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「エス」シリーズは、「エス」「咬痕」「裂罅」「残光」の4冊で構成されています。 ヤクザものというより、警察ものかもしれません。 主人公椎葉昌紀は、警視庁組織犯罪対策第五課、通称「組対5課」の刑事です。拳銃の密売情報を得るためエス(スパイ)と呼ばれる協力者を使った情報収集活動を行うという、今までにない本格的な刑事の話です。 シリアスで、ハードボイルドな内容にぴったりマッチした奈良千春先生の緊迫感と色気のあふれる表紙が一冊目発売より話題になり、エスシリーズは一気に人気がでました。 緻密な警察機構とエス工作といわれる、スパイをつかっての諜報活動。耳新しいこの世界観も、ハードボイルドとボーイズラブとの融合という目新しさが手伝い、読者の心を掴みました。 どうしてもBLというと恋愛中心で、ふわふわした感がありますが、エスは、きちんとした警察機構をもってくることで、リアルな人間関係が表現され、より魅力的に仕上がっています。 身に危険がありながらも、椎葉に情報をよこす宗近圭吾にたいして、一人の人間とし強く惹かれていくものがありながら、刑事という立場上、宗近をエスとして扱うという、刑事の矜持に挟まれた椎葉のジレンマが、全編にわたって描かれます。 刑事であり、宗近をエスとして使う以上は、決して宗近を愛さないという椎葉の誓いは、椎葉の生真面目すぎる性格をよく表しており、読者をじれさせます。 エスをつかっての拳銃押収という仕事の他に、姉を殺害された真相を暴きたいというもう一つの目的もあり、それがもう一つの話の軸になっています。 そして、宗近の過去、ヤクザ組織での力関係、しがらみ、姉の殺人犯を追いつめていく事件模様が、複雑に絡み合い、緊迫感が維持されたまま、読み応えのあるシリーズに仕上がっています。 (ここからネタバレあり) 犯人だと疑っている五堂や、宗近の義弟の東明など、一癖も二癖もある魅力的なキャラクターが椎葉たちを取り巻き、それも魅力となっています。 各巻に出てくる人物が、事件にからみながらその都度椎葉の刑事としての決意を試してくるので、椎葉は揺れ動く自分に劣等感を感じながらも、宗近の手を放したくない決意も固めていきます。 最終巻では、宗近を助けるために刑事を辞め、宗近と別れる言葉を伝えます。そうまでして宗近を守ろうとするその姿に読者も胸をうたれます。 大人の宗近が、そんな椎葉に、エスと刑事の関係以上に結びついていることを認めるように詰め寄り、やっと椎葉も素直に自分の気持ちを認めます。そして、エスを解消し、新しい関係を築き始めます。 椎葉と宗近の心情の変化を楽しみながら、四冊を一気に読むことをおすすめ致します。
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