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■タナトスの双子(1912,1917)/和泉桂/高階佑/SHYノベルズ 帝政ロシア末期。 小さな村で暮らしているユーリとミハイルは、愛らしい容姿と性格で誰からも好かれる仲のよい双子だった。 しかしある日、ふたりの前にオルロフ侯爵家の使者が現れ、平穏な日々は終わりを告げる。 オルロフ家に引き取られる事となったミハイルだが、その道中、事故により行方不明に。 ユーリはミハイルの代わりに引き取られて貴族になり、一方、事故で記憶を失ったミハイルは拾われ、その両親の元、最下層の貧民窟・ペスキで生活をしている。 13年後偶然再会したふたりだが、反体制運動を取り締まる最前線に立つユーリに対し、労働者運動グループに属しているミハイル。 ユーリは相容れない立場を知りながらも、幸せな幼少期を一緒に過ごしたミハイルとの再会を喜ぶが、幼い頃の記憶を失っているミハイルは混乱していた。 そんな中、ミハイルはふたりの再会を取り持ったユーリの友人・マクシムに惹かれていくのだが…。 簡単に説明すると、「相反する立場にある双子が愛憎劇を繰り広げる話」ということになるかと思いますが、それだけでは説明しきれない背景もあるし、それぞれ側で支えている男がいて、その存在もかなり重要です。 双子の話ですが、近親相姦ものではありません。 マクシムというユーリの幼馴染みを挟んで三角関係になりつつ、最終的にカップリングは別々です。 ユーリの相手がヴィクトール、ミハイルの相手がアンドレイ。 話の軸となっている双子の愛憎劇に、それぞれ別の相手との関係が同時進行していて、さらに政治的な背景も関わってくるので、少々話が込み入っています。 心情変化が繊細なので説明が難しい。 前半の「1912」はマクシムを絡めた三角関係、後半の「1917」は、ユーリとヴィクトールの関係を中心に話が進んでいます。 幼い頃の記憶がないからこそ兄弟より愛を選ぶことができたミハイルに対して、記憶があるユーリはどちらも選びきる事が出来ず、その結果自分を犠牲にするしかなかった。 そのどん底から、ヴィクトールによってユーリは這い上がります。 でも…再びユーリは岐路に立たされてしまう。 そこでユーリがどの道を選択したのか…? 結末は読んで確かめてください。 ネタバレになってしまうので詳細は書きませんが、私はしばらく最後のページから動けませんでした。 大筋は愛憎渦巻くメロドラマですが、舞台が1900年代の帝政ロシア、登場人物が皆ロシア人で、政治的な話が盛り込まれているので、読み応えたっぷりです。 誰よりも心を分け合っていた双子のお互いに対する無条件の愛と、近い存在だからこそ生まれる憎しみは紙一重。 その微妙なバランスがどちらに傾くのかという所に、それぞれの立場や社会情勢などが関わってくるので、そこを読み飛ばすと話が理解しにくいかもしれません。 個人的には、こういった堅い話や愛憎劇は好物なので面白かったです! ただ、内容盛り沢山なので、2段組みで2冊という大ボリュームでも入りきっていないように感じてしまうのが残念。 しかし、兎にも角にも、激動の時代の中、複数の愛憎劇が交錯しているのがこの話のポイントとなっていると思います。 和泉先生の気合いが存分に感じられて、読み応えのある作品でした! 高階先生の挿絵もステキです♪ ■花は咲くか (1)/日高ショーコ/バーズコミックス 広告代理店で働いている桜井。 毎日仕事に忙殺され、プライベートにも関心のない桜井だったが、ある日駅で蓉一という青年と出会う。 無愛想な態度に苛立ちを覚えながらも、何故か蓉一が気になる桜井は…。 37歳の桜井は、仕事が出来て女にも不自由していません。 でも、何に対しても淡々としていて、熱くなれない。 そんな中蓉一と出会うのですが、無表情で愛想もない蓉一の態度に最初は苛立ってばかりいた桜井。 しかし蓉一の周囲の人間を通して蓉一の置かれた状態を知っていくうちに、桜井は次第に蓉一から目が離せなくなっていきます。 そして、その気持ちが何なのか、ある時突然気付くのですが…。 桜井は人当たりいいけれど、誰に対しても関心が薄い。 仕事も恋愛もこれまではなんとかなっていたけれど、37歳という年齢になって、いろいろなことがどん詰まりになっています。 具体的に何か問題を抱えている訳ではないが故に、どうしたらいいのか、自分がどうしたいのか分からないまま仕事に忙殺され、漠然と日々を送っている。 桜井がここに至った背景には、親と早くに死別したとか、一応それなりに理由はあると思います。 でもそうやって特別な理由が無くても、他人に関心がないまま仕事に追われ、いつのまにか30代半ば…という人はいるでしょう。 年齢を重ねているからこそある程度既に自分の生き方にスタンスがあって、そう簡単に変われないという面もある。 そういった、年相応のリアリティが桜井から感じられて、そんな桜井が蓉一と出会った事でどう変わっていくのか、それが気になってどんどん話に惹き込まれました。 一方の蓉一ですが…こちらはなかなか難解な人なんですよね〜。 19歳の美大生で、下宿の家主。 桜井視点なので最初は性格が全然掴めませんが、桜井に対して口が悪いのも無愛想なのも、人付き合いに慣れてないからなのかなと思います。 それは蓉一を知っている従兄弟で下宿人である菖太や竹生、そして柏木の言動からも明らかで、桜井には嫌われているとしか思えない態度でも、それは蓉一が関心を示しているからこその態度らしい…。 周囲の人間の対応を見ていると、こんな蓉一にもちゃんと愛されているんだなぁと感じられてホッとしました。 どうやら蓉一の育った環境が大きく影響しているようなのですが、その辺りの詳細は次巻に持ち越し。 当て馬らしき同級生も登場して、この先蓉一がどう変化するのか気になるところです。 途中まで平坦な印象だったのに、いつの間にかその魅力に嵌っていました。 この巻では桜井が恋愛感情に気付いただけで、まだ恋愛に至るまでにはいろいろ乗り越えなくてはいけないハードルがありそうです。 桜井も蓉一もハデさはないけれど、ジワジワとそのキャラに惹きつけられました。 表情の変化にハッとさせられる。 次巻が気になります!
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