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崎谷はるひは、私を真の意味でBLに引きずり込んだ張本人である。 その理由は、こうだ。 2007年の晩夏の頃、某アニメに端を発して同人誌及びBLCDに手を出すようになった私であるが、当初聞いていたBLCDは特定の数人の出演者目当てに選択した、漫画原作・コメディ系の非常にライトな作品やオムニバス形式の作品が殆どであった。 BLCDを聞き始めて約1ヶ月半を経た頃、出演者の声の判別がそこそこ利くようになったこともあり、もう少しストーリー性のあるエロ濃度も高めの作品も聞いてみたいとに考えるようになった。 それが小説原作作品になるであろうことはわかったのだが、当時私の商業BL小説に関しての知識は非常に乏しかった。 もともと漫画読みである私は、こと漫画に関しては未読の作家であってもある程度自分の好みに合うかどうかの嗅覚が働くのだが、小説に関しては通常読んでいるのがほぼミステリ系に限られており、ラブストーリーに対する好みが今ひとつつかみきれていなかった。 さらに、一部漫画作品は読んでいたものの15年近くBLから離れていたため、所持しているBL小説といえば榊原姿保美の耽美系作品とくりこ姫の非常にライトな学園ものという極端な10数冊に限られていて、現在のBL市場は私にとってはまさに未開の地であった。 そこでいくつかのBLCDレビューブログを参考に、「小説原作・2枚組・濃厚エロ」というキーワードと自分の好みの最低ラインである「年下攻め×年上受け(できれば両者とも成人)・現代劇」を踏まえた作品選びをしたところ、崎谷はるひ原作の「耳をすませばかすかな海」と「しなやかな熱情」にたどり着いた、というわけだ。 前置きが長くなった。 この2作を聞いて驚いたのは、小説を音声ドラマにした際の情報量の多さであった。 登場人物同士の会話だけでなく、モノローグとナレーションが漫画原作作品よりも圧倒的に多く、その時々で主人公の置かれた状況や感情が非常に明確でわかりやすかった。 おおざっぱに言えば漫画→CDでは端から絵・コマ割り・書き文字等の視覚情報は捨てざるを得ない、マイナスからのスタートであるのに対し、小説→CDでは多すぎる文字情報をいかに整理して提供するかというプラスからのスタートなのだなとしみじみ感じた。 たまたまではあるが2作とも攻め視点の作品で、受けの魅力がなんともミステリアスに表現されていた点や、ナレーション担当の攻め役の声優が非常に表現に長けた役者であったことも聞きやすさの一因であった。 そして件のエロ描写である。これには度肝を抜かれた。 ずっと交わっているわけではないにしろ、これまで私が聞いてきた作品と比較してとにかく驚くほど長く、具体的であった。 とはいえ2枚組ということもあり、物語全体でのバランスを考えればその分量が異常に多いとまでは感じなかった。 さらに2作とも、その長い収録時間をかけてカップルとして成立するまでの物語であり、濡れ場を通して二人の関係が明らかに変化するという点が、ただただ欲望にまかせてやり散らかすというのとは少し異なっている感じがして好印象であった。 実はこのCDを聞く時点では、まだ原作小説にはたどり着いていない。 上にも書いたように今回BLにはまった入り口がCDであったこともあり、コストパフォーマンスとは関係なしに、私にとってはCDの方が数百円で買える小説・漫画よりもある意味でハードルが低いのである。 しかしこの2作を聞いて、崎谷はるひの原作小説を読んでみたい、他の作品にも触れてみたいという興味がむくむくとわき上がった。 手始めにそれから短期間の内にCDの続編が出ることがすでに公表されていた「しなやかな熱情」シリーズを入手することにした。 運のいいことに、行きつけの書店にシリーズ3作全てが揃っていた。 一気に読んだ。 特に1作目についてはCDと比較するような気持ちで読んだ。 非常に分厚い原作小説であるが、上手く刈り込んで殆どノーカットに近い印象を持たせるCD化に成功していると感じた。 2作目・3作目については、まだ聞かぬCDドラマを演者の声で読み聞かせられるような不思議な感覚をはじめて味わうことができた。 崎谷はるひの文体は、華美な修飾や変に情緒的なところがなく、地の文と会話の分量のバランスもよく、全体に簡潔で読みやすかった。 にもかかわらず作品が長大なのは、そこで起きていることや主人公が考えていることが、順番に全て書かれているからだ(当然だがCD同様濡れ場についても実況のごとく逐一全てが書かれているので恐ろしく膨大であったが、不思議とそれほど淫靡という印象にはならなかった点はおもしろいと思った)。 好みが分かれるところなのかもしれないが、エロも含めてボリュームある物語を読んだという満足感が得られる点と、裏を読んだり余計なことを考えたりする必要が殆どないという気楽さは、崎谷はるひ作品の大きな特長であろう。 この作品をきっかけに、漫画ほどではないにせよ、CD化されていないものも含め小説作品を読むようになった。 私のBL消費量が格段に増えた原因は間違いなく崎谷はるひである。 だが「いまどきのBL小説」の初めてが崎谷はるひであったがために、小説作品に求めるハードルがうんと上がってしまったのは、果たして幸であったか、不幸であったか・・・。
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