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たくさんの作品を世に送り出し、2009年は脅威の文庫15冊・原作漫画2冊発行を成し遂げた崎谷はるひ先生。 オリコンのランキングにもしばしば登場するほどの人気作家である彼女の作品は、しかしながら少しアクが強く、比較的読者を選ぶ傾向にあると私は思う。 彼女の作品の特徴を挙げるとすれば、それはなんと言っても「こってり濃厚」「どっさり大量」だろう。 人物の背景事情、エロス、修羅場……等々の内容それぞれが、良くも悪くも沢山詰まっている。 特にエロスについて言えば、AV顔負けの状況や会話が幾度となく繰り広げられており、受けの「おちんちん」などの発言はもはや朝飯前、おそらく一度のエロスの20ページ越え率はメジャーリーグ選手の打率でも到底追い付けないほどだろう。 受けは可愛い、攻めはかっこいい。 迷い、間違い、から回る受けをときに王子様ちっくに、ときに強引に導いてくれる攻め。 そうしたBLの王道を貫きつつ展開される濃厚な世界が崎谷先生の持ち味なことは確かだが、そうした濃さゆえ、読者に「過剰摂取」を強いていると感じる瞬間もたびたび見受けられる。 そしてそれは私にとって、あまり得意なものではない。 主人公の職業や過去や人となり、そういったものをどっさりと説明する前半に始まり、濃いぃ葛藤やエロス、その後に激しい修羅場を迎え、仲直りしたらまたしても濃いぃエロス………こうした展開が多いのだ。 ひとつひとつは、私もむしろ大好物な要素だ。辛い過去、すれ違い、エロス、嫉妬………大好きである。 しかしそれら総てを濃厚に追求し、ひとつの作品にまとまっていると「もういいです」状態になってしまうのだ。 例えるならば、ニューヨークチーズケーキ。 あの濃厚なケーキは、八分の一に切られているからこそ美味しくて「もうちょい食べたかったな」という心地よい物足りなさが残る。 しかし、直径18㎝のホールでドーンと出てきたらどうだろう。いくら甘いものやチーズが大好きでも、苦笑いしてしまうだろう。 一気には無理なので時間をあけて食べすすめる……「大好きだけど、手加減して」……崎谷作品にはこういったイメージが、私のなかにはある。 彼女の作品について、以前私は自身のブログで「完璧主義」と定義したことがある。 彼女の作品の濃さはどこからくるのかと考えると『読者にもキャラにも、そして彼女自身にも、一切の疑問や謎やわだかまりが残らないような結末』を求めているように思えるのだ。 〇〇〇ってどんな仕事? 彼はどんな性格で、こういうときどう考えるの? あの人の過去になにが!? 等の不明確な部分が、彼女の作品にはほぼ見受けられない。 とにかくキャラの内面を引き出そうとする展開で、だからこそ最終的にマトモな人間は一人もいなかったなと感じることもしばしばだ。 それはそれで、総てに納得できるという点で良いのかもしれない…が、私は、もう少し読者の想像に任せたり、あるいは謎な方が魅力的なことも有ると思うのだ。 エロス以外(笑)の肩の力を、もう少し抜けばいいのにな………これが、私の崎谷作品論だ。 ここまで辛口に書いておきながら、しかし私は気付けば高い頻度で崎谷作品を読んでいる。 濃い味のものはクセになるとはよく言ったもので、私にはマイナスのイメージがあるはずの「濃さ」は、私が崎谷作品を読む習慣を生み出しているのだ。 これこそ、崎谷はるひの一番の武器なのかもしれない。 最後に、比較的ライトな印象で好きな崎谷作品を一つ紹介しよう。 『花が降ってくる』(フロンティアワークス)は、同居する従兄弟同士の、近くて遠い心情を描いた一冊だ。 片や結婚を考える恋人がいるスマート人間、片や大学職員の非社会的人間……不器用に近づいていく二人の、蛍の光より切ない空気を、是非感じてほしい。
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