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日本人なら殆どの人が知っている、たとえ実際にその作品を読んだことがなくても、作品のタイトルやそのキャラクターの一人や二人(或いは匹?) は絶対に一度は目にしたことがあるだろうビッグネーム。漫画の神様にしてストーリー漫画のパイオニア、手塚治虫。 彼のあまたある作品の中、主人公がゲイでホモセクシャルな作品が一つだけあるのを、皆さんはご存知だろうか? この作品のあらすじをザッと言うなら、上記にあるようなとても固くてきつそうなもの。 「ありとあらゆる社会悪―――暴力、裏切り、強姦、獣姦、付和雷同、無為無策………、とりわけ政治悪を最高の悪徳として描いてみたかった」。 巻末のあとがきで手塚治虫自身も述べているように、この作品が表向き、重厚で濃密なピカレスクドラマとして描かれていた、と言う事はほぼ間違いがないと思う。しかし、あくまでそれは表向き。 私はこれを、実は内部で描かれている、主人公と幼馴染の神父の、激しくも複雑怪奇、実際肉欲をも伴った深遠なる愛想劇こそが、真のテーマなのではないか? と疑っている。 実質この物語を円滑で、表情豊かなものにしている最も重要な要素がこの二人の同性愛であることもまた真実であるし、「ゲイの贈り物」(別冊宝島) では「同性愛世界史と聖書を同じ比重で描き切った超大作」との評論もされている。 「同じ比重」とは、少々大げさな気もしたが、しかし言いえて妙…と言うか、多分的を得ているんじゃないかとも私は感じた。 物語の第一章、殺人を犯した美智夫が、その足で教会の賀来神父の元へ懺悔しに来るシーンがある。 「このぼくをあわれんでくれ。地獄へ何度落ちてもあきたらないぼくだ」 教会の表には、犯罪者を捕まえようと、多くの刑事やパトカーが並ぶ。 そこをあえて逃がせというのだ。 美智夫は、この賀来神父が、絶対に自分を裏切らないと思っている。 案の定、賀来は彼を警察に突き出すことが出来ない。何故なら賀来の真にしたいのは、美智夫の魂を救済する事で、彼を法の裁きに任せることではないのだから。 賀来はそんな自分を偽善さ、弱さをもまた知っている。知っているからこそ嫌悪し、地獄の業火に焼かれてゆく罪深い自分の姿を幻を夢に見るのだ、美智夫は、そんな賀来の心の葛藤と苦悩を陰からほくそ笑みつつ眺め、自分の手の内を惜しげもなく見せつける。自ら「抱いて」とすがり付き、またしても賀来を翻弄するのだ。 「あんたはぼくのものだ」と言い張り、賀来に恋して近づいて来た女性を、無理矢理に自分のものにし、時には賀来を自分の共犯者に仕立て上げ、神父を辞めさせまい、自分に繋ぎ止めておこうと、あの手この手で画策する美智夫に、そんな彼を「悪魔」とののしりながらも、関係を断ち切れずに、ずるずると流されるままになっている賀来神父。 ここまで読むと、腐の皆さんの多くが気付くと思う。 そう、美智夫と賀来の関係は、ものすごくBLの神父物としての王道に近いのだ。 もちろん、全体のストーリーや設定上、この二人の間には、多くの犯罪が付きまとう。しかし、不本意ながらも、身体を差し出されればそれを拒みきれず快楽に溺れ、それもまた罪深いと感じる賀来神父の姿は、受け攻めどちらにしろ、ほぼ完璧理想的なBL神父像のように私には感じた。 行為中、「愛している」「ぼくのそばから離れちゃいけない」と賀来にささやく美智夫には鬼畜な執愛すら感じる。 あの島での惨劇の前夜。当時不良グループの一員だった賀来は、まだ小さかった美智夫を無理矢理押し倒した。 美智夫は当時の事をこう語っている。 「あの時 あんたはぼくの服をぬがせて床におしつけた こわいとはおもったけど あんたには抵抗できない何かがあったんだ……」 ここで言う「抵抗できない何か」が16年間ずっとこの二人を微妙な位置に保っているキーワードに違いない。美智夫は無論、賀来もそれは感じていたはず。だから彼は神父を辞めることが出来ないのか。 「あんたがペニスをだした時 なぜかクスクス笑っちまった お医者さんごっこをはじめるのかと思ってねぇ……… それがこんな状態になっちまったきっかけさ……罪作りだなあんた…」 ご存知の人も多いかも知れないが、「MW」は2009年、玉木宏、山田孝之主演で実写映画化される。それに伴い、近々本屋にも、この「MW」原作本がずらっと平台に並ぶかも知れないし、読んでみようという新しい読者も増えるだろう。 その際、腐の皆さんは、是非ともこれをただのピカレスクでなく、どうぞ腐った視点から、この二人の関係を思う存分深読みして欲しいと思うのだ。そうすれば多分、この壮大なドラマを、より深く味わいつくせるのがはないだろうか……と、私は半ば確信している。
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