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いまやボーイズラブ商業の世界で注目株の一人、英田サキさんの代表作と言えばSHYNOVELSから出版されている「エス」シリーズやキャラ文庫から出版されている「DEAD LOCK」シリーズなどをあげられる方が多いだろう。 でも、私にとって英田作品の中で最も忘れられない作品とはこの2作品などではなく、エスシリーズが販売されるより少し前に現在は休刊中の小説JUNRに「酔いどれ天使」と言うタイトルで掲載され、のちにクリスタル文庫で文庫化された「今宵、天使と杯を」なのだ。 掲載されていた雑誌が突然休刊となり当時雑誌にまだ連載中だったこの作品は物語のラストが日の目を見ることなく本の発売すらも危ぶまれたと聞いている。 今でこそオヤジもののジャンルが確立され、その手の作品を好んで書く作家さんもかなり増えたけれど、攻めは寡黙なヤクザで、妻にすら見放された36歳の冴えないサラリーマンが受けとして出てくる作品などこの作品が雑誌に掲載されていたころにはほとんど見られなかったのではないだろうか? 実際この本を文庫としてだしたクリスタル文庫の編集さんが「こんな話商業で出しちゃって良いんですね~」といったニュアンスの一言を作者様に思わずもらしたと言うことなどからも、当時のBL界ではこの手のジャンルがまだまだ珍しい内容のものであっただろう事がうかがい知れる。 雑誌に掲載されることの無かったストーリーのラストが付け足される形で、作品が文庫化され出版されると聞かされて私は迷わず本屋にこれを買いに走った。 言わば「今宵、天使と杯を」の作品は、今まで商業作品には自らは手を出さないぞと決めていた私が生まれて初めて自分で買ったボーイズラブの商業作品なのである。 余計なことは殆ど語りたがらない寡黙すぎるほど寡黙なヤクザとこれといって特徴のない冴えないオヤジ……ストーリー自体も派手さはなく、エスやDEAD LOCKなどの様にドラマ性は薄れるけれど、どこかやぼったさえ残る彼らのほうが私にはずっと身近に感じられて、代表作と言われる人気作品以上に愛すべき存在なのだ。 この作品が世の中に出るまでに、こういう経緯をたどらなければ、この作品が英田サキさんの描いた話でなかったならば、私が商業の作品に手を出すことは無かったかもしれない。 そういう意味も込め、私にとってこの作品は忘れられない1冊なのである
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