じ考え方かも……?
でもそれが結果的にブームになって巨万の富を動かしているわけだから、あながち間違ってないかもしれないですね。
ただ、貢ぎとか尽くす行為は結局自己満足の世界だと思うので、間違っても相手に見返りを求めたり恩着せがましく押し付けたりしてはいけないと思っています。
(見返り欲しさにやっている人もいますが、それで思い上がるとだいたい痛い目に遭う鉄則)
あと、常に金欠に見舞われる覚悟をしておくことも大切です。
すべてを自覚したうえで買い物を楽しむのは自由だと思うので、尽くしたい型の性格の人はぜひ意識しながら本を買ってみてはどうでしょう?
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