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■蛍火/著者:栗城偲/挿絵:麻生ミツ晃/GUSH文庫 大学教授の宮地洸一と、小説家の束原千里。 ふたりは大学で出会って恋人同士となり、それ以来20年近く一緒に暮らしてきた。 だが、互いに嫌っているわけではないけれど、今はもう以前のような盛り上がりはなく、会話もろくに交わさない冷戦状態が続いている。 ある日些細なことから言い争いになり夜の町に繰り出した洸一は、若い頃の千里にどこか似ている健太という大学生と出会った。 思い詰めた表情の健太を放っておけず、求められるまま共に北へ向かうのだが…。 洸一と千里の関係は冷め切っています。 でも、嫌いになったわけではありません。 ちょっとした関係のズレを修正せず放置した結果、簡単には戻れないくらい気持ちが離れてしまっているだけ。 この作品は、切っ掛けを得てふたりが互いの今を見つめ返す話です。 前半の『SIDE洸一』では、洸一が健太と旅をし、健太を通して恋愛と向き合い、後半の『SIDE千里』では、残された千里が大学時代を振り返り、必死に恋愛していた頃を思い出す。 互いに側にいすぎて忘れていた大切な物に気付き、再び手を取り合います。 何か大きな事件があるわけではなく、日数にしたらたった3日間ほどの話。 だけど、ふたりが重ねてきた日々がこの話の土台にあるので、説得力がある。 例えどんなに盛り上がって恋愛をしていても、長い間一緒にいればこのふたりのように行き詰まってしまう事もあるでしょう。 特に、将来に何の保証もない男同士では、ふたりの視線がずれてしまった時、修正するのは難しいでしょうね。 でも、関係を続けるのが困難だからこそ、20年間二人が共に暮らしてきたという事実はとても意味がある。 冷戦状態にあっても離れていかなかったのは、心の中にはちゃんと相手への想いを持ち続けていたからです。 どこにしまったか分からなくなっていたその心のありかを、ふたりともちゃんと見つけ出すことが出来てホッとしました。 相手が側にいることが日常になっている中で、普段は忘れていても、時にはこうして相手に対する感謝や愛情を自覚する事も必要です。 自分以外の誰かと手を取り合うためには、理解されることを求めるばかりでなく、理解し合えるよう努力しなければいけない。 それは、恋人同士だけでなく、家族や友人などとの関係にも言えること。 当たり前のようでいて、意外と忘れているのではないかな…と、自分自身を振り返ってしまいました。 20年という歳月で培ってきた二人の関係と、これから積み重ねられていく日々。 ハデさはないけれど、読み応えのある作品でした。 BLでは恋人同士になるまでの話が当然多いのですが、その後関係を続けていくことの方がずっと大変だと思います。 続編という形でなら他にもありますが、敢えて最初からここに焦点を絞っているというのが新鮮でした。 栗城先生、初めて読みましたがとても好印象です。 ■愛の報復/著者:仔犬養ジン/挿絵:鬼塚征士/B-PRINCE文庫 フランスの片田舎で、”掃除屋”として裏の仕事をしているゾルバ一家。 その末息子であるガエルは年の離れた義兄・オリヴィエを愛していたが、その想いは拒絶されてしまう。 そして、オリヴィエの突然の失踪と、ゾルバ殺害疑惑。 愛するが故に憎しみを募らせたガエルは、養父・ゾルバを殺し、「家族」を裏切ったオリヴィエに復讐するため、他の義兄たちと共にオリヴィエ殺害を計画。 8年後ようやく居場所を突き止めるが、しかしその計画は失敗。 オリヴィエに囚われ、8年前の真実を聞かされたガエルの心は揺れるのだが…。 ガエルがオリヴィエと出会ったのは7歳の時で、別れたのは13歳。 愛情に飢えていたガエルはオリヴィエに懐く一方で、身知らずの男性との行きずりの関係も絶えずあります。 自分の居場所を求めているんですよね。 オリヴィエはそれに気付きながらも上手くフォローできず、結果的に無自覚にガエルを傷つけている。 そうした二人の関係は「家族」の関係に少しずつ影響を与えていて、ガエルと関係を持った男たちの連続殺害事件、ゾルバの殺害事件へと繋がっていく。 ガエルはオリヴィエを愛していたが故にオリヴィエへ憎悪を募らせ、復讐という形で決着を付けようとします。 でも、ガエルの心は本人が思っている以上に不安定で、オリヴィエとの再会によって心が揺れ始める。 ガエルの心に染みついているオリヴィエに対する愛情。 自分が今まで信じていた復讐の理由に対する疑問。 しかし一方で、オリヴィエを信じる事も出来ずにいる。 その不安定な中、オリヴィエから自分への想いを告げられ、ガエルは益々混乱していきます。 序盤のガエルは、自分の容姿に誘惑される大人たちや世間をどこか冷めた目で見ている、若いけれど達観した人物という印象でした。 その印象が、オリヴィエとの再会後どんどん崩れ、隙がいっぱい出てくる。 オリヴィエの前で見せる表情に、どんどん惹かれてしまいました。 この思いがけないギャップがかなり効いています。 ガエルが自分の心に振り回されている姿が可愛い! その容姿もあるけれど、この意外な不器用さと寂しがり屋な部分が、無自覚に男を惹き寄せているのではないかと思います。 男臭い雰囲気の中に垣間見えるこうした魅力に、読み手の私も心を掴まれました。 約3年ぶりとなる仔犬養先生の新刊ですが、前作同様、個性的で骨太な話です。 文体は独特の雰囲気があるので、読む人を選ぶかもしれません。 行間からくみ取らないといけない部分が大きいように感じます。 でも、難航しつつも満足度が高かったのは、間違いなくキャラの魅力が大きかったからですね。 好みは分かれると思いますが、私は好きです。 あ、そして挿絵もステキなのです!渋い!! 中身とマッチしていて、作品を引き立てていました。 気になる方は是非どうぞ~♪
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