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人は常に何かを選択し、決断しながら生きている。何かを手に入れる為には何かを諦めなければならない。 「AランチorBランチ」「朝、家を出るときに傘を持って行くか否か」と言う日常の些細な選択から、大きな事では「この人と結婚するか否か」さらにはもっと重く、「生きるか死ぬか」(こういう選択はあまりしたいとは思わないけど)人として重大な選択と決断を迫られる場合まで…。 決断を下す前大いに悩み、苦しみ、選択した後も後悔することがあるかも知れない。 時には選択を誤り結果、苦しむ事になっても全ては自分で選択した事。前に進むしかない――。 「刺青の男」シセイノオトコは、選択した結果がどういう結果になろうともそれを受け入れ、愛を貫いた男たちの物語です。 一生消えることのない刺青を入れた三人の男たち。牡丹の潟木(かたぎ)、ラナンキュラスの武藤(むとう)、狂い鮫の埜上(のがみ)。彼らが生きている世界は社会の裏側、ヤクザの世界。 BLではよくヤクザやマフィアが出てきますが、BLの中のヤクザはヤクザでもどこかインテリだったり、言葉使いや立ち居振る舞いがやたらと紳士で、ドジで可愛い受け様がピンチに陥るとタイミング良く助けに来てくれちゃったりして、本当に職業はヤクザなのか?ヤクザと言う名の白馬の王子様じゃなくて?と時々突っ込みを入れたくなります。 BLに出てくるキャラはVシネや任侠映画にある「血生臭い」「ドブ臭い」「薄汚れた」、といったイメージからはかけ離れた、真逆と言っても過言ではないキャラが多い中、(あくまでファンタジー設定なので否定しているわけではないです。読み手としては「萌」ですので、それはそれとしてアリだと思う)阿仁谷ユイジの描くヤクザはまさに任侠映画に出て来る「血生臭くて薄汚れた」決して綺麗ではない、裏社会に生きる男たちが登場します。 裏社会に生きていても人の子。当然恋もしますし、愛する人がいてもおかしくありません。 タイトル通り作中、刺青を入れた男達が出てくるわけなんですが、ワードで「しせい」と打っても変換できません。刺青(いれずみ)と書いて「シセイ」と読ませる。 そもそもなぜ「シセイノオトコ」とわざわざ読みを振ったのか? 当て字だという事はわかるのですが、アタシは「シセイ」と言う音に他の意味があるのではないのかと思えてなりません。アタシ的勝手な解釈ですが。 「死生」…死と、生。これも「シセイ」です。まさにこの作品には死と生が描かれていて、命を賭して愛を貫く、一途な想いと純愛がそこにあるのです。 「至誠」…この上なく誠実なこと。一度決めたら覆さない、迷わない。ヤクザの世界での漢(おとこ)気、兄貴と舎弟の忠誠と誓い。愛する人を護りたい。いろんな意味での一途な気持ち、とも取れます。 何か欲し手に入れる為には何かを犠牲にしなければならないのは彼らも同じで、一般人が犠牲になるものとすれば、それは時間だったりお金だったり。 愛する人を護りたい、好きな人と一緒に居たい気持ちは一般人のそれと変わらないけれど、裏社会に生きる彼らが愛を貫き、愛する人を手に入れたことによる犠牲と代償はあまりに大きい。 その裏社会の三人の男達に絡む謎の男、久保田。ネタばれになってしまいますが、彼の職業は警察官。彼もまた自分の職務を全うしながらも迷い苦しみ、愛する人(牡丹の潟木)と共に生きることを選択する。 地の底に堕ちた愛する人を引っ張り上げ何とか更生させたい、どんなに遠回りになろうとも犯した罪は償わせ、共に生きようとする彼の姿は健気で一途。自らの手で愛する人の手に手錠をかけなければ(逮捕する)ならなくても全ては愛する人を更生させる為。 愛の力がそうさせるのです。 因果応報とはよく言ったもので、誰かを傷付けると巡り巡って報いが自分の所へ返ってくる。 どんな形で返ってきても彼らはそれを甘んじて受け入れ、荒みきった裏社会から解放されやっと見つけた小さな幸せ、愛する人と生きていこうとする姿は、あまりに人間臭くてカッコ悪いんだけど、カッコイイ。 この「刺青の男」(シセイノオトコ)は一応BLにカテゴリーされていますが、BLによくありがちな「イチャラブ、イケメンパラダイス」ではなく、ヒューマンドラマを見させられているような、一度読んだだけでは内容を全て把握しきれない位、心の奥底にズシリと来る内容です。 さらに、この本最後のページのセリフ。この漫画の全てを集約しているかのように、重く、重く響きます。 ここではどんなセリフかはいいません。実際に読んで確かめてみてください。 そして何度も何度も読んでみて、阿仁谷ワールドの奥深さにどっぷり浸かってみてください。 こういうBLもあるんだなと、ある意味カルチャーショックを受ける作品です。
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