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■他人じゃないけれど/樋口美沙緒/穂波ゆきね/Chara文庫 画家であった篤史の父は、篤史が7歳の時病気で他界。 父子家庭であったため施設に入ることになりそうだった篤史を、父と画の仲間であった久代が引き取り、それ以来篤史は久代と息子の忍と3人で暮らしてきた。 忍は社会人になってからは家に帰る時間が遅くなり、画を描くために自分の世界に入ってしまいがちな久代の心配をしながら、高校生になった篤史は家事をひとりでこなしている。 家族のように暮らしていても久代に対して遠慮のある篤史だったが、それは久代に抱いている想いも大きく関係していた。 忍には気付かれているかもしれないと感じながらも、3人での暮らしを壊したくないと必死にその想いを隠してきた篤史。 しかしある日、酔っぱらった忍に襲われてしまったことで、関係が大きく変わってしまい…。 というホームドラマBLです。 家族のような関係だけれど、篤史はまだ渡会父子にどこか遠慮がち。 血の繋がりがないのだからという理由もありますが、篤史が久代に想いを寄せていて、それを知られてはいけないと思っているから余計に本音でぶつかれないという部分が大きいです。 大切で壊したくないからこそ、本心を見せられない。 そんな日々は、忍と身体の関係を持ってしまった事で一変します。 忍に恋人と間違われてセックスしてしまったというショックと、隠していた久代への想いを忍に気付かれていたというショック。 以前から忍に家族として受け入れられていないと感じていた篤史は、益々忍への態度を硬化させ、忍もそんな篤史にきつい言葉をぶつけてしまいます。 明るい性格で、必要以上に卑屈になるわけではないけれど、篤史は渡会父子に対して自分が負担になっているのではないかと不安を常に感じている。 篤史が久代に向けている想いはそれが恋愛感情でなくても大きいので、忍に対する気持ちを自覚するまでに少し時間がかかってしまうのは仕方がない。 でも、意外にも一筋縄でいかなかったのは忍の方でした。 篤史への態度の裏には、そうしないと抑えられないくらいの恋愛感情があります。 隠しておくべき感情だと考えるのは分かるけれど、忍は態度が極端すぎて、逆に誤解されて傷つけてしまっている…。 大切にしすぎて本末転倒ですよ! 忍…最初はクールな二枚目だと思っていたのに、知れば知るほどヘタレで不器用で、化けの皮を剥がしてみたら篤史も吃驚のダメな男でした。 そのおかげで一気に身近に感じられましたが(笑) そんな忍に気持ちも身体も振り回されながら、篤史は次第に自分の気持ちや、自分の周囲の人たちの想いを理解していきます。 なかなか噛み合わずドタバタしていますが、軸となる心理描写がしっかり組み込まれているので心を掴まれました。 樋口先生の新刊は、個性的な設定だった今までの作品と比べると、とてもノーマルな設定。 登場人物たちの抱えている想いがしっかり伝わってくるし、それ故に不器用になってしまうところにも共感出来るので、気持ちが通じ合うまでが遠回りになってもちゃんと納得出来ます。 自分の気持ちがうまく伝えられなかったり、相手の気持ちが分からず苦しんだり。 恋愛では当たり前のことだけれど、そこが読んでいて理解できるかどうかで読後感がかなり違ってきますよね。 センチメンタルな部分と、ふっと心が緩む部分が良い塩梅で組み込まれていてとても面白かった! 穂波先生の描く篤史と忍もピッタリでした! ■追憶の庭/栗城偲/梨とりこ/GUSH文庫 家族と折り合いが悪く、付き合いの途絶えていた祖父・渡貫慶春の葬式の喪主を務めたのは、血縁関係の全くない閑野だった。 そこで初めて祖父の存在や、祖父が高名な画家であったことを知った大和。 行方の分からなくなっている人物画を探して欲しいと依頼された大和は、祖父の亡き後家を管理している閑野の元を訪れる。 しかし訪れた祖父の家は雑然としていて、大和は画を探す傍ら、家の清掃や閑野の生活の世話をすることに。 次第に大和の中で閑野の存在が大きくなっていくが、閑野が祖父の愛人だったのではないかという疑問が大和を苛立たせ…。 血縁関係もない、年の離れた閑野がどうして祖父の近くにいるのか。 祖父について何も話そうとしない両親たちの態度もおかしい。 大和は疑問を抱きつつ、家に残る慶春の想いや、閑野の慶春に対する想いに触れたことで、祖父や閑野について知りたいと思うようになります。 どこか危うい雰囲気の閑野への興味は次第に熱を帯びるようになり、慶春との関係にモヤモヤとした感情が募っていく。 好きになった人は、亡くなった大切な人を忘れられなくて…という話です。 恋敵が既に亡くなっていて、しかも祖父。 相手は相当難敵でした。 閑野と慶春の関係の背景には切ない過去があります。 特別な想いを抱いていた慶春が亡くなり、閑野は立ち直れないでいる。 そうした中で、最初は心に余裕もなく、大和に対して距離を置いていた閑野が、次第に大和を見るようになっていく過程がとてもよかった。 行き場をなくしていた閑野の想いが、大和に手を引かれたことで前に進んでいる。 大和が過去も含め閑野を受けとめようとする姿勢にも好感が持てます。 大和の思い込みというオチではなく、慶春の過去を含め納得のいく背景があったので、すんなりと話を受け入れる事ができました。 後日談もよかった! 鼎山という猫が登場するのですが、この猫がまたいい味出しているのです。 名前のエピソードにグッときました。 ということで、栗城先生の新刊は静かな色気の漂う未亡人ものでした! (実際には未亡人かどうかはおいといて) 和の雰囲気が色気を際立っていますね。 そして、梨先生の描く儚げな閑野に心奪われます。 しっとりしつつも重くなりすぎず、淡い切なさが心に残る作品でした。
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