私のBL論!


BL「受け」ペニス考
評者:桃園あかりさん
今回は、ボーイズラブにおける、「受け」のペニスについて考えてみたい。
たとえば「受け」には不必要なぐらいにでかい鹿乃しうこのペニス、「受け」ということを差し引いても貧相すぎる木原音瀬のペニス。「受け」のペニスはいったいナニを意味するのか、考察する。

 BLでは、攻めと受けを決めるとき、どちらも受けをやりたくなくて揉める、いうシーンがよくでてくる。「ちょ、ちょっと、そんなの入らねぇ。お前のほうがでかいんだから、俺が入れるほうでいいだろう」と主張しても「でかい」ほうが攻めになり、そうでないほうが受けになる、という場面。「鹿乃しうこ」合理的に考えれば、受けのいうとおりで、大きいほうが受けをしたほうが、ダメージは少ないように思えるが、そうはならない。攻めと受けでは、攻めのほうが身長もナニのサイズも勝っているのが、BLのセオリーである。
 そう。BLでは攻めのペニスはやはり大きい。ペニスは大きいほうが男らしい、というのは、いちおうの了解である。それでは受けのペニスは? 
鹿乃しうこさんの描く男たちのペニスは、攻めも受けもとても大きい。堂々と天にそびえる受けのペニスは、いくら日頃「男らしい」受けであっても、受けが挿入「される」側を意味する限りにおいて、ほんらい無用のものである。
しかし受けのペニスは雄雄しく屹立している。挿入されても、受けは「女」にはならず、相変わらず「男」のままである。挿入されたからといって劣位になることはない。挿入「する」ことは「男」を意味するとしても、「される」ことは、「女」を意味しないと、挿入「される」ことの意味を変えるのが、そびえる受けのペニスなのである。
 それとは一転して、受けのペニスが弱々しい場合はどうか。典型的には、木原音瀬さんの描く受けのペニス。『Don’t Worry Mama』に登場する今蔵のペニスは、「正常に機能するのかと疑わしい」といわれるほど、小さい。「大げさでもなんでもなくモノは優一の親指ほどの太さと大きさしかなく、二つの袋も鶉(ウズラ)の卵かと思うほど貧相な代物」のうえに、「ほっこりと皮をかぶったまま」って、ひどいよ、木原さん…。でも攻めは、そんな貧弱なペニスに、激しく欲情する。
 『脱がない男』に出てくる受けの藤原はなんと、陰嚢がひとつしかない。小学生のときに、スピッツに噛み切られて以来のコンプレックスで、藤原はセックスのときにも、片タマを隠すため、ワイシャツが「脱げない」男なのだ。しかも恋人と喧嘩別れしたあとは、インポテンツになる。ところが恋人は、そんな藤原の局部を、「すごく可愛い」と愛おしみ、そのことが藤原の自信に繋がっていく。
短小、包茎、片タマ…。力の象徴であるべきペニスが、このように「男らしくない」性器として描かれることは、男性向けのポルノでも女性向けのポルノでも、あり得ない。しかし考えてみれば、男性も生身の身体をもち、つねに誰でも大きなペニスを誇示できるとは限らないし、その必要もないのだ。
 「若宮は体を引いて、男の股間に顔を埋めた。…(中略)…苦い液を吐き出す、肉の棒。美しくもないグロテスクな男の性器。そんなものにどうしてここまで自分が執着するのかわからなかった」。『WEED』で木原さんは、ゲイである若宮の男性性器へのフェティッシュを暴きだす。過剰な意味が纏わりついた男性性器を、あるがままに描く木原さんの試みは、BLという表現形式によって可能になっているように、わたしには思われるのである。

紹介者プロフィール
桃園あかり
腐っていることを周囲に隠していないカミングアウト済み貴腐人。しかし流石に、子どもからはBLをどう隠すかが最近の懸念。職業は、意外にまじめなプロフェッサ~。思うより職場のスーツ率が、低くて悲しい。

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