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【山田ユギ・ヤマシタトモコ】 今回調査対象に入った山田ユギ作品は50作品・シリーズで、うち苗字の明らかであったキャラクターは95件であった。 山田ユギ作品の登場人物の名前が「ごく普通でありふれている」ことが特徴であることは間違いない。なぜなら日本のもっともありふれた苗字「佐藤」「鈴木」「高橋」をことごとく押さえ、上位100位以内が24件(25%)、1000位以内が66件(69%)、7000位以内が89件(94%)と、いずれも今回調査した全サンプルにおける比率を上回っており、日本の苗字分布との比較ではいずれもχ2検定で有意差を認めなかったからである(以後特に記載がない場合の検定は全てχ2検定である)。7001位以下のものでは「高荻」「高円寺」など地名を利用されて親しみやすくなっているほか、「久米寿木」など稀な苗字であることが作中で意味を持つものがあった。 ヤマシタトモコ氏はコミックスの刊行数は多くないものの短編作品が多く、今回調査対象には31作品・シリーズの56件が含まれた。 舞台設定が現実的であることに比較して物語はより内証的で、詩的なモノローグが印象的なヤマシタ作品では、登場人物の苗字が非常に変わっているのが特徴だ。 100 位以内は「高橋」の1件のみ、1000位以内もわずか6件(11%)、7000位以内は24件(43%)である一方、7001位以下が32件(57%)と過半数を占め、日本の苗字分布及びヤマシタ作品を除いた他のBLコミック作品との比較ではいずれも全ての項目で有意差を認めた。 「東間」(7385位)「鹿目」(8145位)「明楽」(11633位)「中頭」(24989位)「伊砂」(44855位)「州戸」「布木」「美成」「波古」(いずれも詳細順位不明)など、とにかく滅多に見聞きしないような苗字がずらりと並んだ。 ここからは推測に過ぎないが、山田ユギ氏は主に外見や性格付けでキャラクター性を表現しており、おそらく登場人物の名前はさほどの意味を持たないのであろう。 それゆえ、ありふれた名前が山田氏独特の肉感的な絵柄とあいまって、なんとも生々しい存在感を醸し出していると言えるのかもしれない。 逆にヤマシタ氏の場合は舞台設定こそ現実的であるが、稀な名前と内向きなのにどこか突き放したような表現で、「物語感」(あるいは「BLはファンタジー」という意味でのファンタジー感)を強調していると言えそうである。 【崎谷はるひ・木原音瀬】 崎谷はるひ作品では、今回調査対象に含まれたのは17作品・シリーズの30件であり、100位以内は4件(13%)、1000位以内は10件(33%)、7000位以内は20件(67%)で7001位以下が10件(33%)、木原音瀬作品では、今回調査対象に含まれたのは16作品・31件であり、100位以内は3件(10%)、 1000位以内は15件(48%)、7000位以内24件(77%)、7001位以下7件(23%)であった。 漫画家の2人とは違い、平成21年10月12日現在現在入手可能な全作品を網羅している訳ではないのでそれこそ傾向に過ぎないが、数字からは二者間及び他のBL小説全体との比較において、苗字の分布に有意差は認めなかった。 しかし小説ではコミック作品と異なり、重要登場人物にはほとんどの場合フルネームが与えられていることを踏まえ、この二作者に関しては名前及びフルネームの調査を加えた。 崎谷作品の受けは攻めと比較して年少で小柄で外見も可愛い、庇護欲をそそるタイプが多く、名前も女性的な字面・語感を有するものが17件中8件(47%)に及んだ(「瀬里」「一葡」「薙」「未直」「未紘」「由宇」「千晶」「葉」)。対して攻めでは女性にもあり得る名前は「香澄」「斎」の2件(12.5%)に留まり、有意差を認めた。 木原作品では体格はともかく年齢や社会的な立場は同等かむしろ受けの方が高い場合が多く、受け・攻めともに女性的な印象の名前は少なくかつ有意差も認めなかった。 また2件以上の名前に使用されていた漢字は、崎谷作品では「司」(3件)「一」「裕」「聖」「未」「彦」「嗣」「義」(2件)、木原作品では「一」(4件)「啓」「介」(3件)「文」「史」「武」「仁」(2件)であり、崎谷氏の方がより画数の多い文字を好んで使う傾向がうかがわれた。 そこでさらに画数の平均値を比較すると、崎谷作品では受けで名前のみ 14.6及びフルネーム32.2、攻めで18.9及び37.6といずれも攻めの方が多くt-検定で有意差を認め、木原作品では受けで14.1及び 30.9、攻めで11.7及び25.7といずれも受けの方が多く総画数のみ有意差を認めた。 画数について簡単にまとめると、「崎谷攻め>崎谷受け≒木原受け>木原攻め」となる。 繰り返しになるが、短編主体のコミック作品と比較して長編かつ名前の字面が何度も繰り返し紙面に現れる小説作品では、たとえ容姿についての詳細な描写があり、それにマッチしたイラストが添えられていたとしても、名前そのものが負うキャラクター性が増すのは必然である。 そして、前述の崎谷氏・木原氏作品のカップリング傾向はそのまま、漢字の持つ意味という点での男性性・女性性のみならず、選ばれた文字の画数によっても表現されていることがうかがわれた。
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