どうも、みなさま。初めまして。
BL業界の隅で地味に生息している人間が、このたびコラムを書かせていただけることになりました。
この閉塞感に満ちた状況になにか一石を投じることはできないか、と日々荒ぶっていたところ、太っ腹なちるちるさんが「お前の戯れ言を主張させてやるよ」と言ってくださいました。いやぁ~、ありがたい。
ただ、意気込んで主張したいことを書きたい放題したら、すでに一回イエローカード出されたんですけどね。BL界のデラックスな女装家的存在になりたかったのに……。
そんなこんなで、業界のアレコレを語りつつ、みなさんの知りたいことについて答えていきたいなと考えています。
これまではあまり赤裸々にBL業界の内部を明らかにする人もいなかったなぁと思うので(作家がエピソードを挙げるのは見かけますが)、掟破りに挑戦です!
さて、BL業界は言わずもがな女だらけの世界です。
作家も女性、編集もほとんど女性(稀に男性もいますが)、読者も大多数が女性。女だらけの世界とは怖いですからね。BL業界だっていろいろな噂が蔓延しています。特に作家・編集間に流れる情報は、愉快なほどの速さで駆け巡っていたり……。
よくあることですが、ちょっとした内容も1周して自分に戻ってくる頃には尾ひれやら何やらが付きすぎて、大げさになっていたり、全く違う話になっていたりするものです。
それが、仕事に直結する可能性もあるので、少し聞きかじった程度のことでも一生懸命情報収集する場合も少なからずあります。どこかでレーベルが立ち上がるとか無くなるという話に始まり、下世話なものになると「どこそこの担当はやりにくい」「○○は条件が悪い」なんていうものまであります。
そういう不確かな情報なんか全く気にしない、もしくは耳に入ってこない環境の人もいるので、一概にすべての関係者がそうだとは限りませんが、結構気にしている人は多いものです。
女性は得てして噂好きという、ということですね。
というわけで、今回はそんな業界の中心に身を置く「作家と編集の関係」について触れてみたいと思います。
作家も編集も人間ですから、「合う・合わない」というものがありします。
人間性が合えば仕事はスムーズですし、合わないなら合わないなりの進め方があります。
それでもすれ違いが起きることは日常茶飯事だと思っていなければいけません。
作家側からすれば仕事をしにくい編集なんかとずっと付き合い続けるのは苦痛でしょうし、相性のいい編集のいる版元だけと仕事をすることもあるでしょう。編集だって作家がいなければ仕事にならないわけですから、どんな相手だろうと丁寧に、真摯に接する必要性があります。
できるかできないかで言うと、たぶんできていない気がすることも多々あります。
そこで、とことんビジネスライクに対応をすればすれ違いは起きにくいかも、と考えましたが、「あまりに事務的な対応の担当だと、人柄がわからなくて信用できない」と作家が言っていた話を思い出してました。
しかし、がっつり深く接しすぎると、それはそれで厄介だったりします。友達ではないのですが、趣味や好みが似ていたりすると、その境目が曖昧になっていくのです。お互いにそれでなぁなぁに仕事をしてしまう、さらにはどちらかが依存体質だったりした日には最悪です。
編集が作家に依存(執着)するパターンも、作家が編集に依存するパターンも見たことがあります。
どちらも結構しんどいです。大抵、周囲の人間もとばっちりを食うので、本気で近寄りたくない。「マジ、勘弁してくれよ……」という感じです。
商業BLでこういう現象になる理由のひとつに「専属契約を交わさない」という体質がある気がします。
結婚に例えると分かりやすいかもしれません。署名・捺印をして契約を交わすことで、公的に特別な人物と位置づけることができますからね。その代わりその契約を自己都合で破棄をして自由になるのも、離婚と同様に面倒でしょう。
BLに限らず、作家がフリーランスで仕事をしている状態は珍しくないですが、もともと口約束だけですべてがまかり通っていたかつての習性がそのまま強く残っているので、単行本の出版関連時以外では特に契約書は交わしません。
(昔はそれさえも無かったのですから、怖い話です。いまだに無いところもあるようですが……)
自由の身であるということは、公的な契約が存在していないわけですから、名誉棄損やら傷害事件やらにならない限りは、何股をかけようが自由です。みんなに承知の上で複数の恋人がいるような感じに一番近い気がします。
不景気な世の中ですから、安定している版元や売れる作家とは長く付き合いたい。
モテる男に女が群がるのと一緒です。その人に特別扱いされたくて、できれば一番になりたいと望んでしまいます。
そうなると編集の場合は、「囲い込み」という手を使う人間が出てきます。
極端な例を挙げるなら目ぼしい作家に対して「うち以外ではあまり仕事を入れないで」とか「他社から依頼があったら返事する前に報告してください」 なんて言うわけです。
別に強制力はないので、それに従うかどうするか、決めるのは作家です。ただ、それを言った瞬間に機嫌を損ねる作家もいるので、禁じ手に近いと思います。
すでに数社で仕事をしていて売れている作家に対しては、囲い込みなんて方法は使えませんが、自社にスケジュールをたくさん入れてほしいので、印象を良くするためにより手厚くもてなして気分良く仕事していただこうと必死になることもあります。
大手の取引先を大事にするのは社会人として自然なことだと思うので、仕事の域を出ないなら何の問題もないですが、変にこじらせる人がこれにより発生します。
「この作家さえいれば……!」というように思いこむパターンも見たことがありますが、よほど売れ方が高めで安定している作家でない場合は不安要素でしかないと思っています。時には他の担当作家にそれがバレてしまうこともあるので、そこで事が大きくなってしまっては元も子もありません。「○○の編集は、対応がずさんだ」という話が噂になって広がることだって考えられます。そして回りまわって、編集部の他の人間がとばっちりと食うという……。
ひとまず人の振り見てわが振りを直しながら、巻き込まれないようにしておきたいものです。
作家側で編集に依存する人は、丁寧に対応してもらえるのをいいことに担当にべったりと圧し掛かってくるパターンが多いような気がします。
昔、まだまだ私がペーペーだった頃に、携帯電話の機種変更をしたらしい作家が、使い方を聞くために担当に電話をしてきたのを見たことがあります。別に同じ機種を使っていたわけではなかったようなのに、そんなことまでフォローしなければいけないのか、と度肝を抜かれたものです。
自社の仕事に対してはどこまでも付き合うつもりでも、「その修正はどうしたらいいですか?」「どうやって直すんですか?」など一から十まで指示を求められると「少しは自分で考えたらどうだろう? 自分の作品でしょ?」と言いたくなります。
あとは、「あなたしかいないの!」的な感じで寄りかかってくるパターンもあります。
「他も見てみたら楽しいことあるかもよ?」と何かに分担したくなります。
編集が担当している作家の人数は平均して30~40人はいると思います。その中にも常に稼働している作家、たまにしか仕事をしない人、単純に窓口としてだけ、など位置づけは様々です。作家にとっての担当編集は各社1人ですが、編集にとっての作家の人数は多いので、全員に同じ比重で対応していくことは難しいでしょう。
そこへ「目をかけてくれ」という無言の圧力をかけられると、「あぁ~……」と言って項垂れたくなります。
応え続ける根性がないだけかもしれませんが、ビジネスである以上、依存は良くないなと思いますね。
最近のCMで「いい恋愛といいフライパンは似ている」というようなキャッチコピーがありましたが、作家と編集も「いい恋愛」くらいの距離感がベストだと思います。相手によりけりで、束縛されたい人もいれば、ドライな関係がいい人もいますが、お互いにとってのいい距離感を掴んでさえしまえば、付き合い自体は楽なもんです。
大多数の方はそれを上手く見つけているから、仕事が回ってみなさんの手元に作品として届いています。
作家と編集という近接型の仕事をしていると、稀に困った人もいるんだよ、という話でした。
世の中に発表されている作品の裏には、このように設定やストーリー以外のいろんなものが詰まっています。
このコラムでは、BL業界の裏に潜んでいるものをざっくりとお見せできればと思っていますので、みなさんが普段気になっていることがありましたらお聞かせくださいね。
いただいた内容をテーマにコラムを書きます。
(特定の作家・レーベルについて、名称を出すことはさすがに無理ですのでご了承ください)
記事の下部についているコメント欄と、私のツイッターアカウント@misaki_dxがございますので、そこにお寄せいただけますとありがたいです。
とりあえず次回は「BL書籍出版の骨組み」を書きたい予定です。
それでは、また次回お会いしましょう。