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榎田尤利さんにはぜひとも、私の人生に対する責任を取っていただきたい! 普通の女子だった私が今脇目もふらず「腐」への階段を駆け降りている原因の一端は、確実にこの方が担っているから。 階段は現在もにょきにょき伸び続け、今や底が見えないほどの深みにまで達している。 そんな私の「腐への階段」は沢山の作家さん方が日々コツコツと萌えの釘を打って造ってくださっているのだけれど、榎田尤利という人は間違いなく、土台・骨組みを造ったばかりかご丁寧にも一段一段コンクリで塗り固めてくれちゃった、階段工事最重要人物の中の一人だ。 そして、極力「普通の女子」から脱落せずにすむようボチボチマイペースに階段を降りる私は、いつだって榎田作品を読むたびに、5~6段飛ばしくらいの勢いで転がり落ちて「腐」の底なし沼にズブズブ沈んでしまいそうになるのだ。 二度と浮き上がれなかったらどうしてくれるんだ! とはいえ、「腐」の沼にはまることを恐れて榎田作品を手放す気には毛頭なれないのだけれど。 だって本当に、榎田作品は素晴らしいのだ! 言葉の持つ「力」や「色」が、どんな作品でも必ず榎田尤利の世界に私を引き込んでくれるのだ。 特に「交渉人シリーズ」や「ラブ&トラストシリーズ」などのようなエンタメ要素満載の作品は秀逸だ。 そのスピード感にドキドキし、次から次に繰り出される新展開にワクワクし、濃厚なエロにはわぁ~となる。生き生きと動き回るキャラたちに私もすっかり翻弄されて、気付けばガッツリ最前列かぶりつきで映画を観ている観客のような気分になれるのだ。 最後まで見終わっても、エンドロールが流れる劇場で呆然と余韻に浸りたいような気分になる。劇場に明かりが点いてぱっと現実に戻った途端、今度は少しでも早く誰かと語り合いたいような、誰かに自慢したいような、そんな気持ちにさせられる。 そしてそのうち、中毒のようにもう一度観たくなるのだ。 ただし、榎田作品はシリーズものも多いから要注意!うっかり再読を始めようものなら最後、2日間は引きこもり決定だ。 周りから見れば本当に廃人寸前の駄目な大人だろうが、残念ながら私は幸せだ。引きこもり中の私は、確実に榎田作品の世界の中で、とても人間らしい生活を体験しているのだ。 そんな風に私が感じるのは、榎田作品がそれだけ「人の生活」を当たり前の光景として描いているからだと思う。 榎田作品には本当に様々な職業や境遇の人が登場する。 ヤクザ、交渉屋、漫画家、ホスト、自動車販売員、弁護士、吸血鬼、ペット(!)、配達屋、大学院生、歯医者、サラリーマン、執事、不動産屋、etc……。 ほとんどの仕事が私には経験がなく、ましてや吸血鬼になんてなったこともなければペットになりたいとも思わない。ヤクザなんて出来ればお近づきになりたくないし、交渉屋なんてもっと胡散臭くてごめんだ。 なのに、榎田作品に登場する彼らは魅力的で、不思議なことにとても身近に感じられるのだ。 なじみのない職業の人や、お近づきになりたくないタイプの方々が、私となにも変わらない日常を営み、食べたり喋ったり、人と触れ合ったり、凹んだり、怒ったり怒られたり、悩んだり立ち直ったりする。ちゃんと自分の仕事をして、社会というサイクルの中で一個人としての生活を営んでいる。 中でも一番リアルに感じられるのが、他人との距離のとり方や温度だ。 何せ榎田作品は「日常」を飾らず見せてくれるから、やはり脇の登場人物も多い。 ガッツリ信頼できる仲間。敵役。ライバル。単なる友達。超嫌な奴。そんな彼らとの距離感が、とてもリアルなのだ。 ライバルはやっぱり嫌な奴だし、仲間だからといって必要以上にベタベタした友情を掲げたりクサイ台詞で信頼をアピールしたりはしない。 そして、そんな沢山の人間関係の中で主人公が誰かに特別な感情を抱いたとき、気付くとやっぱり私も同じように惚れているのだ。 BLだから、もちろんラブがあるしエロもある。けれど、榎田作品はそれを主軸には持ってこない。 あくまで日常を描き、彼らは積み重ねる日常の中で生活の一部として恋をして、気持ちを育んでいく。決して恋愛だけに走らず、あくまでも生活の中で、だ。そこがイイ。 だから私も同じ温度で、仕事の心配をし、展開にハラハラし、登場人物に惚れる。「萌える」というよりも、「惚れる」のだ。登場人物たちと同じ気持ちで。 彼らが単なる「キャラクター」ではなく、作品の中にしっかり息づいている「魅力的な男」だからだ。 ヤクザだって嫌いな椎茸をよけながら鍋を食べることだってあるさ。 元ヤンキーの板金工だって歯医者は怖いさ。 大手広告代理店に勤めるエリートサラリーマンだって、『愛売る』の新刊は発売日にGETしたいさ。 読み終えて、想像する。とても簡単に、その光景は目に浮かぶ。 両国あたりをウロウロしていたら、どっかの事務所の窓からは、交渉人の尻の所有権について言い争うヤクザと弁護士の声が聞こえてくるんじゃないかな。 食えないくらい不味ければ拒否できるのに微妙に食える厳しい料理をやっつけた天は、今日も新宿の街をインラインスケートで疾走してるんじゃないかな。 どっかの漫画家は今日も豚箱のような部屋を恋人に掃除させながら漫画描いてんだろうな。 藤井沢商店街では今日も歯医者と板金屋がカフェでギャルソンに構いながら不動産屋を冷やかして自動車販売員に叱られてるんだろうな。 そんなことを、私はとてもリアルに妄想できる。それが妄想だなんて思えないくらい、本当にそんな街があるんだと半ば本気で思っちゃってるくらい、私の頭は重症だ。 やはり榎田さんには、私の人生に対して責任を取っていただかなければならないようだ。 どうか私が妄想だったと我に返る暇もないくらい、責任を取って作品を書き続けて頂きたい。 「腐の階段」を降りきった先は、底なし沼ではなく案外お花畑かもしれない。
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